第2話 序章その2


「モンスターと戦って、倒すと、倒したモンスターが美少女になって、倒した相手に絶対服従してくれる! そんな世界がいい!」


「…です…」


翔馬は美青年に向かって言い切った。


恥ずかしいっ、これは恥ずかしいっ、はぁずぅかぁしぃーっ


翔馬は悶えた。

悶絶した。

身体中掻き毟った。


穴が有ったら入りたいっ


翔馬は周囲を見回した。

白い世界に穴は無かった!


「クッ、穴くらい用意しておいてよ。

こういう事が起きるなんて予想できるじゃないか」


ミカエルからのツッコミは無かった。

美青年は冷静に検討していた。


「うーん。モンスターと闘ってる世界は珍しくない。モンスターが服従するのもいわゆるテイマー能力で何とかなるかな。

 問題は美少女になるところだね。これはかなりのエクストラスキルを与えないと難しいよね」

「そうか。逆に考えて少女が絶対服従する方から探すと楽にイケルかも」


「あのー、ミカエルさん…」


「うん。候補が幾つかあるんだけど。

 まず、これが楽そうかな」


ミカエルは言って、翔馬の前方に手を振って見せる。

と、そこにはスクリーンのように空間に映像が映し出された。


ウサギ耳の少女だった。

いや少女だろう。

少女かな?

ウサギ耳はいい。

あれは良いものだ。

でも鼻も口も兎だった。

全身白い毛に覆われ 服を着た二本足で直立した兎である。

これ見たことある!ピー〇ーラビット!

もちろん翔馬が思う美少女とはちょっと違う。

さらに映像は移り変わる。

虎耳の男である。

これももちろん直立して顔がチョッピリ人間じみただけの虎である。

戦っていた。

無数の虎と兎とが。

当たり前だが兎たち側の敗色が濃い。

場面は変り、虎たちの前に膝まづく兎たち。

虎たちが兎に乱暴を始める。

半分食われている兎女もいる。

大きな声では言えないが、お尻を出す格好の兎がいてそこに乗っかる虎、要するに交尾を始める虎まで映し出される。


翔馬はポカンとして口を開けるしか出来なかった。


「これ何?

 この映像見せてどうしようっての?」


「あれ、分かんないかなぁ。この世界 人間に似た生物同士が常に闘ってるんだよね。

 勝った種族に対して負けた種族は絶対服従する掟なんだ。

 ここにチートキャラな強い英雄が現れる、

 転生したキミのコトね。

 兎人間、猫人間、犬人間やらを打倒し、征服する。

 すると兎美少女、猫美少女、犬美少女がキミに絶対服従するワケ

 どう? かなり近くない?」 


「イヤ!違う!違う違う!ちぃがぁうぅー!」


翔馬は心の中で叫んだ!

もちろん口からも大声で叫んでいた!


「う~ん、ダメかぁ。

 これだと君を強くするだけで条件叶うから、相当強いスキル与えられるんだけどなぁ」

「イヤ。本当に無理なんで、ゴメンなさい。

 っていうか虎人間、兎少女喰ってたから。

 少女喰うとか無いから! 

 本当に一遍もそういう欲望無いから」


「じゃあ、やっぱりこっちかな」

またミカエルが空間に手を振る。

おなじみ空間映像である。


「今度は世界にダンジョンが有って、そこを探索してモンスターを退治して生計を立てる人たちがいる」


「おおっそれだ。それそれ。そぉれぇーっ!」


映像に映し出されるのは、見たことがあるような巨大迷宮に向かう武装した冒険者たち。

冒険者がモンスターと戦っている。

何頭も倒されていくモンスター。

その中に立ち上がり、冒険者を見つめるモンスターがいる。

それを受け入れる冒険者。

杖を持ち軽装備に身を包む男だ。

モンスターが彼の仲間になる。

すでにモンスターを仲間として従えている冒険者も映し出される。


これである。

翔馬が思い描くイメージの世界そのままだと言っていい。


「テイマースキルを持つ者が倒すと退治されたモンスターが仲間になるんだ。

 絶対服従とまではいかないみたいだけど、そこはテイマーとしての腕次第だね。

 どうだい? 雰囲気は近いと思うんだけど。」


「これ。絶対これ」

翔馬は即答する。


「分かったよ。

 そいで美少女になっての部分が問題なんだけど、

 テイマーは自分の従魔になったらそのステータス・スキルや装備を多少変更できる力があるんだよね。

 ここんとこエクストラスキルを創造して『従魔を美少女にする』にしちまおう。

 けっこう無理やりだけど実行可能だと思えるのはこの方向くらいだね。」


「素晴らしいっ、さすが大天使様っ。最初金髪の怪しいチャラ男と思ってスイマセンでしたぁっ」

「怪しいチャラ男と思ってたんだ…」


「ただねぇ。これエクストラスキルを創造するんだ。

 だからカルマ値、ほとんど使い切るよ。

 いわゆるスッゴイ強いステータスやこれ以上の特殊スキルは不可能だと思って。

 金持ちに生まれ変わらせるくらいなら出来るけど。」


「うーん。お金は別に…後で稼げばいいし、普通の家に生まれるでいいよ。

 そうだ。なんていうか…複数の美少女と僕が一緒に住んでても怪しまれない家とか無いですか」


「この世界の常識で考えると…若い冒険者が複数の美少女と同棲も、迷宮都市に家を持ってるのもけっこう不自然だね。

 え~と、どうしよっかな。

 すでに有るもので上手くごまかすとすると…」


ゴマカスって言った! 又 ゴマカスって言った!


「ダンジョン内に隠し部屋が有るんだよね。

 それを冒険者になったキミが見つけて寝泊まりするでどうかな。

 中で5,6人くらいは不便なく生活できるよう改造しておいてあげる」


迷宮内隠し部屋…少しいいかも?


「それって近くには誰も住んでないってコトですか?

 ご近所トラブルゼロ?

 夜中にゴミ出しても怒られない?」


もしかしてサイコーじゃない?


「どうやらそれで良さそうだね。

 じゃぁ産まれるのは迷宮に近い村。

 普通の村人だね。

 ダンジョンに到着したら隠し部屋には辿り着けるようにしとくよ。

 ステータスは今のキミの能力そのままになる。

 それが一番カルマ値を使わない方法だ」


ミカエルは翔馬の全身をジロジロ見る。

ハッキリ言って翔馬はスポーツと名の付くものをやったことが無い。

中学で運動の時間に一度も参加しなかったのはダテじゃないのだ。

翔馬本人が命懸けでモンスターと戦うのは不可能だ。

インポッシブル!

無理いってんじゃねーよってヤツだ。


「ダンジョンで戦うのは命懸けだよ。

 子供のうちに鍛えておくしかない。

 あっちの世界で鍛えた分はそのまま能力にプラスされるから」

 

「大丈夫っす。

 仲間にした美少女に戦ってもらうんで」

翔馬は答えていた。


「…まぁいいか。

 専用装備は厳しいけど、すぐリタイアされても困るし、オマケ。」


どこから取り出したのか、杖を翔馬に差し出す。


「賢者の杖だよ。

 キミの魔力で使える魔法なら全ての魔法を覚えた状態になる。

 本来のあの世界にも有るモノだからこれ位ならあげられる。

 と言っても普通じゃ手に入らない上級装備だから大事にしてよ」 


「はいっ。ありがとうございますっ。

 一生ついていきますっ」


「もう翔馬くんの一生は終わり。

 これから別の世界で別の人生だよ」






そして


ショウマは村人の子供になっていた。

父親は猟師、母と姉が一人という一家だ。

彼の育つ村は小さい。

近くには大きな街がある。

迷宮都市と呼ばれている。

迷宮があるのだ。

そこから魔獣が溢れてくる。

常に迷宮におもむき退治する人たちがいなければ、魔獣が跋扈する世界になってしまう。

そのため迷宮で魔獣と戦う職業の人たちがいる。

彼らは冒険者と呼ばれている。

冒険者たちが迷宮から戻り生活するために迷宮近くに街が造られた。

それが迷宮都市だ。


そんな話を聞かされてショウマは育った。

彼の名前はショウマと名付けられていた。


「「ステータスはそのままだ」とか言ってたからなぁ。それが関係してるのかも」

ショウマは相変わらず口に出している。


かれはこの世界に転生して逞しく成長…

していなかった。

ほとんど日本にいた翔馬と変わらない。

少し筋肉はついたかもしれない。


ショウマは父親の猟師仕事を手伝わされていたのである。

3日に一度、仕掛けてあるワナを点検して回る。

獲物がかかっていれば持ってきて、ワナを仕掛け直す。

父親の弓矢の手入れをする。

本来毎日しろと言われている。

周りの家では子供はみんな毎日それぞれの家庭の仕事を手伝っている。

でもショウマは3日に1度と決めたのだ。

父親が切れて激高するラインがそこだと見定めたのだ。

3日に一度とはいえ山道を歩きまわっている。

さすがに日本にいた時よりは鍛えられた。



『炎の玉』

人気の無い野原でショウマは魔法を撃つ。

空中に炎が燃え上がり、大樹に向かって飛んで行く。


ドッッガッーーーーン!!


恐ろしい轟音を立てて的に見立てた大樹が吹き飛ぶ。

もしも日本でやったら騒音規制法に引っかかるレベルである。

お巡りさんが飛んでくるだろう。


「うーん、これで合ってんのかな?」

ショウマは首を捻る。


なんだか派手過ぎない?


『賢者の杖』を装備すると魔法が使える。

頭の中に魔法の名前が浮かぶのである。

後はそれを唱えるだけ。


多分魔力を使っているハズだが、ショウマには良く分からない。

『炎の玉』を使ってみても疲れた感は無い。

さらに上級の魔法であろう呪文も浮かぶ。

『炎の乱舞』『吹きすさぶ風』

今のショウマで使えるのだろうか?

「キミの魔力で使える魔法なら全ての魔法を覚えた状態になる」とミカエルは言っていた。

それがホントなら心に浮かぶ呪文は全部使えるという事になるのか。


しかし試すのは躊躇ってしまう。

村から外れた場所とはいえ遮蔽物も少ない。

音は聞こえるだろう。

これより大きい音が出たら?


『ステータス』が見れないのがなー

うーん

冒険者組合とかに行ったら有るんだろうか

パっとステータス見れるギルド証とか

フツウ有るよね


村には迷宮や冒険者に詳しい人間はいなかった。

もちろんショウマに訊き込みなど出来ない。

母親が訊いてその結果を教えてもらったのだ。


「ショウマ兄ちゃん…」

おずおずとした声が聞こえる。

見ると、おとなりの娘コギクだった。

確かショウマの5つ下だ。


「今、すごい音が聞こえなかった?

 崖崩れでも起きたのかと思ったよ」

「いや。なんか遠くで音がしてた気もするけど、分かんないなぁ」


隣は農家で、ショウマの家と食料の交換やらで交流も多い。

数少ないショウマが喋れる相手の一人だ。

ショウマは転生の事も、魔法の事も村の誰にも言っていない。

まずショウマはほとんど誰ともまともに喋っていないのだ。

父親とすらである。


「だって、父って人すぐ切れるんだよ。

 子供が仕事しないのとか当たり前じゃない。

 そう言ったら切れるとか、ムリ!

 だいたい児童福祉法違反だよ。

 何考えてるのさ」


母親とはギリギリ会話が成り立った。

でも魔法に関して突っ込んだ会話はしたくない。


ショウマがコギクと会話できるのは、コギクが引っ込み思案で喋らない方だからだ。

ショウマは日々村の外をブラブラする。

するとコギクが付いてくる。

そのまま1時間以上会話しない事もザラだ。

ちなみに実はショウマは独り言を言っている。

自分では喋っていないつもりだ。


「ショウマ兄ちゃん。今日は暑いね」

「うん。『そよぐ風』」

ショウマとコギクの身体を優しい風が吹き抜ける。


「あっ、涼しい。

 ショウマ兄ちゃん、ありがと」


「コギクは魔法って使えるの?」

「うん。『明かり』だけ、10分くらいは保つよ」


「そっか」


「『そよぐ風』なら丸一日使っても平気なんだよね」

夏の暑い日、試してみたのだ。

それ以外の条件で魔法を長時間使えるか、試すのは無理であった。


「だって飽きるし。

 魔力切れみたいな現象を起こすかなと思ったけど、

 気分も悪くならなかった」


『そよぐ風』は一般魔法だ。

村でも使える人は多い。

コギクの言った『明かり』もそれである。

全員使える訳ではないが、珍しいほどの物でもない。

「パソコンの接続わかんないな」

「隣の男の子が詳しいわよ、やってもらいましょ」

そういうレベルだ。

村で15年生活してるので、ショウマにもその位の検討はついている。


「攻撃魔法って聞いたことあるかな」

「冒険者の人が使うっていう魔法?」


「そうそれ。『炎の玉』とか『氷の嵐』とか」

「『炎の玉』はお話で聞いたことあるかも。なんかスッゴイ魔法なんだって」


そっかー

スッゴイかー

うーん

さらに上級魔法はどうなるんだろう?


「ショウマ兄ちゃん。ホントに行くの?」

「うん。明日出発するよ」


「でも危険じゃない? 

 だってお兄ちゃん、村で一番体力無いんだよ」

「コギク…」


事実でも言っちゃイケナイこともあるんだよ。


ショウマは明日成人を迎える。

そうしたら迷宮都市に行って冒険者になるのだ。



【次回予告】

混沌とした闇の中でも人々は秩序を求める。

秩序に逆らう者は悪と呼ばれる。

だがしかし彼らこそが世界を進歩させてきたのでは無かったか?

「やった。抜け出した。最悪だったよ。ホントにもう。普通の水準の家に生まれるって言ってたじゃん。完璧なウソだよ。だってエアコン無い家って。しかも徒歩圏内にコンビニも無いんだよ。いや異世界だからコンビニ無いのは100歩譲って許すよ。

でも夜営業してるスーパーや商店が何も無いなんて想像の範疇を超えてるよ。」

次回、ショウマが辿り着くのは何処なのか。 

(ボイスイメージ:銀河万丈(神)でお読みください)


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