第150話 テレポート殺し

「ハニー」

「ハニー君」

「悪いな。さっきの通信、聞いていたか?」


 俺は油断なく警戒しながら、地糸に情報を気取られないよう、遠回しに尋ねた。


「うん、聞いたよ」

「大丈夫だよ。ボクらならね!」


 桐葉は最終形態になると、真正面から突っ込んだ。

 物理戦闘力のある自分が、前衛を担当しようというのだろう。


『邪魔だぁああああああ!』


 左右のガトリング砲が猛り狂い、鋼の弾幕を布いた。

 対する桐葉は、やや抵抗を受けながらも前に駆けた。

 伊集院の時よりも、口径が大きいのかもしれない。

 桐葉の右手が、コックピットを殴り飛ばした。

 だが、伊集院の時とは違い、地糸は吹っ飛ばなかった。

 身の丈3メートルはある巨体は地面に爪を立て、背面ブースターで抗うことに成功していた。


「ふぅん、素人でもここまで動けるなんて、優秀なAIを積んでいるみたいだね。けど!」


 桐葉の言葉が合図だったように、美稲は地面を蹴り飛ばした。

 途端に、地面から岩の触手が生え、機体の鳥脚にからみついた。


「もう一発!」


 桐葉の鋭いアッパーが、機体底部を叩き上げた。

 重低音の響きと共に装甲は陥没して、脚が巌の縛りを砕いて機体は床に転がった。


 ――よし!


 明らかに戦闘力は桐葉の方が上だった。

 そもそも、桐葉が伊集院に苦戦したのは、予知能力と剣道二段で高周波ブレードを使って来るからだ。


 見たところ、地糸の機体はゴツく、性能も良さそうではあるものの、搭乗者の地糸が素人過ぎた。


 OUもよくこんな奴を鉄砲玉にしたものだ。


 ――それとも、ただの情報収集や、アビリティリーグの邪魔をするのが目的なのか?


 戦いのさなかだというのに、俺が余計なことを考えていると、機体が反応した。


『くそぉ、このクソ女ぁ、異能者のくせに、気持ち悪いミュータントの化物のくせに人間様をバカにするなぁあああああああ!』


 機体は起き上がると、肩が開いて小型ミサイルを発射した。


 ――ミサイル!? そんなもんまで持ち込んでいるのかよ!?


 俺が戦慄する間に、ミサイルはジェット噴射の尾を引きながら、桐葉に迫った。


 桐葉は空へ飛び立ち、難なく避けた。


 それでも、ミサイルはしつこく追尾するも、桐葉はさらに加速。


 音速の壁を超えたのか、白い傘であるベイパーコーンを貫き、体にまといながら飛行した。


 だが、ミサイルはどこまでも桐葉を追尾して離さなかった。


「ちっ」


 桐葉は解放天井の穴から空へ逃げた。

 だが、それがいけなかった。

 直線コースに入ったミサイルは突如として倍速で加速した。


「桐葉!」


 俺がマズイと思った時にはもう遅かった。

 青い空に巨大な爆炎と黒煙が発生したコンマ一秒後、桐葉は俺の隣にテレポートしてきた。

 全身の装甲にヒビの入った彼女を抱きとめた直後、衝撃波が俺の肌を叩き、髪を暴れさせた。


「くっ、大丈夫か桐葉!?」

「うん、なんとかね。けど、そんなに何発もは無理かな」


 痛みに耐えながら、それでも俺を安心させるためか、桐葉は無理のある笑みを浮かべてくれた。


『奥井ぃ、俺から何もかも奪いやがってぇ! 死ねぇえええええええええ!』


 二発目のミサイルが、俺目掛けて放たれた。

 そのことに、俺は心の中でガッツポーズを作った。


 ――よし! ここだ!


 すかさず、俺は目の前にゲートを開いた。

 目の前の空間と、地糸の背後の空間を繋げる。

 これで、俺に向かってきたミサイルは地糸の背中を直撃するはずだ。

 が、ミサイルの弾頭が、不意に視界から消えた。


 ――へ?


「ハニー!」


 俺は強引に抱き寄せられ、体ごと持っていかれた。

 直後、耳をつんざく轟音と熱波を受けて、反射的に目をつぶった。


「ハニー君! 桐葉さん!」


 遠くから美稲の悲鳴が聞こえた。

 数秒してから目を開けて、俺は自分が桐葉に抱かれていることに気が付いた。

 彼女の顔には苦痛が走り、息が乱れていた。

 どうやら、彼女が俺を抱えて逃げてくれたらしい。


「桐葉!?」

「よかった。無事みたいだね、ハニー」


 彼女の額から一筋の血が流れて、俺は自分でもどうしようもない憤りを覚えた。

 俺を守って桐葉が傷つく。

 その事実が、どうしようもなく、俺の胸を抉った。


 ――なんでだ!? どうしてこうなった!?


 自分の足で立ち、逆に桐葉の体を支えながら俺は自問した。

 その答えとばかりに、地糸が防風ごしに哄笑した。


『ギャハハハハハハハ! 私が伊集院戦のデータを貰っていないとでも思ったかクソガキ! お前が二つの空間を繋げられることは知っているんだよ!』


 ――俺対策か……。


 よく考えれば、敵はただのテロ組織ではなくプロの軍隊を持つ大国、オリエンタルユニオンだ。


 それぐらいのことはするだろう。


 新技のゲートなら倒せるとタカをくくった自分を恥じて歯噛みした。


―—―—―—―—―—―—―—―—―—―—―—―—―—―—―—―—―—―—―—

―—―—―—―—―—―—―—―—―—―—―—―—―—―—―—―—―—―—―—

 本作、【スクール下克上 ボッチが政府に呼び出されたらリア充になりました】を読んでくれてありがとうございます。

 みなさんのおかげで

 フォロワー12364人 353万6776PV ♥53308 ★6042

 達成です。重ねてありがとうございます。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る