02. 一夜明け
「朝だ……」
もう一度目を瞑り眠りにつこうとするが、ぐっすり眠った後なので全く眠くならない。
「成仏ってどうやるんだよ!」
体を起こしながら、叫ぶ。しばらくそんなことを繰り返しながら、だいぶ冷静さを取り戻したことを自覚すると、大きく深く深呼吸しベッドから起き上がった。
ユアン瞳の色と同じ藍色の壁紙に、白を基調にした机や本棚、生まれた時から結婚するまでの18年間を過ごした部屋。
改めて確認するように、鏡に映る自分の姿を見る。
藍色の瞳。同じく青みがかった黒髪。12歳の平均にしては少し小さな背丈。なのに、他の子どもたちより一回りは大きい横幅。
(あの頃は自分のことをちょっとぽっちゃりしてるぐらいにしか本気で思ってなかったが、改めて見てみるとけっこう、いやだいぶ太っているな)
そんな感想を持ちながら、ユアンはベッドに腰掛けた。
それにしてもメアリーと再会してもう悔いは無いはずなのに……
(って、これ本当に走馬灯なのか)
本当は薄々感づいている。
人や物に触ったときの感触。お菓子の味や匂い。走ったときの息苦しさ。あまりにもリアルすぎる。
そして普通に寝て目が覚めてもまだ続いているこの状況。
(もしかして時間が巻き戻った?)
確信は持てないが、そんなことがあり得るなら、
「ギフトなのか…」
この世界には魔力を持つものと持たないものがいる。魔力を持つものは魔法が使える。そしてギフトとは、魔力の有無とは関係なく、その人物だけが持っている特殊能力、未来を予知したり、妖精や精霊という普通は目に見えないものたちと交流できたり、魔法とはまた違うその力を、教会は神様からの贈り物"ギフト"と名付けた。
いま自分に起きている事がギフトによるものなら、「教会に報告しないと……、でも、確かキールが」
ギフトを持つものはそれを授かったと同時にその名や使い方が分かるという。
キールは10才の時に<剣鬼>というギフトを発現させている。
あれは忘れもしないある晴れた日。
二人で森を探索していると突然キールが『俺<剣鬼>になった』と叫ぶや否や、いつも持ち歩いている果物ナイフをポッケから取り出すと近くの草を切りつけたのだ。
そのときは草が風圧でそよいだだけだったが、成人する頃には風圧だけで、遠くの枝ぐらいは切り落とせる威力になっていた。
だが自分はどうだ、名前もだが使い方もわからない。これでは教会に言ったところで、証明のしようがない。
「同じ状況の再現とか」
瞬間、死という言葉が浮かんで激しく頭を横に振る。
(一回限りのギフトと言う可能性もある)
(未来予知としては自分のことしかわからないなんて限定すぎる)
しばらく考えたのち考えるのをやめる。
(下手に教会に話したら一生監視が付くかもしれない、そんなことよりこのもう一度与えられたこのチャンス、僕は全力で自分の為に生かそう)
『絶対君を幸せにする。ずっと一緒にいる』
(プロポーズで誓った約束を守るためだけに僕はこの世界を生きていこう)
「メアリー!君ともう一度僕は幸せになる」
声にだしながら昨日のまだ幼さの残る可愛らしいメアリーの顔を思い出す。
「可愛かったな」
栗色のフワフワした髪、目があった時のあの引きつった笑顔。
(引きつった…?)
ハッと思い出す。
「最悪だ最悪な出会いだ」
前の人生でも、ユアンとメアリーは洗礼パーティーで初めて出会った。
最後のカップケーキに手を同時に伸ばし、そしてお互い譲り合い、半分こした。子供らしい、なんとも微笑ましい思い出。
そしてその後始まる学園生活で、お互いに食べることが好きだと言う共通点でよく同じ店で出会うことが多くなり挨拶やちょっとした情報交換をするようになっていった、そして2学年になった時同じクラスになり、一緒に食事をしたり行動を共にするようになった。
さっきまでのウキウキした気持ちが一瞬で吹き飛ぶ。
全速力で走ってきて息もたえだえにカップケーキを求める男。
カップケーキを譲ってもらい、そのまま言葉もなくポロポロと泣きだす男。
きっとメアリーの目にはそう映ったに違いない。
「絶対そう思われてる!!」
布団にいやぁーと言いながら飛び込む。
さらに昨日の記憶が追い討ちをかけてくる。
走馬灯だと思い込んでいるユアンは最後にメアリーに会えたし、とりあえず他にも心残りがないようにとテーブルに並べられていたありとあらゆる食べ物を食べられるだけ食べつくしたのだ。
「ぐあー!!!」
枕を顔に押し付け雄叫びをあげベッドの上でのたうち回る。
見られてたかも知れないと思うと恥ずかしさで顔から火が出そうだ。
「そんなの最悪すぎるだろ!!」
きっと彼女の第一印象は食い意地が張ったデブになってしまったに違いない。
「これは次会う時までに何が何でも汚名返上しなくては」
堅く心に誓うように叫ぶ。
「ダイエットしてやる。ダイエットして絶対今より格好よくなるんだ!!」
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