「ばあっ」


「うわっ」


 彼の顔。


 泣いている。


「あはは。泣いてる」


 彼。魂が抜けたような、顔。


「びっくりした?」


 彼は。


 とても内向的で。


「おい。え。なんで」


 自分の心の根っこのところを、自分で壊してしまう性格だから。


「どっきりです。大成功」


 わたしが。あなたのそばにいる。


「目は」


 彼。わたしのもとに駆け寄って。


「目は。見えるようになったのか」


「うん。見えるよ。あなたのことが」


 ほら。また。わたしの心配ばかりしてる。


 だから。


「あなたの顔。かっこいい」


「男の顔を知らないからだろ。これで俺の役目は終わりだ。後はあなたの人生。好きなように」


「うん。好き」


 あなたのことが。


「好きだから。キスして?」


「何言ってるんだよ。もう、俺に何かする必要は」


「泣いてる」


 彼は。


 いつもわたしの見えないところで泣いてた。


 知ってるんだ。わたしは。


 見えないけど。


 あなたのことは。


 手に取るように、分かる。


「わたしね。何もないよ。目が見えないから耳がいいとか、感覚が鋭いとか、そういこともないし。目は普通に移植だし」


 でも。そんなわたしでも。


「でもね。わたしには。あなたがいるの。わたしには。あなたが、唯一無二の、特別、なの」


 あなたがいる。わたしは。あなたが好き。


「ねえ。キスして?」


 彼の心に。寄り添う。あなたの隣にいる。わたしは、そのために。目を開いて、あなたを見つめたい。


 彼が。


 わたしの隣に座って。


「好きだけど。俺。なにも、できない、から」


「そっか」


 好きだけど、なにもできない、か。


「なにかして好きになるわけじゃ、ないよ?」


 あなたがいいの。


 やさしいあなたが。


 わたしの手を握ってくれて。お弁当を作ってくれて。寄り添ってくれる。


 そんなあなたが。


「あなたがいい。わたしは、あなたの。心に。寄り添っていたい」


 好きだから。


 手を繋いで。


 肩を抱いて。


 キスをした。


 涙の味がしたけど。気にしない。


 あなたの涙ごと。一緒にいてあげる。




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