第230話 人間宝器第一号
その日の夜。
俺らは早百合さんを新居に招いて、美稲のお疲れ会をした。
『かんぱーい!』
女性陣による料理を食べながら、紅茶を飲み、俺らはおおいに楽しんだ。
うちの女性陣は昨今の女子らしくもなく、みな料理ができるので助かり過ぎている。
ちなみに、美稲自身も料理を作ろうとしたのだが、それではお疲れ会の意味がないと全力で止めた。
強制的に休ませるため、さっきまで俺と一緒に麻弥をぽよぽよもちもちしながら遊んでいた。
具体的には、俺が撮影している間に美稲が麻弥の髪形を変え、そのたびに二人で麻弥の頭とあごをなでたりほおをつまんだりした。
そうしていると、麻弥はとても機嫌が良いのだ。
「ほぉ、これはおいしいな。貴君はいつもこんなおいしいものを食べているのか?」
「はい。桐葉を中心にみんな料理ができるので、作り手には不自由しません」
「マヤも作りたかったのです」
「麻弥さんも一緒に暮らしたら作りましょうね」
「もちろんなのです」
「ところでお父様のご機嫌はどうですか?」
「最近、趣味にクレー射撃を始めて妙に機嫌がいいのです」
――それは何を撃ち抜く練習なのかな?
俺の不安を拭うように、桐葉が卵焼きをハシに挟んで突き出してきた。
「はいハニー、あーん」
照れ臭くて普段はことわるあーんも、素直に受けてしまうくらい不安だった。
「ぱく、うんおいしいぞ」
「えへへ、ありがとうハニー。ボクの愛情、いっぱい食べてね」
「なっ、いつもは断るのに、ハニー、あたしのから揚げも食べてほら」
「シサエのつくったロールキャベツも食べて欲しいっす」
「わ、わたしの作った肉じゃがも」
「おいおい、一度に三つ出されても食えねぇよ。あと舞恋は無理に流れに乗らなくてもいいぞ」
「はぅぅ……」
「ふふ、ハニー君モテモテだね。じゃあ私も」
「増やすなよおい」
史上初、美稲に寸止め空手チョップを浴びせると、美稲は幸せそうに目を細めた。可愛い。
なのに、俺の幸せに水を差すようにして、壁に表示させていた70インチMRテレビが、不機嫌なニュースを流した。
『緊急ニュースです。先程、以前より創設が検討されていた超能力者管理委員会が、国連にて正式に発足しました』
「あ~、そういえばそんな話もあったな」
最後に聞いたのは夏休み前だったか?
それすらも忘れるぐらい、懐かしい話題だった。
「確か総理って、これへの牽制として異能部を異能省に格上げさせたんですよね?」
「そうだ」
頷いて、紅茶を一口飲んでから早百合さんは説明した。
「総務省の中の一部署に過ぎない異能部を局、庁、省へと格上げし大臣まで選定することで、能力者は自国で管理するという強い意思表示をするのが、総理の狙いだ」
アビリティリーグの時、手前勝手な都合で桐葉と美稲を拘束した時はとんだバカ総理だと思ったけれど、一応、美稲のことを考えてくれてはいるらしい。
「でもずいぶんと時間かかったっすね」
「新たな組織を作るとなれば、人員編成などの関係で時間がかかったのだろう。OU国内にも利権争いや派閥争いはある。メンバーをOU国民や息のかかった者で固めるにしても、それなりの時を要する。だが……」
『超能力者管理委員会、通称、超管では一人で世界のパワーバランスを左右する人材を【人間宝器】に指定し、国連の管理下に置くことを決定したもようです。人間宝器の第一号は日本の内峰美稲、他の人間宝器は決まり次第、順次公開するとのことです』
「ミイナちゃんが誘拐されるっす!?」
「あいつらマジでやりやがったわ! ハニー、今すぐOUのトップをここにアポートするのよ! あたしのヒーリング千本ノックで改心させるわ!」
「茉美って野球やって、いやわかったからシャドーボクシングやめろ」
茉美のパンチを一千発も喰らったら確実に壊れるだろう。心が。
「待て待て、早百合さん、これ、意味ないんですよね?」
「無いな」
早百合さんは、凛々しい声はそのままに、だが語調はあっけらかんと答えた。
詩冴と茉美が同時に「え?」と目を見開く。
「これも条約と同じ。法的拘束力も強制力もない。国連内の組織ができるのはあくまでも勧告まで。つまりは言葉で意思表示するだけだ」
早百合さんに続いて、桐葉は呆れ口調だ。
「やれやれだよ。相変わらず拘束力のないことにばかり精を出して、ご苦労なことだよ。まっ、雑魚の悲しい抵抗だね」
俺も同意する。
「怖いのは国際社会からのバッシングだけど、国民の身柄をよこせ、なんて無茶苦茶な要求、賛成するのはそれこそ一部の過激な反日団体とOU系団代だけだろ? 美稲が海水から金属を作るのをやめたいま、世界には日本を叩く理由がない」
「むしろ、人権を無視して勝手にOUへ連れて行くという理論が強引過ぎる。バッシングを受けるのは、むしろOUであろうなぁ」
「よかったっす」
「安心したわ」
二人で背中を合わせながら絨毯にへたり込み、詩冴と茉美は安堵の息を吐き出した。
ひとりで緊張していた舞恋も、ほっと大きな胸をなでおろした。
「それに、早百合大臣はそれこそ大臣様だ。異能省の新設も間に合ったし、美稲にはそう手出しできないだろ」
「もしもまたパワードスーツで来たら、ボクの新形態が火を噴くよ」
言って、桐葉が一瞬でドレスアップ。
純白のウエディングドレスの上から、蜂蜜色の鎧をまとった姫騎士スタイルになる。
「自衛隊の基地で計測した出力は旧・最終形態の十倍以上。戦車隊も戦闘機編隊もボク一人で蹂躙しちゃうよ」
桐葉が胸から取り出した鉛筆をぐっと握り込むと、鉛筆はへし折れて絨毯の上に落ちた。
小学校のとき以来、とんと使わなくなった鉛筆の存在をなつかしみつつ、桐葉のアピールをショボく感じた。
茉美も呆れ気味だ。
「あのねぇ桐葉、鉛筆ぐらいあたしだって握り潰せるわよ。握力アピールするならせめてスプーンやフォークを潰しなさいよね」
桐葉が開いた手の平には、おがくずの中で光る、透明な芯が転がっていた。
それを指先でつまみ上げると、桐葉は頬を染めて俺に突き出してきた。
「ボクのお手製ダイヤモンド、婚約の証にハニーにあげちゃう」
『あ、握力で炭をダイヤに変えたぁあああああああああああああああああ!?』
その場のほぼ全員が絶叫した。
「あ、ありがとう」
俺が苦笑いを浮かべながら受け取ってからも、みんなの熱狂ぶりは変わらなかった。
「ちょぉっあんた! 炭がダイヤになるには100トンの握力が必要なのよ!」
「わ、私以外にもダイヤモンド作れる人いたんだ……」
「ふゃっ? 桐葉それ絶対に他の人の前でやっちゃだめだよ! 約束だよ!」
「貴君は、常識の埒外だな……」
「キリハちゃんのこと! 今日からオーガって呼んでいいっすか!?」
「ボクはハチだよ?」
桐葉は、得意満面で可愛く舌を出した。
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5月31日に新しくギフトを頂きました。
アルファベットと数字を混ぜた名前の人から頂きました。ありがとうございます。
諦めないで小説を書き続けてよかったなぁと思います。
これからも可愛いヒロインたちを描いていきたいです。
次回更新予定は6月13日月曜日です。
お待ちの間、ヒマがあれば同じくカクヨムに投稿した学園ラブコメ作品の
【家政科高校の男子が女番長に料理を教えます】全37話
を読んでいただければ幸いです。
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本作、【スクール下克上 ボッチが政府に呼び出されたらリア充になりました】を読んでくれてありがとうございます。
みなさんのおかげで
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達成です。重ねてありがとうございます。
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