第4話『オリジナルではない』
連載戯曲
ステルスドラゴンとグリムの森・4
『オリジナルではない』
時 ある日ある時
所 グリムの森とお城
人物 赤ずきん
白雪姫
王子(アニマ・モラトリアム・フォン・ゲッチンゲン)
家来(ヨンチョ・パンサ)
王子: ……そうか、オリジナルでないわたしには、その結界が越せぬか……。
赤ずきん: 元気を出してください。日があるうちは、森の出入は自由です。
どうか日のあるうちに……そして白雪さんに口づけを……。
王子: それができないのだ!
赤ずきん: どうして!? あなたの口づけ一つで、白雪姫の物語はミッションコンプリート。
最後のピースの一コマが埋められ大団円を迎えられるのに!
王子: わたしにその資格はないのだ。
物語をゲームとこころえる者には、それでミッションコンプリートの大団円なのだろうが……。
それから先、わたしはあの人を妃とし、この王国を、この手で治めていかねばならないのだ。
赤ずきん: 白雪さんが嫌いなの?
王子: 愛している、心から。熱い口づけを交わし、あの人をしっかりとこの胸に抱きしめたい。
あの人を生き返らせたい。その思いで、この胸は一杯だ。
もし切り開いて見せられるものなら、この胸たち割って、この真心を、あの人にもお前にも見せてやりたいぐらいだ!
赤ずきん: それならどーーーーーーーーーしてえええええええええ!?
王子: わたしには無理なのだ、あの人を生き返らせることはできても……幸福にしてあげることができない……!
赤ずきん: どーーーーーーーーーーーーーーーーーーしてよおおおおおおおおおおおおお!?
王子: わたしには兄がいた……アニムス・ウィリアム・フォン・ゲッチンゲン。
本当はこの兄が姫と結ばれるはずだった、いわばグリムのオリジナル……。
兄は幼いころから王たるべく育てられ、また、その素質も十分であった。
その兄が昨年、病であっけなく死んだ、グリム兄弟も予想もしていなかっただろう。
そして、このわたしに、一生気楽な部屋住の次男坊と決めこんでいたわたしに王位継承権がまわってきた……。
幸い母は元気だ、当分わたしに王位がまわってくることはあるまい。
遠いその日まで、少しずつがんばれば……わたしにも王の真似事ぐらいはできるだろう。
だが、今、あんな素敵な人を妃にしたら、わたしには荷が重い……あの人を不幸にする!
赤ずきん: 要は自信がない、それだけのことでしょおがあ!
王子: 簡単に言うな! わたしはチョー理性的に言っているのだ。
毎日、王子としての公務、加えて帝王学に始まる十を超える学習。
あの兄が二十数年かけて身につけたものを、わたしはこの数年で身につけなければならない。
本番直前に成りあがった無名の代役のようなものだ。あの人を生き返らせ妃とすることはたやすい。
しかし、あの人にかまっている時間がわたしにはない。
毎日あの人の眠る森にたちよるために、わたしは毎日三十分、睡眠時間を犠牲にしている。
それでも女王である母は良い顔をせぬ。
妻にすれば公務のために何日、何週間、何ヶ月も、言葉一つかけてやれない生活が簡単に想像できる。
単に自分の醜い独占欲を満足させるだけだ。そんな人形のような扱いをあの人に強いることは、わたしにはできない。
赤ずきん: やっぱり、要は自信が無い、それだけのことよ。
王子:何度も言うな! あの人を籠の鳥にして、それでいいと言うのか!?
赤ずきん: ハー(溜息)見かけはいい男なのにねえ……。
王子: 兄とは製造元がいっしょだからな。
兄は車で言えばレーシング仕様の特別製、それにひきかえ、この僕は、ボディこそ似ているものの全てがノーマル仕様の大衆車。
それも型落ちのアウトレット。とても勝負にはならない。
赤ずきん: そんなことないわよ。
たとえ大衆車でレースに向かなくとも、家族を乗せるファミリーカー、シートが倒せたり、クッションやインテリアがよかったり、
そういう人を和ませるスペックは、レーシングカー以上よ。
王子: でも、今はその大衆車がカーレースに出ろといわれてるいるんだ!
華奢なエンジンを無理矢理強化し、軽量化のために内装は剥がされ、ロールバーのパイプが張りめぐらされて、
とても人を、それも愛する人を乗せる余裕なんてない。
赤ずきん: 何よ、弱虫! やってみもしないで結果なんてわかりはしないわ!
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