第61話 亜人の村の夜その2

さてコノハの家の外。

家の外はいま大変な事になってる。

鍋だ。

『イノシシの肉』を煮ている。

村人が野菜やらキノコやら持ってきてくれた。

全部ぶち込んで煮ているのだ。


大きい土鍋。

コノハの持ち物だ。

本来、薬品を造るのに使ってたモノらしい。

洗ってしまえば鍋、一緒だ。


季節は秋。

収穫のシーズンなのだ。

野菜には不自由しない。

近くには森が有って、湖もあるのだ。

森の幸が豊富。

淡水魚も持ち込まれる。


ケロ子中心に、ハチ美、コノハが手伝ってドンドン食料が作られていく。

ネギと肉を交互に串刺し。

焼いていく。

味見と言って鍋をパクついてたみみっくちゃんに調味料を出してもらう。


『イノシシの肉』は大量に有る。

ドンドン焼いていく。

鍋にも入れる。


近所の人が土鍋や食器を追加で持ってきてくれる。

野菜もドンドン差し入れがくる。

替わりに肉をバンバン振る舞う。


宴会である。

村人達が酒まで持ち込んでくる。

馬車でさんざん飲んだ葡萄酒ではない。

どぶろくみたいなヤツだ。


どぶろくは簡単に出来る。

炊いた米と米麴、水を混ぜ常温に一週間置いておく。

それだけで出来てしまう。

ヨーグルトを少量入れると雑菌が発生し辛かったりするらしい。

ちなみに試しに作る事は推奨しません。

日本で作ると酒税法に引っかかります。


みみっくちゃんは平気な顔でいくらでも飲んでる。


「自家製のお酒ですかー。美味しいですねー。作った人によってちょっと味わいが違いますねー。みみっくちゃん厳ついオッサンが作ったのじゃなくて家事の得意な奥さんが作ったのを飲みたいですよ」


ハチ子はもう酒に懲りたらしい。


「いや、勧めてくれるのはありがたいが。

 私は酒は一生飲まないと決めたのだ」


村人に勧められても断ってる。


ハチ美は適度に付き合ってる。


「ありがとうございます。これ以上は飲めませんよ」


「水を持ってきてくれますか、鍋が煮詰まっちゃうんです。

 この肉、焼きあがってます、奥の人にも回してあげて」


付き合いつつ、適当に寄ってくる人を使ってる。


ケロ子は調理をしてる。

ダンダンダンッと野菜を切ってく。

ズバズバ肉を切り分ける。

エイッと串に刺して焼く。

ウリャッと鍋に放り込む。


「へー。上手いじゃない。アンタ若いのに大したもんだね」

「これは美味しいわ、ウチの息子の嫁に来ないかい?」


なんだか奥さんたちに囲まれてる。


ピクンッ

「このキノコ食べたらダメな気がするっ」


派手な色のキノコを食材の中からはじく。


「ああ、これは食べるとマヒ起こすヤツだよ」

「誰だい!混ぜたのは? 危ないじゃないか」


食材にもカンが働くらしい。



ケロ子は気になってる。

調理も一段落した。

後は村人たちに任せても大丈夫。

ショウマが出てこないのだ。

コノハさんのお家に入ったきり。

お休み中?

ショウマさまはすぐ疲れたと言うけれど。

魔法を使う分には無尽蔵。

ケロ子はショウマが魔法を使って疲れたと言うのを見たコトが無い。

でも回復魔法は今日初めて使ったモノ。

回復は勝手が違うのかも?

お鍋持っていってあげよう。

ケロ子は器に鍋をよそう。


コノハさんの家の扉を開ける。

あれ?暗い。

『明かり』も使ってないし、ローソクも使ってない。

もしかしてショウマさま寝ちゃった?

ケロ子は家の中へ進もうとして気付く。

ショウマさまっ!

ショウマは玄関先にしゃがみこんでいたのだ。

膝を抱えてしゃがみこんでる。


「ショウマさまっ!

 具合でも悪いんですかっ?」

「ん? 

 ああ、ケロ子。

 大丈夫だよ」


ショウマさまは大丈夫と言うけれど、立ち上がろうとしない。


「ショウマさまっ、

 お鍋食べますかっ?」


ケロ子は鍋を勧めてみる。

玄関先は寒い。

表は火を焚いている。

枯れ木を組み合わせて火を付けた。

村人が手伝って簡単なかまどを作ったりもしてる。

それで鍋やら肉を温めたのだ。

火のお陰で外でも温かい。

家の中の方がむしろ寒い。


「ありがと」


ショウマさまが鍋をすする。


「温かいね。

 なんだかいろいろ入ってるじゃない」

「村の人が色々持ってきてくれましたっ。

 お魚も入ってますよっ。」


「魚!

 ああ、湖に居る淡水魚か」

「イノシシのお肉と交換ですっ。

 昼間のイノシシ退治のお礼。

 ショウマさまの回復魔法のお礼って人もたくさんいましたっ」


ケロ子がそう言うとショウマさまはまた膝に顔を埋める。

ショウマさま?

心配になったケロ子は隣に座り込んでみる。

ショウマさま泣いてる?


「これ?

 花粉症みたいなんだ。

 いきなり鼻にきたんだよ」

「カフンショ?

 大丈夫ですか」


ケロ子はショウマに身を寄せる。


「うん。

 なんかさ。

 ゴメンね」


ショウマさまはまた器から汁をすする。

汁を飲むだけで食べようとはしない。


「ケロ子さ、

 なんかいきなり頭の中にわーってくる事ない?」

「わーっですかっ?

 怒るってコトですかっ」


それはショウマさまに剣を向けられた時。

あの時はホントに頭に血が上った。

何も考えられない。

体が勝手に動いてた。


「うーん。

 違うかな。

 いきなり、今まで起きた事とか、

 誰かと話した事とか、

 テレビで見た番組、

 本で読んだ知識、

 スマホで得た情報。

 そんなのが頭の中を駆けめぐって、

 ワケわかんなくなる。

 そんなコト」


ケロ子はショウマの言った言葉が半分も分からない。

でも分かる。

ケロ子は夜寝る前にショウマさまの事を考える。

どんな事を話したか、

どんな顔をしてたか、

誰とどうしてたか。

ショウマさまで頭の中がいっぱいになる。

多分そんなコトを言ってる。


ショウマさまは目を赤くしてる。

ケロ子は少年の体に抱き着く。

ショウマさまが小さくなってるから、ケロ子が抱きかかえるみたいになる。

玄関先は寒い。

くっつけば温かい。

ショウマさまがケロ子を見つめてる。

ケロ子はショウマさまの口ににキスをする。

驚いた顔になるショウマさま。

なんで驚いた顔するの。

さっき絶対、キスしてって。

そんな顔してたのに。


「ケロ子」

「ショウマさま」


従魔の少女と従魔師の少年はキスをする。

初めて来た亜人の村で、

初めて来たコノハの家の玄関で、

既にさんざん身体を重ねた、

そんな二人は、

初めてのようなキスをする。



ショウマは宴もたけなわになってから、コノハの家から出てきた。

目立たない様に隅の方でイノシシの串焼きを齧ってる。


落ち着いてみると村人はいろんな人達がいる。

肌が緑色の人、耳が大きい人、全身に毛が生えてる人。

角らしいのが生えてる人もいれば、尻尾の有る人もいる。

亜人達が集まってる村なのだ。

獣系の人とかトカゲ系の人とか分かれてる雰囲気はない。

みんな一緒に飲んだり食べたりしている。

混血も進んでるだろうし、パッと見では普通の人間と変わらない人も多い。


そういやさっきの子供。

特殊メイクみたいに毛が生えてたのが戻っていった。

そういう事が出来る人もいるんだ。

考えてみたら、ハチ子ハチ美も普段羽根を隠してる。

飛ぶ時だけ表に出してるのだ。


何だか騒がしい。


「戦士達が戻って来たぞ」

「おう、ご苦労さん」


「いいとこに戻って来たな」

「もう少し遅かったら食い物が無くなっちまうとこだったぜ」


若い戦士姿の人たちが村に帰ってくる。

戦士達が『野獣の森』から戻って来たのだろう。

昼の間は若い連中が迷宮に行って魔獣を退治する。

そんな役割分担が出来てるらしい。


「なんだ?何の騒ぎだよ」

「肉が有るじゃないか、どこから出してきた」


「村に“暴れ猪”が出たんじゃ」

「10頭はいたの、大変だったんだよ」


「この姉ちゃんたちが助けてくれたの」

「肉を振舞ってくれたんでな、ワシらも礼に野菜を提供しとる」


「“暴れ猪”、大変じゃないか」

「10頭だって、良く仕留められたな」


ほっとけば村人が適当に説明してくれるみたい。

気付けば横にコノハさんが来ていた。

鍋をよそった入れ物を渡してくれる。

ショウマは鍋をつつく。


「美味しいね」

 

イノシシ肉かー。

しし鍋とかボタン鍋とか言うんだよね。

根菜、キノコに魚。

大量に入ってる具材。

味が沁み出してる。


「ショウマさん。

 今日は本当にありがとうございます。

 みんなもお礼を伝えてくれって」

「うん」


コノハは改めて頭を下げてる。

ショウマから見ると大したことはしていない。

そこまで感謝しなくてもとゆーカンジだ。


「食べ物も、お酒も貰ったし。

 これでチャラでいーんじゃない」

「それは…

 こちらはイノシシの肉を貰ってます。

 何のお礼も返せてません」


そんな事を言ってる二人に男が近付いてくる。

戦士姿の男達。


「コノハの客ってのはアンタか?」

「キバトラさん!」


「コノハ。帰ってたんですね」

「イタチさん。お久しぶりです」


一瞬コノハの顔が陰った気がする。

キバトラと呼ばれた男は大柄、いかにも戦士といった風情だ。

もう一人はイタチと呼ばれてた。

キバトラほど大きくは無い。

槍を背中に背負ってる。


「ショウマさん。

 こちら戦士部隊のリーダー、キバトラさんです」


獣の革らしい物で全身を覆い、斧を持ってる男。

顔つきはコワイ。

口からは牙が見えてる。


「アクション映画の俳優みたい。

 それも悪役側?」


口に出してしまうショウマだ。

意味が伝わらないだろうと思って勝手なコトを言ってる。

「ター〇ネーター」のシュ〇ルツェネッガー。

それを野蛮にした風なのだ。


「アンタ、聖者サマだってな。

 礼を言うぜ。

 オレたちのいない間“暴れ猪”を倒してくれただけじゃなくて、

 ケガ人の治療までしてくれたそうじゃねーか」

「はい。いえ、まぁ」


ショウマはハッキリしない返事だ。

初対面の顔が怖い男にどう対処したもんか困ってる。


冒険者チーム『獣の住処』の戦士達が見たら驚いただろう。

彼等のリーダーにそっくりなのだ。

キバトラはツメトラの兄に当たるのだ。


にっと笑うキバトラ。

悪役ヅラだったのが、なかなか愛嬌の有る顔になる。

さっきまで怒りの牙に見えてた犬歯もカワイイ八重歯に見えるのだ。

「ツ〇ンズ」「キン〇ガートン・コップ」のシュワちゃんになった。

そんな風に思うショウマである。


「良かったら、貰ってくれ。

 礼だ」


キバトラは何か差し出してくる。


「『獣の毛皮』は大量に有る。

 『鎌鼬の鎌』『火鼠の革』『飛槍蛇の槍』も有るぜ。

 そこそこの値で売れるシロモノだ」


どうやら今日『野獣の森』で手に入れたドロップ品らしい。


「えーっ。

 どれがどれやら分かんないな。

 とりあえず、一個ずつ貰っていい?」


遠慮を知らないショウマである。



【次回予告】

顔に獣毛が生えてる。キバが伸びてる。獣毛は斑、鼻まで少しせり出してる。

トラ男、ワータイガーみたいになってるのだ。

「うわっ。みみっくちゃんびっくりしたですよ。色んな亜人さん見ましたけど、この人コワイ顔ナンバー1、一等賞ですよ。夜道で有ったら叫び声をあげる自信が有りますね」

次回、ユキトは語る。 

(ボイスイメージ:玄田哲章(神)でお読みください) 

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