第247話 結婚してください

 それから二時間後。

 俺らは異能学園の講堂で、生徒会役員任命式に出席していた。

 壇上で、理事長である早百合さんが声高らかに宣言する。


「それではこれより、生徒会役員を任命する。生徒会長、一年一組貴美美方!」

「はい!」


 階段を登って壇上に立つと、美方は一礼し、早百合さんから任命状を受け取った。


「続いて副会長、一年二組琴石糸恋!」

「はい!」


 続いて、糸恋が壇上に上がって一礼して、早百合さんから任命状を受け取った。

 それから、書記として糸恋の後援者である滑川鳴芽子が、会計として守方が任命されて、計四人が壇上に立って俺らの方を向いている。


「以上四名を、異能学園初代生徒会として任命する。彼女たちに拍手を!」


 早百合さんの呼びかけで、俺らは一斉に惜しみない拍手を送った。

 万雷の拍手を浴びながら、美方たちは誇らしげに背筋を伸ばした。

 その光景に、俺が万感の思いでいると、隣から美稲が声をかけてきた。


「ハニー君の名案、大成功だね」

「名案てほどじゃねぇよ。どのみち貴美たちは二人、それじゃ生徒会にならないだろ?」

「またそうやってすぐに謙遜するんだから」


 ひじでちょんと腕を突かれた。

 大人びた美稲らしくない茶目っ気だ。


 ――でも可愛い。


「あとハニー君、今夜、私の部屋に来てくれる?」


 ――えっっ!?


 俺は胸がキュンとするあまり、拍手の手を止めてしまった。



   ◆



「結婚してください」


 夜、桐葉に断りを入れてから美稲の部屋を訪ねると、開口一番にそう言われた。

 俺は、しばし呆然としてから、苦悩の顔を作った。


「いきなり?」


 彼女の座るベッドへ歩み寄り、隣に座る。

 美稲は、くすくすと清楚に笑ってくれる。


「そりゃあ、私だって色々考えたよ。雰囲気作りとか、告白の言葉とか。でもね、考えれば考えるほどわからなくなって、時間をかけるほど言う勇気が出ないと思ったの。だから、ね」


 ね、と言って俺の顔を下から覗き込む美稲がひたすら可愛い。

 清楚な顔をして、男心をわしづかむ方法を熟知していて、俺もだんだん理性が緩んできた。


「ほらほら、早く返事をちょうだい。詳しい話はそれからだよ」

「普通は詳しい話をしてから告白するんじゃないですかねぇ……」


 げんなりと肩を落としてから、俺はため息を一つついて気を取り直し、苦笑という名の笑顔を作った。


「ああ。俺も好きだよ、これからよろしくな」


 答えなんて決まっている。

 もとから、俺も美稲のことは好きだ。

 桐葉と出会っていなかったら、絶対に本気の恋をしていた。

 その美稲のほうから、俺のことを好きだと言ってくれる。

 なら、もう我慢なんてできない。


「ぁ……」


 俺は美稲を抱き寄せると、彼女の口にキスをした。

 腕の中で美稲は体を弛緩させつつ、俺に体重を委ねてくれた。

 そのことが嬉しくて、愛しくて、彼女の口内をより深く求めてしまった。

 長いキスの後にくちびるを離すと、頬を赤く火照らせた美稲はうっとりと瞳とトロけさせ、俺だけを見つめていた。


「ハニー君、私ね、私が捕まった時、『美稲は返してもらうぞ』って言ってくれて、凄く嬉しかったんだよ」


「そっか、それで、俺のこと好きになってくれたのか?」


 気持ちははっきりと口にしとくもんだなと、俺は学習した。

 でも、それは早とちりだった。


「ううん、違うよ。私がハニー君のことを好きになったのは、坂東君から助けてくれた時」


 ――あんな前から?


 坂東が美稲を襲い、俺が助けたのは今年の五月。もう半年も前の話だ。

 思い出を抱きしめるように、美稲は柔和な声で教えてくれた。


「あの時の私は辛くて、苦しくて、本当にどうしようもなくて、そんな時に助けてくれたハニー君は、私のヒーローだった」


 ヒーローなんて言われて俺は照れ臭くなるも、美稲は逆に表情を暗くした。


「でも、初恋の人の隣には、もう桐葉さんがいた……」


 わずかな罪悪感に、奥歯を噛んだ。

 桐葉と付き合ったことに後悔はない。

 それでも、美稲を傷つけたことを、申し訳なく思ってしまう。


「私は桐葉さんのことも大好きだから、大切な友達だから、幸せそうな二人を見て思ったんだ。ハニー君が幸せならいいじゃないって。やっと本物の友達ができたのに、その友達を傷つけてまで欲しがるなんて欲張り過ぎだって」


 底無しの謙虚さに、俺は悩んでしまう。

 望み過ぎじゃないと言いたいも、略奪愛は良くない。

 けれど、俺が判断に困っていると、美稲はころりと表情を変えた。


「な、の、にっ」


 美稲は、ニッコリと怒っていた。

 笑顔なのに、怒っているのがわかる、不思議な表情だった。

 謎の迫力に、ついのけぞってしまう。


「人がせっかく一生片思いの決意を固めたのに、なぁんで真理愛さんと茉美さんと詩冴さんと麻弥さんとも付き合っているのかな? 私の決意がバカみたいなんですけど?」

「あ、いや……」


 だってそれは桐葉が、と言おうとして、人のせいにするのは最低だと言い訳を飲み込んだ。


 そうして俺が弱り切っていると、美稲は小さく噴き出して、鈴を転がすように声をあげて笑ってくれた。


「もう、そんな顔されたら怒れないじゃない。でもね、ハニー君がそんなだから、私も容赦しないよ。桐葉さんにまけないくらい、ハニー君に迫っちゃうんだから。覚悟、していてね」


 大きくウィンクを飛ばされて、俺は顔がかぁ~っと熱くなるのを感じた。

 美稲は可愛い、顔がではなく、存在が、魅力的過ぎる。


「は、はい……」


 そう、頷くしかない俺は相変わらず情けない。

 だけど、恥ずかしさの100倍、幸せだった。




次週以降の予定。

第248話 GカップとHカップ合わせて5200グラムなり!

第249話 うちの嫁たちが世界のパワーバランスを握り過ぎている

第250話 龍崎早百合 選挙に出馬する?

第251話 キジムナーちゃんのことも思い出してあげよう

第252話 多数決が持つ3つのデメリット

第253話 選挙には確実に勝てるってどういうこと?

第254話 恋舞舞恋ちゃん大活躍!

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 以前、本作について、超能力に目覚めた少年少女が異世界の敵と戦う話だと思って読んだら全然違った。というコメントがあったので。

 もしもスクール下克上がバトルモノだったら 桐葉編


 東京の青い空が崩れ落ち、漆黒の孔が広がった。以下略

「フハハハ! 我が名は魔王サタンなり! 害虫人類諸君に告げる! 死ねぇ!」

 怪物たち一斉に絶叫した。

 孔から上半身を這い出させ、両手の爪や触手を地上の人類に伸ばす。

 誰もが思った。

 自分たちは助からない。あんなもの、自衛隊ですら叶うわけがないと。

「邪魔」

 空を駆ける桐葉の拳が、魔王の顔面に叩き込まれた。

「ぎゃああああああああ! ぐっ、無礼者め! いいだろう、貴様は我が直々に殺してくれる! 見るがいい、我が第二形態を!」

 魔王の全身がウロコに覆われ、顔はドラゴンのように変化した。

「ははは、この姿の私は戦闘力が3倍になるのだ!」

「じゃあボクも、第二形態!」

 桐葉の全身が蜂の甲殻に覆われ、両手の甲から鋭利な針が生えた。

「この姿のボクは筋力が10倍、スピードは3倍以上になるんだ」

「へ? ~~~~~~~~■■■■ッッッ!!!?」

 またたくまに魔王の顔、喉、みぞおり、恥骨に毒針が抉り込まれ、魔王は悶絶した。

「ぎゅびぃいいいいいいい! ご、ごうなったら我が最終形態でぇえええ!」

 魔王の姿は、今度は逆にスッキリ、細身の美青年になった。

 最終形態は逆にスッキリする【フリ●ザの法則】である。

「じゃあボクも最終形態になろっと」

 桐葉の衣装がウエディングドレスを模したモノへと代わり、その手には長剣が握られていた。

「オオスズメバチの猛毒と蜜蜂の振動発熱機能を持った、ヒートヴァイブロポイズンブレード。ボクとハニーの、愛の結晶だよ!」

 気合一閃。

 第一宇宙速度を超えたスピードで空を疾駆した桐葉が通りすれば、魔王の首ははねとび、切断面から溶けていく。

 主の死に、怪物たちは異世界に帰った。

「ハニー、ボクかっこよかったでしょ? 褒めて褒めてぇ!」

「お、おう……」

 ――桐葉って絶対出る作品間違えてるよな……。

 ハニーは乾いた笑いを漏らした。               完


 次回更新予定は9月26日月曜日です。

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 本作、【スクール下克上 ボッチが政府に呼び出されたらリア充になりました】を読んでくれてありがとうございます。

 みなさんのおかげで

 フォロワー20249人 813万6070PV ♥124663 ★8218

 達成です。重ねてありがとうございます。

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