第256話 黄金の魂をヘッドハンティング
翌日の日曜日の夜。
俺の家で早百合さんと一緒に夕食を食べながら、進捗状況を尋ねた。
「ヘッドハンティングは順調ですか?」
「うむ。恋舞舞恋のサイコメトリーで黄金の魂を持つことが証明された者の中で、論理的な思考力と愛国民心に溢れる者たちは再度呼び出し、出馬の意向を尋ねた。見事、全員了承してくれた」
早百合さんは満足げに笑ってから、緑茶を飲み干した。
「本当に順調ですね。あ、そういえば出馬ってお金かかるんですよね? 供託金でしたっけ? 233人分てなったら億のレベルでかかるんじゃ」
「政治活動費は私が全額負担させてもらってます」
早百合さんの隣で、美稲がニッコリと笑った。
「流石は給料2000億……ていうか俺も毎月1200億もらっても使い道ないし、政治活動費って点では青桜党が最強じゃないですか?」
「ボクらの給料はアビリティリーグの運営費用にあてようと思ったけど、アビリティリーグが人気過ぎてむしろ大儲けしているからね」
言いながら、桐葉は大皿からエビの天ぷらをハシで取る。
「スター選手も何人か出てきているからな。それで早百合さん、あと何人必要なんですか?」
「あと100人は欲しいところだ。233人は過半数の議席を取るために最低限必要な数だ。出馬した全員が当選するかはわからないし、当選後の裏工作で一人でも野党に寝返ったら法案を通せない。それに憲法改正には国会議員3分の2の票が必要だ」
「465の3分の2だから310議席ですか。いくらなんでも、新政党がいきなりそれは無理じゃないですか? 野党が全然いないじゃないですか?」
「だからあくまでも理想だな。それでも、出馬者は一人でも多く欲しい。後は政治、経済、国際問題、社会問題系の評論家、作家、動画配信者を何人ヘッドハンティングできるかだ」
お吸い物を呑みながら、ちょっと考えた。
「……人気のある作家なら、当選しやすそうですね」
「うむ。真理愛の力は最終手段だ。使わずに済むならそれに越したことはない。可能な限り、正攻法で勝つのだ。特に、人気作家や評論家が出馬すれば、他の作家や評論家が『自分も』と出馬を快諾してくれやすくなる」
「ていうことは、大御所作家や評論家、動画配信者から先に声をかけるんですか?」
「その予定だ。既に、何本もの政治経済評論本を手掛けている金城伽耶氏にオファーしているところだ、む?」
早百合さんの視線が右にそれた。
自分にだけ見えるAR画面に着信でも入ったのだろう。
「噂をすれば、金城伽耶氏から返信が来たぞ…………ほぉ」
早百合さんの口元に笑みが浮かんだ。
「OKでしたか?」
「いや、断られた」
「え?」
「どうやらことはそう簡単にはいかないらしい」
――ならなんで楽しそう何ですか?
わかっている。
この人は、戦を楽しむタイプなのだ。
きっと、穏やかな道といばらの道があれば、迷わずいばらの道を歩むのだろう。
頭が完全に少年漫画脳ではあるものの、早百合さんがやると美徳に見えるから不思議だった。
「ならば、私自ら説得に行くまでだ」
「俺もついて行ってもいいですか?」
「貴君がか?」
「はい。もしも金城先生が断った理由が俺ら高校生を国家再生プロジェクトに参加させていることだった場合、その場に俺がいたほうが都合がいいと思うんです。桐葉はもちろん、できれば美稲も」
俺が我がチームが誇る論破王へ目配せをすると、美稲はこころよく頷いてくれた。
「私で役に立てるならいくらでも」
「ならシサエもお供するっす!」
「あんたはおとなしくしてなさい」
茉美がシサエにツッコんだ。
「警察班からも一人行ったほうがいいと思いますが、私は念写能力で対立候補者の汚職動画を用意しなくてはいけませんし、舞恋さんはどうでしょうか?」
「ふゃっ!? むむ、無理だよそんな大先生の自宅に行くなんて!」
舞恋が慌て過ぎてハシを落とした。
そうなると消去法で残る警察班は……。
俺らの視線が、ひとりでおとなしく白米を食べていた麻弥に向いた。
「?」
麻弥が何もわかっていない無表情をこちらに向けた。
――まぁ、相手が油断してくれれば儲けものだよな。
こうして、俺らは麻弥のロリパワーにかけた。麻弥はロリじゃないけど、高校生だけど。そんなことは些細な問題さ。
◆
意外にも金城先生へのアポはすぐに取れた。
翌日、月曜日の夕方。
俺、早百合さん、桐葉、美稲、麻弥の五人は、閑静な住宅街の一角に建てられた、洋館風の家を訪ねていた。
外観同様、通されたリビングの内装も時代を感じさせる
これが売れっ子作家の住む家かと、思わず納得させられてしまう。
「先生はすぐにいらっしゃいます。では」
細身の女性は俺らをソファに座らせると、いそいそと立ち去った。
私服なので使用人ではないだろう。
きっと、お弟子さんか資料集めのアシスタントだろう。
俺らは億万長者でも自分たちのことは全て自分たちでやっているので、お手伝いさんに準ずる存在が新鮮だった。
室内の様子をうかがいながら出された紅茶に口を付ける。
きっと、金を持っているだけで紅茶の銘柄何て知らない俺が呑んでいるのよりも上等な茶葉なんだろうけど、真理愛が淹れてくれる紅茶のほうがおいしく感じた。
茶葉よりも誰が淹れてくれたかのほうが大事なんだなぁと、しみじみ思う。
俺がティーカップをソーサーに置くと、廊下からロングスカートをはいた、背の高い女性が姿を見せた。
眼鏡をかけた知的な女性で、ぱっと見は30代に見えるが、所作の落ち着きぶりから40歳過ぎに見える。
年齢以上に若く見える、美魔女、というやつだろうか。
「初めまして、金城伽耶です。本日はわざわざお越し下さりありがとうございます」
金城先生が軽く会釈をすると、早百合さんは立ち上がり、会釈を返した。
「いえ、依頼したのはこちらです。話す機会を頂き感謝します」
俺らも早百合さんに続く形で立ち上がり、頭を下げた。
「その子たちが噂の、テレビで拝見しましたよ」
「初めまして、奥井育雄です」
「ボディーガードの針霧桐葉です」
「内峰美稲です」
「クラスメイトの山見麻弥なのです」
「クラスメイト……?」
金城先生はちょっと戸惑う表情を見せるも、深くは追及しなかった。
――これって追及されたほうがいいのかなぁ。
大事なことを聞きもしないで勝手に想像で補完されると、逆に困る。
金城先生が座ってから、俺らはあらためてソファに腰を下ろした。
「さっそく本題に入らせてもらいますが、私に出馬して欲しいという話でしたね? それも、貴女が結党する新政党から」
「はい。先生の著書本は全て拝読させてもらいました。現状、国政を任せられるような政党はない。同感です」
「ならば、自分で作ってしまおうと?」
「はい」
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次回更新予定は11月21日月曜日です。
今後の予定は
第257話 えっ!?麻弥たんてインフルエンサーだったの!?
第258話 ロリの可愛さは世界を救う(確定)
第259話 総理にザマァアアアア!
第260話 糸恋の失言が可愛すぎる!
です。
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本作、【スクール下克上 ボッチが政府に呼び出されたらリア充になりました】を読んでくれてありがとうございます。
みなさんのおかげで
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達成です。重ねてありがとうございます。
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