第58話 襲撃のイノシシその1

“妖狐”タマモは走っている。

背に従魔師コノハとショウマを乗せている。

先行して二人がタマモに乗って村に向かう事になったのだ。

緊急事態なのである。


ショウマをハチ美が抱えて飛翔。

コノハはタマモに乗って移動。

ところが、圧倒的にタマモの方が早かった。


タマモがビューンと走ってゆく。

ショウマが見えないところまで行ってしまった。

Uターンして戻ってきた。

コノハ一人と一体じゃ戦力不足。


「ショウマさん。乗ってください」


コノハが言う。

タマモに乗れって意味だよね

えー

ショウマから見てタマモは大きい獣だ。

2M近い獣と遭遇したらコワイに決まってる。

猛獣である。

デンジャラスなのだ。


「タマモなら大丈夫です。

 二人乗せたことも有るんです。

 早く!」


タマモは大丈夫だろうけど。

僕が大丈夫じゃない。


心の中でブツブツ言うショウマ。

でもハチ美が勝手にタマモの上に降ろしてくる。


「王よ、力足らずな私をお許しください。ご戦勝を」


こんなん言われると、

ヤダ!

怖いじゃん

とも言いだしづらい。


とりあえずコノハさんに捕まる。

コノハさんはタマモの首に捕まってる。

背中には適当な捕まる場所が無い。


タマモが走り出す。

ぐんぐんスピードアップする。

速い、速ーい。

怖い、怖ーい。

思わずコノハに強く抱き着くショウマだ。



ケロ子はタマモの後姿を見ている。

背にはショウマが乗っている。

後を追って走り出す。


「ケロ子お姉さま」

「アタシも出来るだけ急ぐっ!」


ケロ子は従魔だ。

ショウマさまを守るのが従魔の役目。


でもタマモは早い。

4本足でしなやかに走る動物。

追い付けない。

ショウマさまが見えなくなる。

もっと速く。

もっと速く。

ケロ子は自分がもっと速く走れる。

そんな気がするのだ。



『身体強化』



どんな効果か。

どうやって使うのか。

知らないスキル。

でも口に出していた。


みみっくちゃんから見えるケロ子、その体が一瞬大きくなった。

そんな風に見えた。

その直後、ケロ子は速度を上げる。

土煙を上げて爆走する。

あっという間にみみっくちゃんの視界から消えていくケロ子だった。


「よし、我らも急ごう」

「我らも急ぎましょう」


「ハチ子、ハチ美。焦る必要は無いですよ。

 戦闘になった時疲れ切っていたら、かえって足手まといと言うモノですよ」


「しかし、王を守るのが我らの仕事だ」

「王を守るのが仕事です」

 

「大丈夫ですよ。ご主人様とケロ子お姉さまがいれば大丈夫。

 我々は初めての場所をキチンと観察しながら行くです」



ショウマはタマモの速度に恐怖していた。

まわりの景色がアッと言う間に後ろに飛んでく。

向かい風が強い。

タマモの身体が走りながら上下に揺れる。

ショウマも上下に揺さぶられる。

ピッタリくっつかないと危険。

でも時間が経てば慣れてくる。

見るとコノハさんもタマモの首にピッタリくっついている。

タマモの揺れに対処するのと向かい風を浴びない様にしてる。

ショウマも倣って、身体を低くして抱き着いている。

コノハさんの身体にだ。

だってタマモに抱き着こうにも背中に抱き着くようなとっかかりが無い。

最初は夢中で抱き着いてたから気にならなかった。

けど余裕が出てくると気になってくる。

これドサクサまぎれの痴漢行為じゃない?

痴漢ダメ!ゼッタイ!。

大丈夫?

訴えられない?

気になってくるとドンドン気になってくるのだ。

ホントウはそれどころじゃないのである。

コノハさんの村が襲われてるかもしれないのだ。

しかし。

コノハの髪が揺れる。

ショウマの顔に後ろ髪が掛かるのだ。

そこからいい匂いがしている。

ショウマの手がコノハの体とくっついてる。

そこから温かい体温が感じられる。

革マントを通しても柔らかい感触が有るのだ。

コノハさん!

小柄だけど、実はメリハリの有る体形をしていらっしゃる!

なんだか心の中で敬語になってしまうショウマだ。

そんなショウマの耳に音が飛び込んでくる。


ダッダッダダッダッダダッダッダダッダダダダッ

何だか後ろから音が聞こえるのだ。

音が近付いてくる気がする。


「ケッケロ子?」


後ろから爆走してくるのはショウマの従魔少女であった。



キツネは速い。

日本に多く生息しているアカギツネは時速50KMと言われる。

人間の最高時速は45KMと言われたりもする。

これは悪魔で理論値だ。

オリンピック級の短距離選手、その瞬間的なトップスピード。

そこから計測している。

人間が1時間その速さで走れる訳はない。

実際に1時間でどのくらい走れるかと言うと8KM前後がいいところだ。

ショウマなら5分で走るのを止めるから計測出来ないだろう。

そしてタマモはアカギツネより速い。

身体の大きさが違う。

脚の長さが違う。

人間がいくら全力で走っても追いつけないのだ。


しかし。

ケロ子は既にタマモの後ろにピッタリつけている。

視界にショウマ様が入る。

よし。

このままケロ子はショウマさまに着いていくんだ。

従魔少女は足を休めない。


どうしよう。

後ろにピッタリケロ子が付いてきてる。

コノハさんから少し距離を取ろうかな。

ショウマは体を目の前の少女から離して少し上体を起こす。

すると向かい風がショウマにドッと吹き付けてくるのだ。

ムリムリィ!ムリムリィムリィー!。

また抱き着かざるをえないショウマ。

ううっ。

ショウマとコノハが密着してる。

その箇所にケロ子の視線が向けられてる。

そんな気がするのだ。

ケロ子は真剣な表情。

何か鬼気迫るように感じるのは気のせい?

ケロ子は前に絡んできた男たちに対して黒いオーラを立ち昇らせてた。

そんなオーラを出してる気がしてしまうのだ。


ケロ子は走ってる。

いくら身体強化していても全力で走り続けるのは苦しい。

でも。

これから戦闘だ。

ショウマさまが魔獣と戦うのだ。

ケロ子はそばにいないとダメなのだ。

何がなんでもついていく。

気合を入れるケロ子なのだ。


そんなこんなで一行は爆走してる。

一体と二人、そして従魔少女の一行。

その勢いは衰える事は無い。




“暴れ猪”の群れだった。

ユキトは止めようと必死だ。

数が少なければ美味しい獲物だ。

食料になる『猪の肉』。

そこそこの値段で売れる『猪の牙』。

だけど数が多い。


見張り役だったのだ。

太鼓を叩いて、村には魔獣の接近を伝えた。

見張り役は二人一組。

近くにいた兄ちゃんはやられてしまった。

村に行く“暴れ猪”を食い止めなきゃいけない。

でも不可能だ。

目の前の一頭を相手するのに精一杯。

すでに10頭近く通過してしまった。


村は大丈夫だろうか。

イチゴは無事か。

でも考える余裕は無い。

目の前に“暴れ猪”がいるのだ。

ユキトを睨みつけてる。

山刀を構える。

こいつは重さも有る武器だ。

重量を上手く使って刺せば、“暴れ猪”にも突き刺さる。

“暴れ猪”はワキから血を流してる。

見張り台の前には柵が有って、木のヤリが仕掛けてあった。

コイツラは強引に突破した。

その時の傷だろう。

だが大したケガじゃなさそうだ。


「ブゴォー、ブゴッ」


牙。

口元から生え、鼻より前に迫り出す巨大な牙。

それがユキトを襲う。

イノシシの顔を抑え牙から逃れる。

ユキトは無理やり、“暴れ猪”の背中に這い上がる。

自分の背中は攻撃できないだろ。


山刀を背中に、脇腹に突き刺す。

ケガしてる辺りを狙う。


「ブゴッ ブゴゴッ」


イノシシが暴れる。

両足で背中を挟み、踏ん張るユキト。

振り落とされてたまるか。

ユキトの顔に獣毛が生えだす。

瞳は金色に光り、口からは犬歯が伸びている。


ユキトは自分の父親を知らない。

村人は狼系亜人だったのだろうと言う。

獣化能力。

全身に獣毛が生え、筋力が上がる。

犬歯が伸び、夜目が効くようになる。

虎や狼系に多い能力らしい。

そのまま4本脚の狼になったりはしない。

毛が生える程度だ。


「ブゴォー、ブゴッ」


何度も背中を刺すが、“暴れ猪”はシブトイ。

猛り狂い、自分のケガに気付かないのかもしれない。

暴れながら、木に体当たりする。


ユキトは振り落とされてしまった。

そのまま倒れてはいられない。

すぐ起き上がる。

倒れていたら、踏みつぶされて終わりだ。

しかし“暴れ猪”はユキトに向かってこなかった。

村の方角へ走り出す。

先ほど村の方へ10頭近い“暴れ猪”が向かってる。

合流するつもりだろう。


村には妹がいる。

「イチゴ!」


ユキトは村へ走ろうとする。

が足から激痛が駆け抜ける。

振り落とされた時、足を痛めたのか。

見ると足が膝の先から変な方向を向いてる。

捻ったどころじゃない。

骨が折れてる。

“暴れ猪”が木に激突した。

その勢いでユキトも跳ばされ、木に足をぶつけたのだ。


その時だ。


「キキッ キキッ」

鳴き声が聞こえる。

宙に浮かぶ火。

火がユキト目掛けて飛んでくる。


“火鼠”!


クソッ。

最悪だ。


“火鼠”は小さい。

しかし舐めると痛い目を見る。

火を飛ばしてくるのだ。

功撃力はハンパない。

大人の戦士でも一発で動けなくなる。

ついでに全身ヤケドだ。


ユキトは倒れ込むように無理やり火を躱す。


「キキッ」

「キキッ」


こいつらは性悪な事に一体じゃない。

だいたい数体で行動してるのだ。


火が飛んでくる。

3つ。

ユキトの方に。

ユキトは目を閉じる。

足が動かない。

逃げられない。

だけど、ユキトの身体は動いてた。

誰かが彼を抱えて跳んでいた。



『氷の嵐』



なにか聞こえた。

恐る恐るユキトは目を開ける。

彼を抱きかかえているのは革鎧に身を包んだ女戦士。

知らない女性だ。

ユキトの頭が女性の身体に押し付けられてる。


「あっありがと」


言って女性から身体を離そうとする。

誰か知らないけど、助けてくれたんだ。

女性はニッコリ笑う。


「ケガは無いっ?」

「足を痛めただけ。

 大したコト無い」


言って女性の手を逃れて立とうとするけど、足から痛みが駆け抜ける。

大したコト無いワケが無い。

骨が折れてるのだ。


「イタタッ」

「もしかしてユキト?

 大丈夫?」


いま助けてくれた女性とは別の方向から声がする。

向きを変えるユキトの目に飛び込んだのは、大きい狐とそれに乗った少女。


「コノハ姉、タマモ!」


よく見るとタマモにはもう一人乗ってる。

白いローブを着た細身の体格。


「へー。

 『炎の玉』を使うネズミ。

 ヒカチューとか言うのかな?」


誰だ?!コイツ。


【次回予告】

老人、子供がみんな戦ってる。“暴れ猪”にみんな向かっていくのだ。おじいちゃんが棒で立ち向かってる。“暴れ猪”に一瞬で吹っ飛ばされてる。お婆ちゃんが鍋みたいので“暴れ猪”を殴りつける。鎌みたいの持った子供も“暴れ猪”に凶器をぶっ刺す。“暴れ猪”に蹴られた。すっ飛んでく。ええっ大丈夫?

「もうメンドクサイなぁ。向こうから来てくれないの。

 キミ、イノシシホイホイとか持ってない?」

次回、コノハは空いた口がふさがらない。 

(ボイスイメージ:銀河万丈(神)でお読みください)

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