52. 学園祭に向けて
学園後期が始まった。
後期は大きなイベントとして学術祭があるので、学業と共にそれに向けた準備が動き出す。
ちなみにキールとアンリの婚約は学園を卒業してから正式に認めるという話で落ち着いたらしい。両家の両親は今すぐにでもという勢いだったらしいが、そうしなかったのはアスタの心の準備期間を考えたのだろう。
あれからクラブ活動中キールが顔を出しても二人の間に割り込んで邪魔をするようなことはなくなったことからもアスタもだいぶ妹離れしようと頑張っているようだ。
「しかしアレク先輩はずいぶんあっさりと受け入れたよな、なんだかんだアスタ先輩みたく邪魔してくるかと思ったよ」
「アレク先輩は自分より強い者ならそれでよかったらしい」
寮に帰ってきたキールがユアンにそう教えてくれた。そして納得。アレク先輩より強い魔法使いはこの学園の生徒には今のところいないのだから。ある意味アスタよりたちの悪い条件であった。
「そういえば、今年の魔術研究発表会はどうするんですか?」
「いよいよ魔力がない人でも使える魔法石を発表するんですか?」
それをしたら優勝は間違いないだろう。それどころか王宮魔導士が押し寄せるかもしれない。ユアンは単純にそんなことを考えていたが。
「今年は、少しの魔力で魔法道具の威力を上げる魔法石のカットについてにする」
アスタがすでにある程度構想はできていると、分厚いレポート用紙をちらつかせる。それにはユアンだけでなくローズマリーもメアリーも驚きの表情を見せた。
「なぜですの?確かにまだ魔法陣と魔力のコントロールは難しく一般の方に使ってもらえる段階ではありませんが、せめて魔法陣を使うことで魔力がない人でも魔法を使えるということを発表なさってはいかがですの?」
しかしローズマリーの熱弁にもアスタは首を縦には振らなかった。
「ローズマリー嬢、それにメアリー嬢も、もう魔法学部で学んでいるからわかるとは思うけど、魔法陣は昔からあったのになぜ今その研究は禁止されているんだっけ」
そういえば魔法陣のスクロールがなんで禁止されたかは聞いた気がする。
「大勢で悪魔を呼び出したり、国を転覆させる恐れがあるからですわ」
でもこの研究を進めるにあたり、道具を良くも悪くもするのは人次第そこを気にしていたら魔法に発展は望めなくなる、と結論をみんなで出したはずだ。
なにか言いたげなローズマリーを遮るようにアスタに代わってアレクが口を挟んだ。
「俺もアスタもこの研究をやめろとはいわないし、ずっと黙ってる気もない。ただ、今はまだ待っていて欲しい」
「それは」
「他の魔法使いの魔力を他の魔法使いが使えるというならそれほど問題はなかったんだ、しかし俺たちは魔力のない人でも使えることをもう知ってしまった」
「だから」
「それを快く思わない魔法使いが結構たくさんいるということだ」
それでも納得いかないというように、ローズマリーがむすっとした顔をする。
「そんなの初めからわかっていましたわ」
「それでもまだ駄目だ。一生発表しないなんて言ってないだろ。もう少し、そう俺が宮廷魔法士として偉くなるまで時間をくれ」
「アレク先輩」
確かに魔法陣が禁忌に触れるならそれを学生である魔具研が発表したら、上から圧力をかけられ 研究自体打ち止めされるかもしれない。さらにそれを研究した魔具研の生徒もただではすまないかもしれない。
アレクとレイモンドは、ユアンたちが実験をしている間色々なところでこの研究をどうすれば安全に発表できるか調べてくれていた。その結論が「待って欲しい」ということならやはり第一王子が後ろ盾にいても魔法使いたちを納得させるのは難しかったということなのだろう。
もしかしたら前回の人生で街灯の発表があの時だったのも、ローズマリーの学園追放とは関係なくこういった理由もあったのかもしれない。
(歴史を変えるのはやはり難しいのか?)
「七年待ってくれ」
宮廷魔法士見習いとして二年、宮廷魔法士として五年。それだけあれば周りを説得して状況を変えて見せる。
アレクが頭を下げる。
「七年……ですわね」
頷きかけたローズマリーを遮るようにユアンが声を上げた。
「六年にしてください!」
発表から一年では間に合わない。せめて二年あればだいぶ街灯も普及するはずだ。
「お願いします」
「わかった、六年で何とかしてみるよ」
理由は聞かなかったが、ユアンの必死さが伝わったのだろう。アレクが承諾する。
「私のほうも、お父様たちにそれとなく掛け合ってみますわ」
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