⑥ ライバル去って、またライバル
次の文学乙女会議で、あっさり答えは出た。
「その人こそ、神谷先生のほんとうに好きな人かもしれない。せいらちゃんは、そう思ったんじゃないかな」
デートの一件を一通り報告すると、夢っちが指摘してくれたの。
「泉先生がほんとうのライバルじゃないってわかったとたんに、新たなライバル候補か……辛いね」
ももぽんが自分のことのように眉をさげてくれる。
そう。
そうだったの。
かみやんが一人で悩んでることを心配しておいて、心で頼る人がいるって知って、それもまたいやだなんて。
「なんだか……もう、疲れちゃったわ」
どう転んでもぐらつく自分の気持ちに、ついていけない。
「せいらちゃん……」
心配してくれる夢っちに笑顔を向ける余裕すらない。
ダメだわ……こんなんじゃ。
そう思ったとき、ももぽんがポケットからコンパクトミラーを取り出した。
「こんなときこそ、気分転換。物語占いでもしてみようよ」
銀の湖が揺らめいているようなコンパクトを開けると、鏡に映っているのは、肩までのカールの髪を垂らした勝気そうな女性。
「ハイ。あたしの力が必要かしら」
初めて見たわ! この方が『若草物語』の作者にして物語占いの使い手、オルコットさんなのね。
「せいらのこれからの未来を占ってほしいんだ」
真剣に言ってくれるももぽんに、なぜか呆れ顔のオルコットさん。
「あんた、また人のことなの? 海の魔女との大勝負に出て助けた彼氏のことは見なくていいわけ?」
かっとももぽんが赤くなる。
「間に合ってます! ていうか、なんでそんなこと知ってるのーっ」
「物語占い師にはそれくらいの情報集め、お手の物よ」
楽しげに喋りながらオルコットさんが、鏡に映ってる本棚に手をかざすと、一冊の本がそこから飛んで、ページを開いた状態で彼女の手に収まった。
タイトルは『飛ぶ教室』。
ももぽんが叫ぶ。
「マーティンたちの物語じゃんっ」
そう。
ももぽんの彼は、『飛ぶ教室』の本から出てきた男の子なの。ももぽんも、夢っちも好きなお話だっていうから、あたしも読んでみたいなって思ってたのよね。
「ふむふむ。『八時間目』と出てるわね」
『飛ぶ教室』は色んな出版社から出てるけど、そのなかには第一章とか二章を、一時間目、二時間目って書いてる本もあるんだと夢っちが補足してくれる。
鏡の中のオルコットさんが歌うように言った。
「せいらって言ったかしら。あなたの想い人には、とても会いたい人がいるみたいね」
答える前に、ももぽんが横から顔を出す。
「うん。それはわかってるんだよ。で、どうしたら、せいらは恋でその人に勝てる?」
あたしはあわてた。
「ももぽん、いいの。もう――」
そこで、場違いに明るい笑い声が響いた。
ももぽんが怒り出す。
「オルコットさん! せいらは真剣なんだよ」
「悪かったわ。つい。そうね。恋で、その人に勝つ、ね」
オルコットさんたらまだ笑ってる。
そこまでわたしには勝ち目のない相手なのかしら……。
「あんたたちは、少し乙女心ってものにとらわれすぎてるかもしれないわ」
どういうこと?
「恋は盲目って言葉知ってる? 違った視点から問題を見つめ直すことね。そうすれば答えは見えてくるわ」
ぜんぜん、わからないけど……。
オルコットさんはそれだけ言うと、コンパクトから姿を消してしまったの。
彼女は占っておいて、最後の解決は丸投げって聞いてたけど、ほんとだったのね。
「物語占いは、自分で本からのメッセージを読み取って、解決方法を考えなきゃいけないんだ。今回も絶対できるよ。せいらちゃん、頑張ろう」
夢っちがいつもながら健気なフォローをいれてくれる。
「だーいじょぶ! 『飛ぶ教室』が占い結果なら、あたしに考えがあるんだ!」
にこっと言うももぽんのその考えはあたしにも読めたわ。夢っちもわかったみたいで、頷いてる。
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