⑥ 告白されるより最高なこと
「ももちゃん、マーティンにお返しの愛の詩書くの~?」
「夢ってば勘弁してよー」
夕暮れの栞町を、わたしたち三人は歩いてる。
「詩はともかく、お返しに電話くらいはするかな」
「あら大胆。愛の詩を電話口で披露するのね」
「せいらまで、もう」
ももちゃんとせいらちゃんはそこで、はっとしたようにわたしを見た。
「夢っち。がっかりした?」
せいらちゃんが言うけど、え?
なんで?
「星崎さんからの本が、愛の告白じゃなくて」
あぁ、そういうことか。
せいらちゃん、相変わらず気配りの子だなぁ。
ももちゃんを見ても、わたしのことなのにがっかりしてくれてるのがわかる。
わたしは、そっと答えた。
「そんなことないよ」
いきなり本で愛してるって言われちゃうのも、悪くはないけど。でも。
「やっぱり、告白は直接されたい……かなぁ」
『あなたがいると、世界が輝く』なんて、ロマンチックなのもいいけど。
わたしの理想は、ただ一言。
『夢ちゃんが好きだよ』
うん。星崎さんなら、やっぱりこれかな。
「へぇ。夢って案外シンプルなのが響くんだ」
ももちゃんに、そう言われると。
うーん、もう一言くらい、ほしい?
『夢ちゃんのことし考えられない』
きゃっ。
「いいわねーっ。大人の男の人が必死感出した告白って、きゅんとするわ」
だよねっ、せいらちゃん。
それじゃ、ついでに、こんなのも。
『落ち着かないんだ……。夢ちゃん。君を想うと』
「ねぇ、夢」
ももちゃんが苦笑い。
「やっぱり、どきどきする本みたいな言葉で告白、されたかったんじゃないの?」
「うー、1パーセントくらいは、そうかも」
それが正直な気持ち。
「でも99パーセントは、すごくわくわくしてるんだ。この本、『ローズの季節』に」
わたしは、さっきももちゃんと交換して、今はランドセルに入ってる本を想った。
「すてきな気持ちをくれる気がするんだ、このお話」
バラの花にレース、それからすてきな女の子。そのきれいな赤い表紙はわたしの好みぴったりの物語の予感がした。
星崎さんが、わたしの心が揺さぶられるものをよーく知ってくれてる。
そのことが、切ないくらい嬉しい。正面きっての熱烈な告白じゃないかわりに、そっと背中に 寄り添って守ってくれてるような、そんな感じがするの。
そう言うと、腕に優しくせいらちゃんの手が添えられた。
「わかるわ。星崎さんは夢っちの心の奥底までじっと見てくれてるのね」
ぽんっと、ももちゃんに優しくランドセルを叩かれた。
「もしかしてそれ、告白されるより、最高なことかもね」
ありがとう。二人とも。
ふふっ。
わたしは親友と親友の真ん中で、ちょっとだけ顔をうつむけた。
好きな人がいて、たまにもどかしくて苦しくて、でもやっぱり嬉しくて。
こういう気持ちを話して、受け止めてくれる友達がいる。
わたしは今、声に出して笑っちゃいそうなくらい、幸せなんだ。
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