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今月は、漢委奴国王印の特別展が開催されている。想像以上に人気のようで、意外と人で溢れていた。


照明が少し落とされた室内を順路に沿って見学するも、展示物の前はなかなか空かない。特に今回目玉の展示物である”金印”の前は、次から次へ人が流れていき、私は完全にタイミングを逃していた。


人と人の間から僅かに見える金色の小さな印。もう一歩前に出られたら、全体が見えるのに。

と、ふいに肩が押される。

人の流れに沿うように一歩前に出ると、ついにショーケースの前に陣取ることができた。振り向けば後ろをついてきていた樹くんが、私の肩を押しやって前に出してくれたのだ。


「あ、ありがと。」


「ん。」


樹くんは軽く返事をする。思ったよりすごく近くに顔があって私の心臓はドキッと跳ねた。

私はすぐに金印の方に向き直す。

とても小さいのにその存在はキラキラと輝いていて、他の展示物に比べても存在感は異彩を放っていた。


「すごい、教科書でしか見たことないやつ。」


「うん。田んぼの中から出てきたんだよ。私なら気付かない。昔のものが残ってて、今この目で見られるってすごいよね。」


「卑弥呼と関係あるんだっけ?」


「って言われたりもするけど、わからないみたい。でもロマンがあっていいよね。」


私たちはコソコソとしゃべりながら、じっくりと金印を見る。そして少しずつ流れに沿ってその場所を後にした。

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