第41話耳を塞ぐのは何故か

『人の子よ、我はその者に危害を加える気はない』


鳥はそう言うが、ジーンは退かない。

私の目からしても鳥は別に危害を加えそうにない。

得体の知れない鳥だからだろうか?

いや、でもジーンはそんな偏見しない気がするし。

何故だろうと、ジーンの裾を引きながら声を掛けた。


「ジーン?」

「危ないから下がっていろ」

「いやでも、鳥さんは危害を加えないって言ってるじゃん?」

「は?」


何を言ってるんだと言わんばかりに目を開くジーンを見て思い出した。


…鳥はなんと言っていた?


我の声が聞こえるのか?


つまりだ…ひょっとしなくても私、やっちゃった?

どうやらこの鳥の声は私しか聞こえないらしい。


待って、待って!?

鳥だから!?

同じ鳥だから聞こえるの!?

なにそれ、鳥肉食べ辛いじゃん!

誰だ、共食いって言ったやつ!

私は獣族(ひよこ)であって鳥ではない!

そういう事にしといて!!


『ふむ、神気を感じるな。神に祝福されたか?いやしかし、体も奇妙だ。

子よ、お前は何者だ?』


新事実に驚いている内になにやら観察されていたらしく、私に興味を持ったらしい。

だからといってこの場で転生者と答えるわけにもいかない。

どうしようかと考えていたら、ベチャッと何かが頭に当たった。


「え?」


触るとトマトのような赤い野菜?…果物?

と、とにかくそんな感じのが手に付いた。


oh…トマティーナ?

国というか世界が違うけどそんな慣習がこの街にもありましたか。


「黒死鳥と喋れるなんて、お前死神だろ!?」


男の子が赤い多分野菜を持って私を睨みつけていた。

…ふざけてみたけど、やっぱりそうだよね。


多分さっき頭に当たったのは男の子が持ってる野菜で、彼が私に投げ付けたのだろう。

そして、こくしちょう?って言うのは多分あの鳥の事だ。

よく分からないけど、あの鳥は前世でいうカラスみたいなものなのだろうか?

それと喋れるなんて不吉だ、気味が悪い。

きっと死神に違いない、と彼の中では成り立ってしまったのだろう。


どうしていいか分からず棒立ちしていると、男の子を皮切りに周りの人達も私を睨みつけてきた。


「命を奪う死神め!この街から立ち去れ!」

『愚かな。我らは奪っているのではない。魂が迷わぬように送っているに過ぎんというのに』


よく分からないけど、鳥の声が聞こえないせいで齟齬が起きているようだ。

それさえ分かればなんとかなるのでは?

そんな甘い考えで、私は鳥の通訳をする事にした。


「あの!鳥さんは命を奪っているわけではなくて、魂が迷わないように」

「黙れ、死神!!」

「あの、聞いてッ!?」


通訳なんてする暇もなく石が飛んできた。

当たる前にジーンが弾いてくれたけど、いくつもいくつも石は投げられた。


「死神!死神!!街から出て行け!!」

「命を奪って何をする気なの!?」

「お前達が居るから人が死ぬんだ、この人殺しめ!!」


敵意、憎悪等の負の眼差しで見られて体が竦んだ。

カチカチと歯の根が合わない。

周りがすべて敵。

そんな状況なんてあったことがない私は、ただただ震えて蹲るしかなかった。

それでも彼らは容赦なく石や泥や投げれる物を手当たり次第投げて来る。

もしかしたら、当たらない鳥の分まで私に来ているかも知れない。


不意にポタリと赤いモノが降って来た。

顔を恐る恐る上げると、ジーンから血が流れていた。


『無意味な事を…。子よ、すまないが時間だ。お前達も離れるといい。…人の子は我らを理解しようとはしない。我の仕事も終わった…』


ふわりと、何かが鳥の元へとやってきたのが分かった。

目に見えないけど、何かがある事だけ分かった。

鳥はそれを優しく咥え、飛び去った。



そして…。




「いやぁぁ!!私の子が、私の子がぁぁ!!」




家から悲痛の声が聞こえた。

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