第102話 み、見られてしまった!

「あの、さ。桐葉は、どうして真理愛とも付き合うのをOKしてくれたんだ?」

「だってハニー、真理愛のこと好きでしょ? それに、ボクも真理愛のこと好きだしね」


 桐葉の言う通り、俺は真理愛に惹かれている。


 真理愛に告白された時、俺は真理愛の気持ちに応えたいと思ってしまった。真理愛を幸せにしてあげたいと思っていた。


 だけど一番大切なのは桐葉で、だからそれは許されなかった。


 桐葉が、真理愛との二股を許してくれなかったら、俺はあんなにも想いを向けてくれる真理愛を傷つけてしまう罪悪感に胸を痛めていた。


 俺が平穏無事に過ごせるのは、桐葉が持つ底無しの度量あってのものだ。


 だからと言って、手放しで喜ぶことなんてできない。


「あとはそうだなぁ、やっぱり、真理愛の気持ちがわかるからかなぁ」

「真理愛の気持ち?」


 頷いて、桐葉は声を甘くひそめた。


「うん、あのねハニー。ボクはハニーのこと、いっぱい大好きだよ」

「ッ」


 ――改めて言われると、なんかこう、滾っちゃうな。


 一方で、桐葉の口調は穏やかで、思い出を懐かしむようだった。


「ボクは蜂の能力のせいでずっといじめられて、自分の人生に期待なんてしていなかった。でもね、そこから救い出してくれたのがハニーなんだよ。だから、ハニーはボクのすべてなの。ハニーのいない人生なんて考えられないよ」


 好きな子に、ここまでストレートに好きをぶつけられて、冷静でいられる男なんていない。


 幸せ過ぎて、夢か幻ではないかと疑いたくなる光景だ。


「でもそれは真理愛も同じ。真理愛はもう一人のボクなんだ。考えてもみて、ずっと不幸で、辛くて、消えちゃいたくて、なのに人生のすべてをささげられるぐらい好きな人にはもう付き合っている人がいて、自分には最初から愛される機会もないなんて、そんなの悲劇だよ」


 桐葉の言葉は徐々に力を失い、最後はまるで弱音のようだった。


「だから真理愛を見捨てられなかった。むしろ、ハニーを共有することで、真理愛を助けてあげたかったんだ」

「桐葉……」


 彼女の慈愛に感動しながらも、俺の抱える不安は少し大きくなる。


「ありがとうな、桐葉。でも、やっぱり不安なんだ。いつか桐葉を傷つけるんじゃないかって。桐葉以外の女の子も大事にするってことは、桐葉が苦しい時、気づいてあげられないんじゃないかって」


 まるで逃げるように、視線は徐々に落ちて、水面に映る情けない顔と向き合った。


 よせばいいのに、口を突いて出た不安は止まらず、溢れ続けた。


「桐葉と真理愛、二人が同時にピンチになったら、俺はその時、迷わず桐葉を選べるのかなって」

「えいっ」


 小気味よい声に顔を上げると、桐葉が俺の頭に空手チョップを寸止めしていた。


 暖かい微笑を浮かべて、彼女は俺をあやすような言葉をくれた。


「ハニーのそういうところが大好きだよ。誰にでも振りまく安売りの愛じゃない。好きな子には、どこまでも優しい。真理愛と二股しても、そうやってボクを一番に置いた上で他の子も愛してあげられる、優しいところが。だから、ボクら7人はキミの周りに集まっちゃうんだろうね」


「え?」


 その意味を聞こうとして、だけど機先を制するように桐葉は前かがみに倒れてきた。


「それにね、ボクは信じているんだよ。どんな時でも、何があっても、真理愛以外の女の子たちと付き合うことになっても、ハニーは絶対にボクを一番に愛してくれるって。だってぇ」


 表情のワット数をみるみる上げながら、桐葉は胸の下で腕を組み、ただでさえ豊満すぎるおっぱいを寄せて上げた。


「ハニーはおっぱい国民だもんね♪」

「■■■■■■■■!?」


 反射的に鼻を抑えた。それぐらい、鼻の奥に痛みが走った。


 デカイ!

 桐葉のおっぱいは、本当に大きい。

 男子の中には、大きいと垂れて嫌だとか、下品だとか、バランスが悪いだとか、巨乳よりも美乳だと言う人がいる。


 けれど、桐葉の豊乳は垂れることなく、バランスを崩すことなく、品格すら感じるほどの美乳で、大きさに比例した魅力があった。


 重力が惑星の大きさと比例するように、桐葉のおっぱいもまた、大きさに比例した引力を持っていた。


「ッッッ、おっぱいで女子を判断するなんて、俺がそんな文明人の面汚しなわけないだろ! どこぞの野蛮人と一緒にするな!」

「そういうことは鼻血を止めてからにしたら?」

「なっ!?」


 だが、鼻から離した手には、一滴の血もついていない。騙された。


 桐葉は、コロコロと鈴を転がすように可愛い声で笑っていた。


 俺は悔しくて、くちびるを尖らせながら負け惜しみを口にした。


「き、桐葉だっておっぱ、胸目当てなんて嫌だろ?」


「胸だけが目当てならね。でも、ハニーは違うでしょ? 大きなおっぱいが好きなんじゃなくて、大きなおっぱいをした女の子のことが好きなんだから。それに、このおっぱいだってボクの一部なんだから、このおっぱいを気に入ってくれたら、それはボクを気に入ってくれたってことでしょ?」


「その理屈はどうなんだ?」


「だってそうでしょ? 人を構成する要素はひとつじゃない。性格、容姿、好み、ありとあらゆる無数の要素が全て合わさって、一人の人を作っているんだ。そりゃあボクの性格が好きって言ってくれたらうれしいけど、それ以外の要素も愛して欲しいな」


「でもほら、外見は時間と共に変わるけど、性格は一生ものだし」

「変わるよ。性格も。それも簡単に」

「うぇ?」


 思わず変な声が漏れた。桐葉はクスリと笑った。


「ひとつの成功、ひとつの挫折で人は簡単に変わる。むしろ、外見よりも短期間でね。変わらない人なんていない。みんな、長い人生の中で変わっていくんだ。だけどね、どんなことがあっても、絶対に変わらないのが本当の愛なんだと思う。ボクは、ハニーがおじいちゃんになっても、挫折や失敗で傷ついてボクに酷いことをしても好きだよ。ううん、むしろ好きだから、ハニーが傷ついたらボクが癒して、元の性格に戻してあげるね」


「桐葉……」


 慈愛に満ちた笑みと声に、俺は誇張ではなく、女神を見た気がした。

 裏切れない。

 愛さずにはいられない。

 俺が桐葉の全てなら、俺にとっても、桐葉が俺の全てだ。


 ――幸せだなぁ。


 この幸せを永遠のものにしたくて、俺は自然と桐葉を抱き寄せた。


 彼女の桜色のくちびるにキスをした。


 熱い彼女の舌を甘噛みすると、彼女も、俺の舌を優しく愛撫してくれた。


 そのことが嬉しくて、いつまでも続けたくなってしまう。


 目をつぶらずに、お互いの瞳にお互いを映し合いながら、俺らは深く求めあった。


 長いキスの後に、ようやく俺らは口を離した。


 興奮で、すっかり息が上がっていた。


 桐葉も、息が乱れていた。


「桐葉、俺も同じだよ。桐葉がおばあちゃんになっても、ずっと大好きだぞ」

「うん」


 互いに笑みを交わし合うと、彼女と通じ合えた気がして、充実感があった。


 俺と桐葉ならきっと、素敵な銀婚式をできると思う。


「まぁ、ボクの寿命は人並でも、老化はしないんだけどね」

「………………………………………………………………ん?」


「知らない? 女王バチってアンチエイジング効果のあるローヤルゼリーの効能で老化しないんだよ? 実際、真理愛に100歳のボクを念写してもらったら、今とあまり変わらなかったよ。流石に顔はちょっと大人びていたし、お尻とおっぱいも大きくなっていたけど」


「あの、それって、つまり……」


 ガタガタと震えながら、下半身に滾る邪心を抑え込む俺の前で、桐葉は妖艶におっぱいを持ち上げた。


「品質保証100年間♪」

「■■ッ!?」


 鼻の奥に痛みが走って、お湯に数滴の鼻血が滴り落ちた。


「お、俺もうあがるわ!」

「あん、待ってよハニー、いッ!?」

「え?」


 桐葉が水着姿なので忘れていたけど、俺はお風呂に入っているわけで、つまりは全裸だ。


 そんな状態で立ち上がればどうなるかは明白だ。


 桐葉は、目の前で怒張したモノを注視しながら、震えていた。


 耳まで赤くなった顔、眼を丸く見開いて、口を真一文字に引き結んだまま、息を止めている。


 一方で、桐葉に剥き出しの本性を晒してしまった俺は、底なしの喪失感と絶望感で、声にならない絶叫を上げた。


 ――ああ、終わった。俺の恋が。さよなら桐葉。


 が、桐葉は俺の顔を見上げると、緊張した面持ちで一言。


「カ、カッコイイよ、ハニー」


 桐葉のことが好き過ぎて、もう色々なものが溢れそうだった。


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 本作、【スクール下克上 ボッチが政府に呼び出されたらリア充になりました】を読んでくれてありがとうございます。

 みなさんのおかげで

 フォロワー10936人 269万8942PV ♥38305 ★5470

 達成です。重ねてありがとうございます。





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