53

私は今、樹くんの家で絶賛正座中だ。

というのも、樹くんがめちゃくちゃ怒っているからで…。

原因はもちろん先程の早田課長とのことなんだけど。


大きなため息に私は身を小さくする。


「…ごめんなさい。」


もうそれしか言葉が出ない。

樹くんは冷たく私を睨む。


「姫乃さんさぁ、もうちょっと危機感持ってって言ったよね?」


「はい。」


「俺が見つけなかったらどうなってたかわかる?」


早田課長にずるずるとラブホテルに連れ込まれて、でも早田課長は休憩するだけだからって言っていたけど。


「…どうなってたんだろう?」


「早田課長にやられるとこだったんだけど。今まで何人早田課長に騙されたか知らないの?」


「やられるって…?」


「はぁ。」


ひときわ大きなため息に、私はこの場から逃げ出したくなる。


「早田課長に抱かれるとこだったんだけど!」


「抱かれ…えっ!」


まさか、そんな。

あらぬ想像してみるみる顔に熱が集まるのがわかった。


「だって早田課長、休憩したいって。」


「この鈍感!天然!箱入り! 」


「うっ。そんな言わなくても…。」


罵倒され、じわっと涙が浮かんだ。

確かに危機感なくて鈍感だけど、はっきり言われるとやはり傷付く。


「それとも抱かれたかったわけ?」


私は慌てて首を振る。

まさか抱かれたいだなんて、思うわけがない。


「はあ、今まで無傷だったのが奇跡だよね。」


「無傷?」


「彼氏がいるって思われてた方が安全だったってこと。」


首をかしげる私に、樹くんはビシッと指を立てて言った。

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