第104話 美稲の包容力はハンパない
●キャラ振り返り3 内峰美稲(ないみねみいな)
本作のヒロイン。
物質を分解して再構築する能力【リビルディング】の使い手。
養子で8歳の時に本当の子供ができてからは冷遇される。
自分の居場所を作るために学校では八方美人で人当たりの良い人間を演じていた。
が、主人公たちと出会い、八方美人をやめて本当の自分になる。と言っても、彼女自身が元から優しく温和な性格なので、大きくは変わらなかった。
人間は他人の手柄を奪ったり、難癖をつけたりして、マウント取りばかりすると思っていた。
なのに奥井育雄は自分の手柄にも気づかない謙虚さを持っているため、彼の側に心地よさを感じるようになる。
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一時間後。
俺は異能学園の体育館で学年とクラスごとに整列していた。
終業式の開始を待つ生徒たちがざわざわと騒がしくする中、俺がじっと壇上を見つめていると、隣の美稲が不思議そうに声をかけてきた。
「ハニー君、どうしたの? 難しい顔して」
「ああ。ちょっと伊集院について色々とな」
不安な気持ちもあったんだろう。
俺は悶々とする頭で、ホームルーム中に考えていたことを吐露した。
「伊集院は最初、ちょっとキザでナルシストな部分はあったけれど、悪党ではなかったと思う」
「うん、そうだね」
「だけど本人の言う通り、四天王なんて呼ばれて有頂天になって、頭の中でグレーゾーンの幅を広げて、自分の思い通りに周囲を動かそうとブラックゾーンにまで手を染めた」
「前にハニー君の言っていた、自分中心他動説ってやつだね」
昔の話を覚えていてくれたことを嬉しく思いながら、俺は首肯した。
「そうだな。それで思ったんだ、坂東もそうなのかって」
坂東は、幼い頃から俺と同じ小学校、中学校で、俺を虐め続けてきたアイスキネシストだ。
三か月前、その坂東に襲われた美稲は、表情をわずかに曇らせた。
にも拘わらず、続きを促すように、ジッと俺の顔を見つめて、話すのを待ってくれた。
「あいつは昔から暴力的で自分勝手な奴だったよ。でも、殺人や強盗まがいのことはしなかった」
そうだ。
中学生までの坂東は、素行の悪い不良程度のことはしても、警察に捕まるようなことはなかった。
「でも三か月前、坂東はお前を襲った。原因は挫折だ」
俺の不安を証明するように、語るごとに声は重く、トーンが落ちていくのが自分でもわかった。
「今まで坂東はアイスキネシストとして、周囲から一目置かれていた。それが早百合局長のプロジェクトからは戦力外通告を受けて、喧嘩で桐葉に負けて、俺にも負けて、犯罪に走った。伊集院とは別の意味で、力に狂った結果だ」
そう、だからこそ、俺は怖くなった。
「なら、俺も同じになるんじゃないか?」
怯えるように呟いた言葉は、俺の正直な気持ちだった。
「今の話の怖い部分は、悪意の自覚がないってところだ。赤信号を無視するみたいに、よくないことだってわかっていても、これぐらい別にいいだろうって気持ちでやるんだ。俺の下水道シュートだって、今は全部、正当防衛だけど、いつか俺の都合や仕返しでやっちまうような気がして不安になるんだ」
「それはないよ」
即答されて俺が顔を挙げると、美稲は慈愛に満ちた優しい笑みを浮かべていた。
「そうやって悩めるハニー君が悪いことなんてするわけないよ」
「いや、でも」
「私が前に言ったこと、覚えている? 普通の人はマウントが大好きで、他人の手柄を横取りしたり難癖をつけようとする。なのにハニー君は自分の手柄にも気づかない。それって、さっき伊集院君が言っていた、出世しても共感性を失わない人の特徴じゃないかな?」
美稲の言う通り、俺は四天王と呼ばれ、一人で日本のエネルギー問題を解決して、億単位の給料を稼ぐ身分だけど、その自覚はない。
ただし。
「それは今の話だろ? 今後、こんな生活が一年二年て続いたら、どうなるかわからないじゃないか?」
せっかく美稲が弁護してくれているのに、俺の気持ちは焦るばかりだった。
反対に、美稲は俺が狼狽するほど、逆にリラックスしていくようだった。
「その時は、舞恋さんのサイコメトリーに検知されちゃうね。それに、私は信じているんだよ。私を助けてくれたハニー君なら、絶対にテレポートを悪用しないって。というわけで、私の信頼を裏切らないように頑張ってね」
「ッッ」
くったくのない笑みに毒気を抜かれて、それ以上、何も言えなくなってしまった。
あまりに重たすぎる信頼に、だけど俺は、むしろ胸が軽くなった。
「桐葉と言い真理愛といい、みんな俺のこと信用し過ぎじゃないか? 俺は真理愛じゃなくてもみんなの将来が心配だよ」
幼い頃からボッチでコミュ障な俺を無条件で信頼してしまう美稲たちへの皮肉のつもりだったのだが、美稲はくすぐったそうにクスリと笑った。
「ふふ、ほんと、そんなんだからハニー君は大丈夫なんだよ」
「え? それってどういう意味だ?」
「あ、式が始まるみたい」
俺の疑問に応えることなく、美稲は俺に横顔を向けた。
それで俺もなんとなく問いかける気が失せてしまい、終業式に集中した。
――いや、ここは前向きに考えよう。それに、伊集院だってあんなに反省していたじゃないか。一度は悪に走った奴が改心できるなら、あらかじめ気を付ければ悪に走らないことも可能なはずだ。
壇上の階段を、一人の女性がカツコツとリズムよく上っていく。
女性は男子に見劣りしないぐらい背が高く、背筋は鉄筋のように凛と伸び、足取りは武芸者のように柔軟かつ強靭な力強さを感じられた。
そして、世が世なら天下に覇を唱えんばかりに覇気漲る美貌の持ち主だった。
壇上の中央に仁王立つと、女性は要塞のような爆乳を張りながら、声高らかに名乗り上げた。
「貴君ら! よくぞ地獄の一学期を耐え抜いた! この私、総務省異能局局長、龍崎早百合は感無量だ!」
まさかの美人上司の登場に、体育館は拍手に包まれた。
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本作、【スクール下克上 ボッチが政府に呼び出されたらリア充になりました】を読んでくれてありがとうございます。
みなさんのおかげで
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達成です。重ねてありがとうございます。
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