第133話 アヤメ、フワワシティへ行くその1

アヤメは今移動中。

窓から外を眺める。

うわー。

凄い勢いで景色が後ろへ飛んでいく。

どんな速度で移動してるの。

こわっ。


隣にはキキョウ主任。

書類を抱えて目が血走ってる。

どれが先かしら。

ああっこれは急ぎで支店長に見てもらわないと。

ブツブツ

アヤメでも声が掛けられないほど鬼気迫る雰囲気。


どうしてこうなったんだっけ?


昨日の事だ。

キキョウさんがいきなり叫び声を上げたのだ。

迷宮都市冒険者組合の主任、キキョウさん。


「見つけたー!。

 支店長、もう逃がさないわ」


キキョウさんは情報端末の有る部屋から出て来た。

魔道具情報端末。

『失われた技術』に帝国の魔道具技術、王国の研究者の成果。

全てが注がれたとか言うシロモノ。

アヤメには理解が及ぼないナゾのスグレモノ。

情報端末が大陸中の冒険者組合の端末と繋がっている。

アヤメ達が受付業務で使ってる記録端末はその子機だ。

簡単な検索や決められた範囲の打ち込みしか出来ない。

アヤメは迷宮のドロップ品買い取り価格を調べるのに使ってる。

後はどの冒険者が何の依頼を達成したか記録。

親機の情報端末はもっと色々出来るらしい。

けどアヤメは触っちゃ駄目。

使っていいのは主任以上。

部屋から出て来たキキョウさん。

何ごとっと見たアヤメと目が合ってしまった。


「アヤメ、フワワシティに行くわよ。

 支店長を捕まえに行くの」


え。

アタシも?

アヤメは相変わらず運が悪い。

まわりの受付嬢を見回すとみんな知らんぷり。

手元の端末を眺めたり、冒険者さんと必死の打ち合わせ。

マジメに仕事してるフリ。

キキョウ主任が奇声を上げてる時に目を合わせたりしちゃダメ。

みんなそのくらい分かってる。

いや、アヤメだって知っていたのだ。

でもつい見ちゃうじゃない。

クッソー。

みんな要領がいいな。


「えーと、キキョウさん。

 フワワシティは今、人が多くて。

 簡単には行けないって聞きますけど」

「そうなのよね。

 うーん、良し。

 高速馬車が今特殊な運行をしてるハズ。

 そこに捻じ込みましょ」


「アヤメ、高速馬車が今度いつ来るか調べて」


アタシがやるの?


運よく。

いや、運悪くかな。

高速馬車はちょうど迷宮都市に居た。

翌日には出ると言う。

本来、迷宮都市→『野獣の森』付近→女神教団の聖都テイラーサ→迷宮都市。

そんなカンジで3点を回転して移動してる馬車。

今は特殊運行。

フワワシティを中心に動いてる。

迷宮都市→フワワシティ→テイラーサ→フワワシティ→迷宮都市→フワワシティ。


だけど馬車は予約でいっぱい。

とても乗れない。

ところがキキョウさんはどんな交渉をしたのか。

二人分座席を手に入れてしまった。

いや。

アタシの分は別に。

乗りたがってる人は他にたくさんいるみたいですし。

良かったんですけど。

とはキキョウさんに言えない。


そしてアヤメは今馬車の中に居るのだ。


まあいいか。

フワワシティ。

アヤメだって興味が有る。

もう一ヶ月以上前になるだろうか。

新しく出来た町。

一日で出来たと言う。


町って一日で出来るもんなの。

村が有ってだんだん発展してきて町になったりするんじゃないの。

そう思うアヤメ。

だけどフワワシティは一晩で出来たらしいのだ。


『野獣の森』が移動した。

帝国領内に有った迷宮。

それが国境を越えてどの国ににも属さない場所に移動したらしい。

迷宮が移動。

その言葉の意味もアヤメには良く分からない。

迷宮って動くモノなの。

『地底大迷宮』は動かないと思うけど。

他の迷宮のコトは知らない。

『野獣の森』だし。

動物みたいに動くのかしら。


知り合いの冒険者さんに言わすと便利になったらしい。

前は帝国の町ベオグレイドに行くしか無かった。

あそこは帝国の都市。

入ると入都市税がかかる。

フワワシティは無税。

冒険者だけでは無い。

商人だろうが亜人だろうが入るだけなら税金は取ってないと言う。


冒険者証を持ってれば無料で泊まれる宿泊所も有る。

ザコ寝じゃなくて個室が割り当てられるらしい。

さすがに狭いらしいけどベッドまで付いてる。

破格のサービス。

一度様子を見に行こうか。

そんな冒険者がたくさんいるのも当然。


フワワシティは全て木造の建物。

新築でキレイ。

風情が有る。

森も近い。

植物が多くて空気が美味しいと言う。


ベオグレイドの町は石造りで整然としている。

冒険者は言ってた。

キレイはキレイなんだが。

落ち着かないぜ。

冒険者には向かねーよ。

偉そうな黒ずくめはやたらウロついてるしな。


黒ずくめってのは帝国軍の事だ。

ベオグレイドは国境付近の町。

軍の駐留基地が有る。

兵士には態度が悪いのも多いらしい。


その分治安も良いから。

それはそれで良いんだけどよ。

ああ、フワワシティの方も治安は良いぜ。

なんせ町長自らパトロールしてるんだ。


フワワシティの町長。

美しいダマスカスの鎧に身を包んだ戦士。

エリカ・ルメイ。

まだ若い女性らしい。

きっとスゴイ人なんだろうな。

憧れてしまうアヤメだ。


ルメイ商会の会長の親族らしい。

貴族でもある。

町を切り盛り出来るだけの教育を受けてるのだろう。

もちろん、本人も努力をしてるハズだ。

冒険者としても活躍してる。

剣士として『野獣の森』に挑みLVは20越え。

聖者サマを護る守護者。

聖者サマから町長にと指名された。

本人は私などが町長なんてと断っていたと言うウワサ。

しかし是非にと聖者サマに言われ断れなかったらしい。


カトレアさんみたいな迫力ある姉御肌タイプかな。

それとも。

キキョウさんみたいな落ち着きある切れ者タイプ。

今はまったく落ち着いてないけど。

どちらにしろ、キレイな人なんだろうな。

本人がパトロールしてるなら見る事出来るかな。


聖者サマ。

この人もウワサの人だ。

白い衣を纏う男性。

背にはペガサスの意匠。

ペガサスと言えば聖なる獣。

神様の乗る馬。

自分を神様に使わされた存在だと名乗っている服装。


どんな方なんだろう。

アヤメには想像もつかない。

奇跡のような神聖魔法。

聖者サマを頼り体を回復してくれという来訪者が後を絶たないらしい。

物語に出て来るような老賢者。

100歳を越えるお年寄り。

見ただけで震え上がる恐いジジィ。

それとも。

優しい空気みたいなお爺さん。


フードを深く被り、顔は側近の方以外見た事が無いらしい。

やっぱりコワイ老人かな。

それとも異形の亜人かも。


亜人の村。

元々『野獣の森』の裏に有ったらしい。

訪れた者も少ない不思議な村。

『野獣の森』がいきなり移動した。

その時一緒に移動したというウワサだ。

それがフワワシティの母体になってる。

そんなウワサも有る。

 

亜人には特殊能力を持つ者も多い。

そんな人間が多数いた。


『野獣の森』が移動した。

天変地異だ。

軍だって様子見する。

翌日になって帝国軍が見に行ってみれば。

そこには多数の建物。

町と呼ばれるクラスの建造物が出来ていた。

いくら木造とは言え一晩で出来るハズは無い。


帝国軍が怪しい町、危険な存在として攻撃を仕掛ける。

そんな危機一髪な事態も起きかけたらしい。

なんせ帝国領の目と鼻の先に新しい町が出来たのだ。

帝国軍が侵略と解釈しても不思議は無い。

だが、町には既に母なる海の女神教団の人間が多数訪れていた。

聖女エンジュ様もいたのだ。

聖女様が教団の人々と共に聖者サマに会いに来たのだと言う。

いくら帝国軍でも教団の人々、聖女エンジュ様を攻撃は出来ない。


そうこうしてる内に謎の町は宣言した。

ここは新しく出来た町、フワワシティ。

『野獣の森』探索する冒険者の為の町。

どの国にも属さない。


これで冒険者が多数フワワシティに向かった。

ベオグレイドから『野獣の森』探索していた冒険者達。

『野獣の森』に行けない事には干上がってしまう。

迷宮に行くにはフワワシティからしか入れない。


更には商店。

ルメイ商会の会長その人が陣頭指揮を執った。

温泉と食堂一軒。

それ以外お店が何も無かった町にあっという間に商店が立ち並んだらしい。


ベオグレイドから移動した商店も多かったらしい。

帝国として本当は見逃せない事態だっただろう。

帝国から住民が、商店が次々出ていくのだ。

文句の一つも付ける。

戦争になる可能性だってあった筈。

だけど帝国内もそれどころじゃなかった。

その国境のすぐ近くの山。

鉱山が有った場所。

そこに迷宮が発見されたのだ。

『鋼鉄の魔窟』。


鉱山内では魔獣が出る。

以前からそんな話は有ったらしい。

坑道内でバケモノに襲われた。

暗い坑道内でのハナシ。

見間違いだと考えられてきた。

と言うのが帝国の発表。

イイワケ。


王国や冒険者組合は反発している。

以前から分かっていたモノを隠していたのではないか。

迷宮からは価値あるドロップ品も多数出る。

それを独占しようとしていた。


現在、『鋼鉄の魔窟』は“動く石像”“石巨人”“鉄巨人”で溢れかえってる。

それ以外の魔獣も多数発見されてる。


帝国軍に言わせれば。

こんな多数の魔獣が出ていれば、今まで隠す事が出来たワケも無い。

鉱山で有ったモノがいきなり迷宮になったのだ。

王国こそどうなんだ。

王国で『竜の塔』が発見されたと言う。

本当に最近発見されたのか。

以前から分かっていて隠していたのではないか。


泥試合である。

醜い言い争いだ。

賢い者ならいつまでも続けてはいられない。


まずは実際に魔獣が出る迷宮への対処。

発表をして冒険者を募る。

『鋼鉄の魔窟』付近も『竜の塔』付近も。

新しい町を作る。

帝国領、王国領では有るがそこは自由領土。

冒険者の為の町。

冒険者により落ち着くまでは帝国軍、王国軍も手を貸す。


王国はすぐ落ち着くだろう。

西方神聖王国迷宮冒険者部隊。

王国の第一王子レオンが率いる部隊が『竜の塔』に向かった。

冒険者チームの功績世界第二位。

実力者揃い。

問題は無い。


問題は帝国側だ。

疑問が大きいうちは冒険者組合だって積極的に力を貸さない。


帝国内である貴族が責任を取らされて処断された。

鉱山の持ち主の領主、貴族。

以前から稀に出ていた魔獣を見間違いとしてきた。

そのミスの責任者。


疑問は残るモノの一応のケリは着いた。

そんな処。


ベオグレイドに居た冒険者達が移動した。

半数は『野獣の森』へ。

半数は『鋼鉄の魔窟』へ。


帝国内に有る小国の軍隊も積極的に冒険者登録をしている。

『鋼鉄の魔窟』は貴重な魔道核が多数手に入ると言う。

稼ぐチャンス。


フワワシティには亜人が多数訪れている。

帝国のアチコチから逃げ出してきた亜人。


本来帝国領から領民が出る事を許さないと言う帝国。

しかし亜人が冒険者登録をしてしまえば。

フワワシティに行って迷宮探索をする亜人。

これを留める事は出来ない。

今は冒険者組合とも争いたくないのだ。


次々と亜人がフワワシティに訪れる。

腕に覚えの有る男性なら冒険者として『野獣の森』探索。

それ以外の人物も町は人手不足。

フワワシティは大歓迎。


フワァー。

アヤメはため息をつく。

フワワシティに行くため一夜漬けで噂を聞いて来た。

いろんな話がたくさん有って大変。

頭がパンクしそう。

国際関係なんかはアヤメの専門外。

どこまでホントウだか。


「キキョウさん。

 支店長はフワワシティの冒険者組合に居るんでしょう。

 フワワシティの冒険者組合なんていきなり人が増えて大変な騒ぎなんじゃないですか。

 簡単に支店長を連れて帰れるんですか」


「知らないわ。

 フワワシティは大変かもしれないけど。

 迷宮都市だって大変なのよ。

 マリー支店長は迷宮都市の支店長なのよ。

 迷宮都市の面倒見ないで何やってるの。

 って話でしょう」


まあそれもそうだ。

ずっと支店長不在で、キキョウさんが業務の肩代わりしてたのだ。

キキョウさんの目が血走るのもムリは無い。


にしても『野獣の森』か。

行先は『野獣の森』付近の冒険者組合。

あいつの顔が見れるかな。

『野獣の森』に行くと言って出てったあいつ。

この騒ぎに捲き込まれたりしてないかな。

逢えたら少し優しくしてやろうかな。


【CM】

くろの小説、宣伝です。

次回予告とCMはセットみたいな。

『ゾンビと魔法少女と外宇宙邪神と変身ヒーローと弩級ハッカー、あと俺。』

https://kakuyomu.jp/works/16816452221149439173

『ゾンまほ』は一話千文字程度、毎日更新に挑戦中

『クズ…ってみた』は第一部完結が見えてきました。後3話です。



【次回予告】

マリー支店長は母なる海の女神教団のエライ人と昔からの知り合い。その縁で良く女神教団の聖都テイラーサへ出かける。冒険者が本職じゃない教団の戦士達への手ほどきやら何やら。半年に一度、期間は一ヶ月くらい。その分、女神教団からは迷宮都市に腕利きの神官が派遣されてる。治療院に人手が多い。大怪我する冒険者さんが助かるのだ。

「母なる海の女神教団への出張よ~。キキョウちゃんも知ってるじゃない」

次回、マリーゴールド、弁解する。 

(ボイスイメージ:銀河万丈(神)でお読みください)

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