第7話『ステルスになっちまいやがった』


連載戯曲

ステルスドラゴンとグリムの森・7『ステルスになっちまいやがった』




 時   ある日ある時

 所   グリムの森とお城

 人物  赤ずきん

 白雪姫

 王子(アニマ・モラトリアム・フォン・ゲッチンゲン)

 家来(ヨンチョ・パンサ)



 二人身をひそめる。バサバサと音をたてて、ドラゴンが梢の高さほどのところを通り過ぎる気配がする(音と光で表現)


白雪: ……今の見えた?

赤ずきん: ううん、気配だけ。多分ドラゴン。

白雪: そう、ドラゴンよ。夕方わたしを襲った時も、半分体が透けていたけど、とうとう……。

赤ずきん: ステルスになっちまいやがった。よほど気をつけないと、不意打ちをくらってしまう。この分では狸バスも……。

白雪: どうしよう……。

赤ずきん: 仕方ない、今夜はわたしも婆ちゃんちに……。


 スマホを出そうとすると、下手よりかすかなパッシングと間の抜けたクラクション。


赤ずきん: 狸バス、あんなところに隠れていたんだ……(狸語が返ってくる)

 え、今日は特別に婆ちゃんちまで送ってくれる? 

 じゃ、白雪さんを送ってもらって、それから、ちょこっとだけ婆ちゃんと話して、それからお城まで……。

 オッケー?(狸語)え、そのかわりしばらく休業? 

 仕方ないわねえ、あんなぶっそうなドラゴンがいたんじゃねえ……。

 (白雪に)婆ちゃんに薬をもらおう、よく効くの持ってるから。じゃタヌちゃん、お願いね!(狸エンジンの始動音)


 二人、下手の狸バスに行くところで暗転、小鳥たちの朝を告げる声で明るくなる。

 花道を、王子を先頭に、ヨンチョが続き、赤ずきん遅れて駆けてくる。


王子: だから何度も言ったろう、その場で気持ちが変わったのではない。

 姫の女性としての尊厳を守るために、わたしはあえて我慢をして……。

赤ずきん: なにが尊厳を守るよ、白雪さんの気持ちはズタズタよ。

王子: それを乗り越えて自分で行動を起こさねば、一生わたし、つまり男性に従属せねばならなくなる。

 男の口づけを待って生命をとりもどすなど、女性を男の玩具とし、その尊厳を汚すものだ。

 わたしに出来ることは、男とか女とかを越えた人間としての地平から「がんばれ、めざめられよ!」と叫び続けることだ。

ヨンチョ: 王子は叫ばれた!

王子: 「がんばれ、めざめられよ!」

ヨンチョ: 「がんばれ、めざめられよ!」

赤ずきん: ……それが何やらつぶやかれるってやつね。それ、自分の考えじゃないよね。

王子: わたしのの考えだ!

ヨンチョ: 王子さまのお考えである!

赤ずきん: 影響されたわね……女王さまに? 朝の御あいさつに行ってから変だもん。

王子: ……参考にはした。しかし自分の考えではある。

ヨンチョ: 御自分の考えではある! とおおせられた。

赤ずきん: うるせえ!

ヨンチョ: おっかねえ……。

赤ずきん: 家来にバックコーラスしてもらわないと自分の考えも言えないの!? 

 女王にちょこっと言われただけでコロッと考え変わっちゃうの!?

王子: ……。

赤ずきん: わたし、昨日は自分の説得力に自信持ったけど、とんだピエロだったようね。

 さようなら、時間かかるけど別の王子さま探すわ。そして白雪さんの怪我はわたしが治して見せる!

王子: 待て! 姫は怪我をしているのか……!?

赤ずきん: ええ、森のドラゴンが成長し、夜と昼のわずかな境にも居座るようになり、

 ガラスの棺からよみがえろうとして、まだ低血圧のところを襲われた。心配はいらない、全治一ヶ月程度の怪我よ。

 それにこれからは、わたしたちグリムの仲間で白雪さんを守るから……じゃ、さよなら!

王子: 待て、待て、行くな……行くなと申しておるのだぞ!(ヨンチョに)赤ずきんをつかまえろ!

ヨンチョ: アイアイ(サー……と動きかける)

赤ずきん: (花道の途中で立ち止まり)バカヤロー! そんなことも家来に言わなきゃできないのかよ!

王子: ……すまん、わたしの悪い癖だ……頼む、もう一度もどってきてはくれないか?


 階段(花道のかかり)まで進み、手をさしのべる 

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