02 母親

 娘が、高校生になった。


「かあさん。朝だよ?」


「ん」


 夜の仕事なので、朝はどうしても起きられなかった。


「朝ごはん。できてるよ?」


 娘に起こされて、テーブルにつく。娘の手料理を食べて。再び眠りにつく。


 次に起きたとき。学校から帰ってきた娘が、家事をしている。食器を洗って。洗濯をして。掃除をして。


「あ、起こしちゃった?」


「うん」


「ごめんね」


 彼女の口癖は。


 ごめんね。


「わたし。受験なの」


「あ、そうか」


 もう高校生も終わりか。


「おかねないから、学費は出せないわよ」


 嘘だった。金はある。ただ、彼女には、大学に行ってほしくない。なるべく、何も知らないままでいてほしかった。それだけ。


「うん。分かってる。自分でお金出して大学行く」


「ばかいってるんじゃないわよ。あなたはずっとここにいるの。いいわね?」


 娘。


 無言。


「あ、おかあさん買い物行ってくるから」


 娘にはお金を一切握らせていないので、買い物は自分が行っていた。


「何か欲しいもの、ある?」


「ないよ。おかあさんが買ってくるものなら、なんでもいい」


「そう」


 起き上がる。娘が、いつも買い物に行くとき用の鞄を渡してくれる。


「おかあさん」


「なによ」


「ごめんね」


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