第116話 ケロ子とマリーゴールドその2


「では亜人どもが魔法効果の有る防具を持ち込んでると言うのか」

「はい、その様です」


秘書官アイリスは報告していた。

相手は帝国軍ムラード大佐。

魔法効果の有る防具は希少価値が高い。

しかし最近ベオグレイドの街のルメイ商会が常に在庫を持って販売しているのだ。

アイリスは大佐に魔法効果の有る防具の出処を調べるよう言われた。


ルメイ商会に出入りしてる怪しい人物はすぐに判明した。

女冒険者エリカ、そのチームメンバーと亜人らしき少女。

冒険者の中ではそれなりに知られた女性。

派手なダマスカスの鎧を身に着けた女戦士エリカ。

クラス:ウイングファルコン。

若手冒険者の注目株。

冒険者の間でも評価はマチマチ。


「金持ちの道楽さ。

 見たかあのダマスカスの鎧。

 あんなの若手が買える訳ね―じゃねーか。

 実家が裕福な商人なんだとよ。

 そんなのが冒険者になるんじゃねーよ。

 ふざけやがって」


「19歳にして既にLV20。

 努力無しには不可能な事だ。

 毎日のように迷宮に行ってバケモノと戦う。

 口で言うほど簡単な事じゃない。

 金を持っているからと言って魔獣は遠慮してくれない。

 金持ちに遠慮するのは人間だけだ。

 魔獣を退治してLVを上げている。

 実力が有る何よりの証明だ」


冒険者に詳しくないアイリスにはどちらが正解とも言えない。

敢えて言えば後者の方が筋が通っている気がする。

前者は嫉妬の感情が混じっているだろう。

このエリカが最近は亜人の村に入り浸っていると言うのだ。

チームメンバーの商人と背中に箱を担いでる亜人らしき少女。

この二人と共に亜人の村からベオグレイドに来る。

するとルメイ商会の魔法防具の在庫が増えている。


「商会の人間とチームメンバーのミチザネが価格の相談をしていた所も目撃されています。

 間違いないでしょう」

「その女が亜人どもから手に入れてると言う事か」


「そうかもしれませんが、

 どちらかと言うと亜人の方が主体やもしれません」

「亜人がか」


そう言うムラード大佐の顔には嘲りの色が見える。

蛮族風情に何が出来る。

そういう表情。


「このところ、亜人の村が急速に発展しているそうです」


以前はあんな場所に行くヤツはいない。

そんな風に言われていた場所。

しかし最近は冒険者グループが幾つか訪れている。

以前は泊る場所も店も無かった。

最近では無料の宿泊所が用意され、温泉に食事処まで出来たと言う。

食事処は安くて旨い。

店員は若くて美人の女性ばかり。

そう聞けば一度くらい行ってみようかと思う冒険者も多い。


「亜人の村が発展しているだと。

 店が造られた。

 アヤシイではないか。

 そんな金をどこから用意した。

 魔法防具を売って手に入れた。

 そういう事だな、アイリス」


ムラード大佐が言う。

最近苛立っている大佐。

情報部の少佐が近くに居るのが気に入らない。

更に官給品の横流し、軍の魔法防具を商人に売って小遣い稼ぎをしていた。

それが売れなくなったのである。

その苛立ちのぶつけ処を見つけたのだ。


「よし、出動するぞ。

 亜人の村だ。

 密貿易で魔法武具を売って稼いでいる。

 犯罪者どもを一網打尽にするぞ」

「出動ですか」


いきなり軍を動かすとは。

まだアイリスが噂を聞いただけ。

何の裏も取れていないのだ。


「あそこは一応帝国領では有りません。

 軍をいきなり動かすのはどうでしょう」

「そうだ。

 帝国領民じゃ無い者が勝手に帝国に商品を持ち込み利益を上げてるのだ。

 当然、密貿易だ」


自分が大佐にした報告で亜人に対して軍が出動する。

アイリスとしては少々気になる。

ムラード大佐の事だ。

自分の邪魔をしていたのが亜人達と思った時、何をやらかすか。

アイリスは嘘は言っていない。

しかし告げ口をしたような後ろめたさが残る。


「……ベオグレイドの街に品物を持ち込んでいるのならば

 門を通る時税金を払っている筈です」


税金を払って正規の商会に持ち込んでいるなら何の問題も無い。


「門番の兵士どもは何をしてるんだ。

 おい、門にいる兵士達の隊長を呼べ」


大佐の反応はおかしくない。

魔法防具を大量に持ち込んでいる人間がいれば報告位は有る筈だ。

亜人ならば徴収した税金も馬鹿にならない金額。

アイリスは少し安心する。


「はい、すぐ呼び出します」




亜人の村、人気の少ない空き地にショウマはいる。


「…本当に教えても大地の神は父さんだよ教団の本部に行かなきゃ意味無いのよ」


マリーさんはそう言う。

けどとりあえず基本は教えてくれるらしい。


「ケロコちゃん、靴脱いで」

「クツですかっ?」


「うん、素足で地面を踏んで大地の力を感じるの。

 慣れて来れば靴を履いてても出来るようになってくる」


ケロ子は着替えてる。

革鎧が破れたので今はゆったりした布の服。

破れた革鎧の女戦士、ちょっとエロいカンジ。

写メ取っておけないのが残念。


「足を踏みしめて静かに深呼吸。

 ケロコちゃん『鎧通し』は使える?

 ならそんなカンジよ」


「地面に力が有るのが分かる?

 この大陸を支える大地の力。

 自分の力じゃなくて大地の力を借りる。

 そんなつもりで唱えるの」


『我が肉体は固き岩なり』


ショウマからは何も変わったように見えない。

そのままのマリーさん。

腕と足を大胆に出した革鎧。

革紐と鎖が巻き着いてる。

残念がら革鞭とチェーンを手足に戻してる。

でもそこから素足や二の腕見えてるのだ。

素肌の方に視線吸い寄せられてる。


「!

 スゴい。

 マリーさんの体に力が溢れてる。

 大地の力がマリーさんを覆ってる」


ケロ子からは何か別のモノも見えるらしい。


よしっ。

ケロ子もやってみるっ。

両足に力を入れる。

地面を踏みつける。

素足で踏む地面は少し冷たい。

今は初冬なのだ。

幸い地面に小石なんかは無いけれど。

雑草が生えてる。

草を踏む感触、少し湿ってる。


分からないっ。

どうすればいいんだろうっ。

地面に力、それは分かる気がする。

足で踏むと撥ね返す力を感じる。

そのまま地面に立ってる。

少しづつ足の裏に触れてる土が温かくなってくる。

その先に何か有る。

感じるっ。

けどそれをどうしたらいいのっ。


はぁはぁ。

ケロ子の息が荒くなる。


「うん、今日はそこまで」


マリーさんが言う。

ショウマが見てもケロ子は疲れてる。

立ってるだけなのに顔は汗だく。

森の空気は冷たい。

風が吹くとフードを被ってるショウマでも寒いくらい。

なのに薄い布の服を着てるだけのケロ子が汗をかいてるのだ。


「でもまだ出来ないですっ」

「あのね…当たり前よ。

 奥義なの、一日で簡単に出来るコトじゃないの。

 それに教団本部に行って認められないと」


「でもケロ子ちゃん。

 大地の力感じたでしょ。

 凄かったわ、普通あんな簡単に行かないのよ」


「思ってる以上に疲れてるハズよ。

 今日はゆっくり休みなさい」

「はいっ」





夜だ。

女冒険者エリカは薬師コノハの家にオジャマしてる。

エリカと魔術師にして商人のミチザネ、忍者のコザル。

晩ごはんを食べに来てるのだ。

普段、ショウマの家でご馳走になる事が多い。

けど今日はケロコさんが疲れてるらしい。

夕方から寝てしまったと言う。

コノハとサツキさんに頼んで夕食を一緒に食べるエリカ。


「すいませんな、三人もおしかけて。

 ミチザネがベオグレイドで購入して来たお茶です。

 お礼と言っては何ですがよろしければどうぞ」

「いいんですよ。

 人数多い方が楽しいわ」


サツキさんが答える。

エリカは遠慮なく既に食べてる。

たまにコノハの家に泊まりに来てるエリカ。

もう親戚感覚なのだ。


「お前、ちょっとは料理を手伝うとかしろよな」

「うるさいわね、なんでアンタまでいるのよ」


チェレビーだ。

冒険者にして薬師。

昼間はサツキたちを手伝って薬を作っている男。


「誘われたんだよ、サツキさんに」

「そうですよ、多く作るんなら6人分でも7人分でも変わらないわ」


「俺はちゃんと料理も手伝ってるぜ」

「そうなんです。

 チェレビーさん下ごしらえを手伝ってくれて。

 意外と器用なの」


「まあな。

 料理も薬作りも一緒だ。

 手順を確認して、めんどくさがらず丁寧に。

 それだけさ」

「薬作りと一緒なワケないでしょ。

 アンタ、眠り薬とか混ぜてないでしょうね」


「この野郎、お前の皿にだけ毒入れてやりゃー良かったぜ」


賑やかな食卓。

コノハはタマモにもご飯をあげる

人間と同じご飯。

“妖狐”のタマモ。

もうコノハは知ってる。

彼女はお姉さんなのだ。

でもその事はナイショ。

いつかショウマさんが話してくれる。

それまでは秘密。


ピクン。

何かにタマモが反応してる。

魔獣が溢れ出してきた?

『野獣の森』から亜人の村へはしょっちゅう魔獣が溢れ出す。

でも多分違う。

魔獣が出たならタマモは喉の奥で唸る。

警戒の音。

今は耳がヒョコヒョコしてる。

少し気になる。

その位の反応。


コザルが家から表へ出る。


「コザル、どうした」

「誰か村の方へ近づいてくる」


「こんな夜にか」


コザルと一緒に家を出たミチザネ。

ミチザネが首を捻る。

亜人の村に来客は少ない。

ミチザネが引き込んでる冒険者。

流れの商人。

それにしても今は夜。

ベオグレイドの街なら街灯も有る。

村は真っ暗。

明かりが有るのは見張り台くらい。

わざわざ夜に村へ来る用事があるとは思えない。


「ベオグレイドからの道を通ってくんのか?」


チェレビーも家から出て来る。


「コザルが様子を見てくる」

「ミチザネも行こう」


ミチザネは『明かり』を使う。

暗かった辺りが照らされる。


「けっ、もう夜だってのにご苦労さんなこった」


ブツブツ言いながらチェレビーも付いてくる。


村の入口へ向かう三人。

もう一人現れる。


「よう、なんか荒事か」


楽しそうに言う男。

刀を二本持っている。

事件の気配にニヤニヤ笑う。

侍剣士タケゾウ。


「まだ、揉め事と決まったワケじゃねーよ」

 

チェレビーが応える。


「もう夜です。

 通常の用事とは思えませんね」


更に一人。

帽子を目深に被った男。

革マントから弓が覗く。

弓士ムゲン。


「そうだな。

 この村に来客は少ないぜ」


又一人現れる。

大柄な男、斧を持ってる。

普段から強面の顔が闇の中で凄みを増してる。

村の戦士のリーダー、キバトラ。


「3人だな。

 2人は鍛えてる。

 1人は…一般人のようだ」


忍者のコザル。

この暗闇の中でも見通す。

離れていても動く音を聞き分ける。



「2人か、オレがやるぜ」


タケゾウは体を軽く動かす。

準備運動。


「まだ、揉め事と決まっちゃいねーよ。

 アンタいきなり斬りかかったりするなよ」


チェレビーが諫める。

タケゾウは冗談じゃなく斬りかかりかねない。


ムゲンはミチザネに訊く。

ミチザネは定期的にベオグレイドに出入りしている。

ベオグレイドからやってくる客なのだ。

関係が有りそうなのはミチザネだろう。


「ミチザネ殿心当たりは?」

「商会の人間が来てもおかしくは有りませんが、

 夜にとは考えられませんな」


男達は黙る。

そろそろ来客も近い。

もう歩く音が聞こえてくる。

急ぎ足で来たのだろう。

荒い息遣いも聞こえる。


視界に入ったのは黒い制服。

帝国軍の軍服。


「アナタ方は…」


ミチザネは見覚えが有る。

帝国軍の兵士。

ベオグレイドの門番。

鋭い目の女隊長その部下の兵士達。


ムゲンは見ている。

2人は男性兵士。

1人は女性。

この女性は。

見間違えるはずが無い。

何故ならその女性は結婚の約束をした相手。


「まさか…アイリス?」

「私の名を何故…」


女性は驚いた顔。

発言した男を見る。

帽子を目深に被ったムゲン。

女からその顔は見えない。

しかしこの口調、声の響き。


「ムスターファ様!」


ムゲンとアイリスが見つめ合う。

再会した男と女。

しかし、その時間は邪魔される。

2人の兵士が声を上げたのだ。


「大変なんだ!

 隊長が…」

 隊長が、

 サルビア兵曹が捕まった!」




【次回予告】

災いの魔獣。何だろう。聞いた事が有る気がする。20年以上前の話。『野獣の森』から魔獣が出現した。その魔獣は近辺を荒らしまくった。体長10Mは越える大型魔獣が数体。酸をまき散らし土中に潜る。冒険者でも歯が立たない。帝国の街は原型を留めない程の被害を受けた。全てが焼け野原となった。

「やめときな。イヤなモンを見るコトになるよ」

次回、サルビアが言う。 

(ボイスイメージ:銀河万丈(神)でお読みください)

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