23. それは一つのターニングポイント
──夢を見た。
寮の窓から眼前に広がる田園風景、その先には活気に満ちた街や港が見える。
夕焼けが海を真っ赤に染めていく。しかしその赤色は海だけでなく港や街にも広がって、そして気づけばのどかだった風景は、燃え盛る炎に飲み込まれていた。
「──!!」
ユアンの声にならない叫び声に、隣でぐっすりと寝むっていたキールが飛び起きた。
「ど、どうした!?」
脂汗でシーツがぐっしょりと湿っている。
「……大丈夫……ただの夢だ…………」
「びっくりさせるなよ」
キールが重い瞼をこすりながら再び布団に潜り込む。
一人暗闇の残されたユアンは、まだ小さく震えている体を抱きしめながら、「夢だ、これは夢だ……」自分にいい聞かすようにそう呟いた。
そうして学術祭2日目の朝は開けた。
「あれ、また来たんだ」
歓迎してるのかそうでないのかわからない笑顔を貼り付けながら、アスタが入ってきたユアンにそう言った。
「今日は一人?」
「ちょっと確認したいことがありまして」
本当ならこの時間はクラスの出し物の手伝いで裏方をしているはずだったのだが、宣伝係に頼んで変わってもらったのだ。
「だからそんな、看板胸から下げてるんだ」
「サボるわけにはいかないですからね」
「こんな人が滅多にこないとこで、宣伝って」
鼻で笑われる。
(いちいち突っかかてくるが、でも今日はキールがいないせいか、昨日のように人を睨みつけてこないぶん、怖さはなかった。でも時間もないので手短に要点だけきいてしまおう)
「魔法石の研究はどこまで進んでるんですか?」
「なに、興味持っちゃったの」
「本当に特別な契約もなしに魔力がない人でも魔法が使えたりするんですか?」
アスタがニヤリと笑う。
「知りたい?でも関係者でもないものにどうしようかな」
チラリとユアンを見ながらそんな風に言う。
「でも僕たちは魔力のないアンリさんが魔法を使うのをみたんですよ。今更……」
「まぁそうだよね。でもそれは、僕たちが三つ子だから……かもしれないだろ」
まだ何か秘密があるのか、少し含んだような言い方をする。
(そんなこともあるのか?)
「結局僕たちもよくわからないんだよ。本当に実験は成功したのか。それともアンリだから使えたのか。まぁそれでも僕はアンリさえ魔法が使えるようになったのなら全然成功なんだけどね。そもそもこの研究を始めたのだって、アンリだけ魔法が使えないのがかわいそうで始めたようなものだし」
さらりと言う。
「でも、アレクはわからないがアンリは本当に世の中のためにそれを役立てようとしてるみたいだから、僕もまだ研究に付き合ってあげているんだよ」
さらにさらりと、とんでもないこと言い出す。
「そうだ。ねっ、キミは魔力ないよね」
眼鏡の奥でその紫色の瞳が怪しく輝いた。
「ユアン・ハーリング君、キミ僕らのモル、協力者になるきない」
視線が空中で絡み合う、背筋にぞくりとした寒気が走った。
(──っ!今、モルモットって言おうとしただろ)
「そしたら、この実験が本当に成功しているのか、それとも僕らだけの絆の力のなせる業なのかがわかるじゃないか」
ニコニコとアレクが続ける。
「世のため人のためとかはどうでもいいけど、僕の考えた研究が本当に成功しているかどうかは僕も気になるところだし、キミもこの研究に興味があるんでしょ、これはフィフティフィフティの取引じゃないかな」
(いや、どう考えても僕がひどい目をみる未来しか見えないが)
しかしとも思う。
(僕が協力すれば、あの発明が早まるかもしれない)
「わかった」と返事をしようとアレクの顔をみた瞬間、言いかけた言葉を飲み込んだ。本能が警鐘を鳴らす。
(──絶対、ヤバいやつだ。それに本当にこんな偶然あるのか、もしかした他のところでも同じような研究は行われていて、そっちが僕の知る発明品を作るかもしれないじゃないか)
「一度考えさせてください」
ユアンはそう言い残すと早足に小屋を後にした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます