第232話 美稲って愛されているなぁ

 翌朝。

 教室へ行くと、鬼気迫る勢いで美方と琴石が駆け寄ってきた。

 二人のお目当ては俺、などではなく、もちろん、美稲だ。


「「美稲!」」

「あ、はにーくんおはよう」


 守方だけが、呑気に俺に挨拶してきた。


「おはよ。で、あれはやっぱりあれか?」

「うん、昨晩のニュースだね」


 守方は頷いてから、姉の背中を見守った。

 俺も、彼女たちのやり取りを見守る。


「昨夜のニュースは見ましたわ! 大丈夫ですの!?」

「もしもOUの連中が無理やり連れて行こうとしたらウチに言い! 守ったる!」


 ぐいぐい来る二人に、だけど美稲はくすぐったそうに笑った。


「二人ともありがとう。でも大丈夫だよ。早百合さんも言っていたけど、あれって拘束力ないし」

「へ?」

「そうなんか?」


 美稲は、昨夜の話を二人に聞かせた。


 美方と琴石は、国連の組織には何の強制力もないことを知るとホッとして、けれど同時にドッと疲れた感じで肩を落とした。


 ――美稲って愛されているなぁ。


 元から、美稲は誰からも愛される女の子だ。


 それは八方美人だからだと思っていたけど、言いたいことをズケズケ言える素の美稲でも、変わらず人気者だった。


 美方と琴石は気を取り直すと、背筋を正した。


「そ、そうですの、安心しましたわ」

「言われてみれば、国連にどうこう言われたいうニュースは耳にしますけど、せやから日本政府がどうこうしたっちゅう話は聞かへんなぁ」


 美方はあごに手を添えて、難しい顔をした。


「う~ん、これは、学園の生徒を守る仕組みが必要ですわね」

「せやなぁ。真理愛のこともありますさかい、超能力者が狙われんようしていかんと」


 そこは、俺も危惧していた。


 今まで、超能力者はその能力によって扱いが違った。

 けど、今は全体的に人気が上がっている。

 それ自体は歓迎すべきだ。


 でも同時に、アイドルにつきまとうストーカーのような存在や下心で近づく人が現れる危険性もはらんでいる。


 場合によっては、人格を無視されて【超能力者】という【記号】だけで偏見を持たれるかもしれない。


 前の学校の連中もそうだった。

 いわゆる陽キャたちが俺に、


 どうせ、超能力者って自分を特別な存在だと思っているんだろ? うぜぇんだよ。

 

 と、絡んできた。

 今後は、ああいう馬鹿がさらに増えるだろう。


「悩みますわね。超能力者全体をエリートブランドにして近寄りがたい雰囲気すればよいのかしら?」


「そやなぁ、むしろプレミアム感を減らすために地下アイドルやご当地アイドル、会えるタレント、ちょっと違うかなぁ。とにかく超能力を星座や血液型ぐらいどうでもいい特徴だと思って貰うのはどうや?」


「ならF6みたいな生徒にテレビに出て貰って超能力者と言っても美稲みたいな方ばかりではないと知らしめれば良いのではなくて?」


「それもええけど、そうなると学園そのものに芸能事務所みたいな仕組みを作ったらよろしいわ。せや、超能力者が動画配信者ぐらいのブランドになれば、ちょうどええんと違うか?」


 盛り上がる話し合いに、俺は首を右に回した。


「おい守方、あいつら対立候補者同士だよな?」

「一応ね。けどあの二人似てるよ。大事なことのためなら周りが見えなくなるところとか。そういう意味では、はにーくんとも似てるかもよ?」


 肩をすくめてから、守方はずいっと俺の顔を覗き込んできた。


「俺があいつらとか? 冗談はよしてくれよな」

「まぁまぁそう言わないで」

「そうそう。ハニーってば結構周りが見えなくなるよ。もしかして、自覚ない?」


 守方を援護するように、桐葉も逆サイドから俺の顔を覗き込んできた。

 嫌なタッグの結成だ。


 ――でも、俺と似てるかはさておき。


 あらためて、学園の生徒を守る方策で意見交換をする美方と琴石に視線を戻した。


 アイディアを選挙活動の材料にせず、腹を割って話し合う様を見せられると、二人がお山の大将になりたいのではなく、本気で生徒のことを心配しているのがわかる。


 最初は目立ちたがり屋で高飛車な奴だと思っていたけど、どうやらどちらもリーダーの資質がある、本物の指導者気質らしい。


 アビリティリーグの恩があるから、できれば生徒会長には美方になって欲しい。

 でも、どっちが生徒会長になっても、きっとこの学校はよくなる。

 そんな希望に俺は自然と頬が緩んだ。



 そこへ、担任の鶴宮先生が入室してきた。

 生徒たちが皆、自分の席へ戻り、2組の生徒である琴石はその場を離れた。


「ほな、ウチはこれで、またなぁ」


 愛想よく別れの挨拶を残して、琴石は廊下に出た。

 俺らも席に座り、それを見届けると、鶴宮先生は物理眼鏡の位置を直した。


「では皆さん、ついに来週月曜日、11月5日は生徒会長選挙の投票日。そして、投票直前演説の日です」


 その言葉に、当事者である美方は表情を引き締めた。

 後援者である俺も、必然、気持ちが引き締まった。

 守方は眠そうな顔をしていた。お前は引き締めないと駄目だろ。


「放課後、貴美美方さんと琴石糸恋さんが演説をして、その後すぐに投票を始めます」


 鶴宮先生の視線が、美方へ向けられた。


「美方さん、当日は頼みましたよ。来週の演説次第で、初代異能学園生徒会長が決まるのですから」


「お任せください。この世界最強の超能力者! 万物を灰にする灼熱紅蓮のマグマ使い! ボルケーノ貴美美方様が見事、異能学園初代生徒会長に就任し、凡民たちを導いてみせますわ! オーホッホッホッ!」


 その姿に俺はちょっと引くも、クラスメイト達はむしろ面白がっていた。

 なんていうか、鼻に突く嫌な奴ではなく、アニメのお嬢様キャラを見るような目だ。


 ――慣れってこわいなぁ。


 と、思う。


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 皆さんのおかげで7,000,000万再生達成です! 

 ありがとうございます!


 次回更新予定は6月27日月曜日です。

 お待ちの間、ヒマがあれば同じくカクヨムに投稿した現代異能バトル作品

 【罪罰遊戯・無限再生能力でチートする】全55話

 を読んでいただければ幸いです。

 本作スクール下克上に超能力バトルを期待された方もいると思いますが、こちらはガッツリバトルです。

 学生時代に書いたモノでちょっとダークですが、可哀想な女の子を助ける系です。

 あとこの頃からヒロインは巨乳だった……。

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 本作、【スクール下克上 ボッチが政府に呼び出されたらリア充になりました】を読んでくれてありがとうございます。

 みなさんのおかげで

 フォロワー18959人 709万9057PV ♥108560 ★7810

 達成です。重ねてありがとうございます。

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