第21話 途中経過
桐葉とみんなの距離が縮まってから一週間が経った4月24日火曜日の夕方。
内峰を連れて総務省の講堂へ帰ると、早百合さんが声をかけてきた。
「今日もご苦労だったな。変わりはないか?」
「はい、問題ありません。それよりも、量は足りているんですか? 必要なら残業しますよ?」
美稲――一週間前のパーティーから、名前呼びの風潮になっている――の提案に、早百合部長は首を横に振った。
「その必要はない。貴君のおかげで、国内の金属需要には全て対応できているし、むしろ備蓄すら増えている。これ以上、貴君のプライベートを犠牲にする必要はないさ」
「美稲大活躍だな、てか日本政府お前に頼り過ぎじゃないか?」
「いやいや、恥ずかしいからそんなに持ち上げないでよ」
「だが、実際に内峰美稲を含め、貴君らの活躍には頭が下がるよ。財政破綻して日本円の価値がなくなり、日本は何も輸入ができなくなってしまった。金属、衣類、食料、燃料不足は深刻だ。だが」
品よく微笑を浮かべながら、早百合部長は滔々と言いあげた。
「内峰美稲の力で国内の金属需要すべてを賄いつつ備蓄を増やし、金銀などの貴金属も豊富だ。おかげで、金銀で東南アジアから綿を、マレーシアやニュージーランドから羊毛を輸入し対応できている。食料もそうだ」
視線を、少し離れた場所で成果報告中の詩冴へ向けた。
「枝幸詩冴の力で漁獲高は倍増し、南首都圏と離島から外来生物は一掃され、鹿と猪による畑の被害も無くなった。同時に、キョン、ハクビシン、アライグマ、鹿、猪の肉を流通させることで食肉不足問題は解決。農産物不足は、金銀で東南アジアから輸入することで解決している。また、これら金属資源、衣類、食料は全て、企業が政府から買っているため、早くも政府には2兆円を超える収入を確保している。これで、少なくとも今月の公務員の給料と公共工事費の支払いはできそうだ」
続けて、早百合部長の視線は、職員に成果報告中の舞恋たちを捉えた。
「警察班のおかげで、捜査費用はかからないしな。既に一万件以上の未解決事件が解決して、失踪者の行方も、二万人分が明らかになっている」
つまり、まとめるとこんな感じらしい。
物資不足
・金属資源 美稲が海から生成。
・衣類 美稲が生成した金銀で輸入。
・農産物 美稲が生成した金銀で輸入。
・水産物 詩冴が魚を漁港に誘導。
・食肉 詩冴が捕まえた鹿と猪、外来生物たちで賄う。
節税
・警察捜査費用 探知、念写、サイコメトリー能力者たちで事件解決。
・環境対策費用 詩冴の能力で外来生物を一掃。
「そうなると、あとは燃料問題ですね。そっちはどうなっているんですか?」
俺の問いかけに、早百合部長は少し眉根を寄せた。
「難しいな。探知能力者が油田や石炭、天然ガスの鉱床を見つけ、地形操作能力者に掘らせるつもりだったのだが、うまくいっていない」
「どうしてですか? 地形操作能力者って、地面を自由に操作できるんですよね?」
「そうだが、目視できないような、地下数百メートル数キロメートルの操作は難しいのだ。それに、土ではない石油などは操作できないから、穴を掘ってから結局は掘削設備を建造する必要がある。設備が整うまでの間に、国の備蓄で賄えるか、それが問題だな。最悪の場合、中東から金銀で輸入することになるが、そこで大盤振る舞いをすれば、能力で金銀を作っていることが一発でバレる」
表向き、美稲は廃品などの都市鉱山から金属資源を分離させていることになっている。
けれど、何千トンという金をバラまけば、諸外国は疑いの目を向けるだろう。
そうなれば、海から金を生成していることが明るみになり、日本にだけおいしい思いをさせてなるものかと、国連は海水の使用を制限するに違いない。
「そうだ、話は変わるが桐葉、貴君のローヤルゼリーの品質が正式に認められた。明日から、業者がグラム100円で買い取ってくれるぞ」
「一グラム100円て、銀よりレート高いじゃないですか!?」
俺は驚いて、つい声を上げてしまった。まさか、ローヤルゼリーがそこまで高価なものだとは思っていなかったのだ。
「やったね。じゃあ明日から毎日1トン作るよ」
「1日1億、年間365億円の売り上げだな。初任給は期待していいぞ」
――年商365億円!?
途方もない金額に、俺は呆れてものが言えなかった。
――ていうか詩冴も一人で日本の食肉事情を支えているし、美稲に至っては黄金の山を築いているんだよな。あれって何億円分だ? 舞恋たちのおかげで数千億円分の警察捜査費用も浮いているし……。
一人の力で大国を左右する彼女たちの力量に、自分が矮小な存在に思えてくる。
「みんな凄いなぁ、俺なんてただのタクシーなのに……」
「大丈夫、ハニーのことはボクが養うから」
「俺はヒモか!」
腕に抱き着いてくる桐葉に怒鳴った。二の腕に当たる胸の感触が気持ちいい。
「心配せずとも、プロジェクトを円滑に進められているのは貴君のテレポート能力のおかげだ。そこらの公務員よりも高い給料は保証しよう」
「ちぇ、ハニーをボクに依存させようと思っていたのに」
「こらこらこら」
桐葉の頭に、連続空手チョップを下ろすジェスチャーをした。
すると、桐葉はわざと頭を突き出して、チョップを受けた。
「ふふ、ハニーに叩かれちゃった」
ちゅっと唇を尖らせて、可愛く笑う桐葉。
その姿はごぐりと息を呑むほど魅力的だけれど、下手にかまうとバカップルぽくて恥ずかしいので、俺はあえて平静を装った。
「あほなことするなよ」
「いや、私としてはもっとバカップルになってくれたほうが都合がよいのだが」
「なんの都合ですか!?」
「今後、高給取りの能力者に群がる馬鹿が増えるだろうからな。対等な能力者同士のカップルのほうがトラブルが無いだろう?」
「ふ~ん、つまりボクらの仲は政府公認てことだね♪」
桐葉は軽くハシャぎながら、さらに強く、俺の腕を抱き寄せてきた。
でも俺は、苦笑いを返すことしかできなかった。
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本作を読んでくれてありがとうございます。
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達成です。
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