第184話 真理愛とデート後半戦
続けて真理愛が興味を示したのは、しゃてきだった。
これも縁日の定番だ。
しかも、景品がなかなか豪華で、はずれはなさそうだ。
「アビリティリーグのギャラで赤字確実の商品を仕入れたぜ! どんどんもってけドロボウ!」
額にねじり鉢巻きを締めた先輩男子が、気持ちよく呼び込みをしている。
よく見れば、アビリティリーグで活躍中のゴーレム男子、大原次郎先輩だった。
「大原先輩、アビリティリーグの打ち合わせ以来ですね」
「おう、奥井ハニーか。見てくれ。これは俺が幼い頃しゃてき屋で痛い目にあい、何もかも信じられなくなって世界を憎みながらベッドの中でむせび泣いた黒歴史から、もう二度と誰にもあんな想いをして欲しくないという執念のこもった店だ! 遊んでいってくれ!」
漢気溢れる腕組みポーズに苦笑しながら、俺はお金を払った。
「その設定、重たいっすよ先輩。それで真理愛、どれを狙う?」
「はい。あの丸くて大きいイノシシのぬいぐるみなど、麻弥さんが好きそうです」
真理愛が熱い視線を送ったのは、球体の底面をちょっと潰した、お饅頭型のぬいぐるみだった。背中のラインを見るに、イノシシの赤ちゃんであるウリ坊がモチーフのようだ。
「へぇ、ああいうのが好きなのか? じゃあ今度、俺が買ってプレゼントしようか?」
「いえ。ハニーさんからのプレゼントなら麻弥さんは喜んでくれると思いますが、縁日で苦労して自分のために取ってくれた、というのが大事なのです」
つまり、大事なのは気持ち、ということらしい。
俺は何もわかっていないなぁ、と割と反省した。
「えい」
真理愛の放ったコルク弾は、狙い過たずにウリ坊の額に命中した。
ウリ坊は愛らしいもっふりぼでぃをゆらゆらと揺らして、大原先輩は笑顔になる。けれど、ウリ坊は落ちなかった。大原先輩の顔が豆鉄砲をくらったハトのようにぎょっとした。
すかさず、真理愛が能力を使った。
MR画面が展開して、ウリ坊の重さ、材質、台の幅などが表示された。
「……これは、落とすのは難しいですね」
真理愛の沈んだ一言で、大原先輩の顔がショックに固まる。
大原先輩は真理愛に悲しい想いをさせまいと台に駆け寄った。
きっと、ウリ坊の角度を変えようとしているのだろう。なんていい先輩だろう。
世界に足りないのは、彼のような人材に違いない。
だけど、俺はもっと真理愛を喜ばせる方法を思いついた。
「なら、二人で一緒に落とそうぜ」
大原先輩の機先を制するように、俺が真理愛に声をかけると、全てを察した大原先輩がバックステップ元の立ち位置に戻った。
――大原先輩、あんたマジでできる男だよ。男の中の男だよ。
「はい。お願いします」
それから、二人で銃を構え、俺が合図をした。
「じゃあ行くぞ。いち、にの、さん!」
二人同時に放ったコルク弾が、やはり同時にウリ坊の額に命中した。
ウリ坊はゆらゆらと売れて、大原先輩が「落ちろ」という念を送るように両手を突き出した。
俺ら三人の願いが届いたのか、ウリ坊はころりん、と床に落ちた。
「「やった!」」
「やりました」
俺と真理愛と、そして大原先輩がガッツポーズを作った。
「おめでとう二人とも。さぁ、二人の愛の共同作業の結果を胸に今日と言う日を一生の思い出にしてくれ!」
大原先輩は、目に涙を溜め、眉の太い体育会系の顔を破顔させてにこにこ笑顔でうり坊を真理愛ではなく、俺に手渡してくれた。
もしかしなくても、俺の手で真理愛に手渡せ、ということだろう。
――あんたいい人すぎだよ。絶対に将来はいいパパになるぞ。
先輩の気づかいに感謝しながら、俺はウリ坊を真理愛に手渡した。
「ほら、麻弥が気に入ってくれるといいな」
「はい。きっと麻弥さんは喜んでくれると思います。だって、ハニーさんが取ってくれたのですから」
そう言って、真理愛はわずかに頬をほころばせた。
眼差しだけでなく、表情筋を動かした笑顔はべらぼうに可愛く、俺は恋の谷底からさらにもう一段階恋に落ちた。
「そんなに喜んでもらえて嬉しいよ。じゃあ、真理愛はどれが欲しい?」
「いえ、私は。欲しいものがあれば自分で取るか買いますので」
「真理愛のために取りたいの」
遠慮する真理愛へありがた迷惑よろしく、俺は好意を押し付けた。
「俺が、真理愛のために縁日で手に入れたモノをあげたいんだ。デパートじゃ買えないプライスレスの付加価値と一緒にな」
俺が歯を見せて笑うと、真理愛はぽっ~っと赤くなり、両手を頬に当てた。
「あ、あの、では……」
細い指先が丸く太ったカッパのぬいぐるみを指した。手足がちょこんと、申し訳程度にしかないのでシルエットがまるまるとしていて愛らしい。
「あのカッパさんがほしいです」
「よし」
大原先輩に代金を払い、俺はコルク弾を撃った。
コルク弾はカッパの手に当たり失敗。
二発目はかすりもしなかった。
ウリ坊はまぐれだったのか?
でも、三度目の正直のばかりに、三発目のコルク弾はカッパの額に当たった。
台から転がり落ちるカッパのぬいぐるみを、大原先輩がキャッチした。
「おめでとうございまーす! さぁお前の愛を彼女にどうぞ!」
「先輩ノリ良すぎ。ほい、真理愛、俺からのプレゼントだ。その前にこのウリ坊は真理愛の部屋にテレポートさせてと」
カッパを受け取った真理愛は、我が子を慈しむように抱きしめて、鼻から下をうずめた。
「ありがとうございます。毎晩、抱いて眠りますね」
ぬいぐるみで半分隠れているのも、彼女が笑顔であることは一目でわかった。
普段は無表情無感動な美少女が見せる満ち足りた笑顔の魅力は底無しで、俺は無限の達成感に奥歯に力が入った。
「この子はミニハニーさんと名付けましょう」
「えっ!? それ俺!? まさかエロガッパ的な意味じゃないよな!?」
「……教えません」
「今の間は!?」
俺の達成感に、一抹の不安がよぎった。
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本作、【スクール下克上 ボッチが政府に呼び出されたらリア充になりました】を読んでくれてありがとうございます。
みなさんのおかげで
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達成です。重ねてありがとうございます。
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