オレ、星、カルマ

楷口 凛

■—— 同盟会議篇 ――■

01 星ノ1「鉄 コウタ」



「……聞こえる……」

 


天空を突き抜けそうな、あまりにも巨大な山の頂上。

そこには、超巨大なヒマワリのような植物が、太陽の光を一身に浴び堂々と鎮座ちんざしている。

男はそれと対峙するかたちで、ちゅうに浮いておりそして、ぽつりとつぶやいたのだった……。


てつ コウタ。


第5銀河の太陽系内にある惑星、イルスーマ。

てつ コウタは、その星を同盟統治している民族のひとつ、ディアモン族のおさだ。


ヒマワリから捉えた、感情のような揺らぎに少々の畏怖感いふかんを抱きつつ、コウタは風を切るように、その場を後にした―――― 。



惑星イルスーマ創星から372年……。


 


  

星ノ1「鉄 コウタ」


限りなく広大で、希望の光が賢者によってちりばめられているような。そんな星々の銀河。

その太陽系内にもう一つ、小さな太陽があるかのように光輝く星、惑星イルスーマ。


ディス大陸 イズ大陸 アス大陸。この三大陸さんたいりくには豊かな緑があり、各大陸の周囲には、海が青々ときらめいている。


そして三大陸共に、科学技術のすいを集めながらも、どこか民族的な雰囲気をかもし出す。

そんな、先進的で叙情じょじょう的な建築物群が、三大陸の随所ずいしょに見られるのだった。


超巨大ヒマワリをえる、あまりにも巨大な山、通称『 テラマウンテン 』。

そこから、度々ソニックブームをとどろかせ、イズ大陸の西側に向かっていた。


「ヒマワリのあの感じ……。たつきは連絡つかないか……仕方ねえ、ものはついでだ腹ぁくくるか」


そういうとまた加速し、更に西へと飛んでいった。



三大陸の中心に位置しているイズ大陸は、ディアモン族が統治しており、その南方に整然と区画整理され、つ洗練されたおもむきのある街、『 スーチル 』がある。


その中心地にある『 サンミエル 』は民政総本部であり、イズ大陸の主要機関が集まる公的重要施設であった―――― 。



―――― 日が西に傾く頃合。コウタはイズ大陸西側から所用を済ませ、サンミエルの上空まで帰ってきていた。


「ジィーーっ!!」


サンミエルのエントランス前に、政務官二名といたディアモン族 元老げんろうジレンを見かけると、大気が揺れんばかりの大声で呼び止めた。


ジレンは、ディアモン族のなかでコウタの次に年齢を重ねており、コウタの執政補佐としてふるう外交手腕は老獪ろうかいでありながら、そのじつ 筋金入りの愛星者あいせいしゃでもあった。

そして、イルスーマの為なら命も惜しまない。そんな固い信念を持つジレンは、鼻下から長い口髭を垂らし、少しばかり腰が曲がって杖を持ってはいるがサンミエルの年功者である。


サンミエル上空のコウタから、呼び止められたジレンは、深く息を吸い込み返事を返す。


頭様とうさまぁーー!! 降りてきてくだされー! 老いぼれに声を張り上げさせますなあ"ー! ゲェーッホ!! ぶっころしますぞぉいゲェーーッホゲェーッホ……ハァハァ」


「……チッ、もう頭様とうさまなんて呼んでんのはアイツだけだぞ。やっと『 閣下』ってのが定着してきたってのに……」


コウタとジレンの関係性は、自他共に認めるほど通過つーかーの仲であったが、その親しさ故に両者の言葉使いは、周囲から注意を受ける事もあった。


サンミエルのエントランス前。

その中央広場では、スーチル民政みんせい総本部施設サンミエルの創建280周年記念 建立こんりゅうパーティーの準備が進められていた。


コウタはそれを横目で見ながら、ヒマワリから感じとったものをジレンに少しだけ話し、サンミエル内の会議室へと足を向けた。


エントランスから、そのまま1階の奥へと真っ直ぐ進んだ突き当たりに第一会議室がある。

常時開放されている為、スーチルに住むディアモン族なら、誰でも出入り可能な状態にしてあった。


「閣下、お帰りなさい。東の地下エネルギーの滞留たいりゅうはどうでしたか?紅茶でよろしいですか?」


「ふぅ……」


「あ、閣下!いい加減 入口から近いといって下座しもざ座りになるのはお止めください!閣下!閣下!!閣下ーー!!!」


「はいはい…… 今日もうるさいなぁおい。ソルコンチ紅茶たのむな」


この上品な民族衣装に、銀のサンミエルバッジを左襟に付けた、長身の男の名はソルコンチ。

その容姿は、刺々しい短髪の黒髪に、鼻下はなしたから顎にかけて、精悍せいかんな髭をたくわえている。

そしてスーチルの街全体を防衛、監視するサンミエル特別騎射隊インパツェンド 通称『 イノシシ 』の総隊長である。


イルスーマ自体は、太陽系内の他の惑星に比べると、格段に平和だった。

種族間の均衡きんこうもとれた、安定した星なのだが、スーチルの武力の要であるインパツェンドは、三大陸の中でも頭ひとつ抜けたものであった為、しばしば他の族長から部隊縮小の指摘があった。

その部隊数は、スーチル内で一個中隊、イズ大陸全体になると一個連隊規模になる。


一頻ひとしきり内輪のやりとりを終えると、ジレンはイルスーマ三大陸の要所が記してある世界地図を、3次元ホログラムで映し出した。

ジレンに付き添っていた女性の政務官エマナが、会議室の光量を落とし、もう1人の華奢きゃしゃな体つきの男性政務官エマルタが、スーチルの課題をまとめた資料データを、コウタとジレンのテーブルに映した。


若くして、サンミエル内に自身の政務室を持つことを許可された、執政補佐 兼 元老付げんろうつきの政務官エマルタと

幼い頃から、ディアモン族の中で、極めて高い知能指数を記録してきたエマナは、兄妹である。

この兄妹は、小等教育の時期からサンミエルを遊び場にし、公的重要施設に慣れ親しんで育った、極めて稀有けうな存在だ。



――――「という結果を踏まえ、次の同盟会議に間に合う準備を致しますが、閣下はよろしいですか?」


エマルタは、コウタの顔色を伺うようにたずねたが、コウタは少し微笑みながら、左手に持った紅茶を口に含ませた。


「ああ、構わない。だが…… そろそろお前の夢に力を入れても良いんじゃないか? スーチルの自給能力は、宇宙に出ても問題にすらならないレベルだからな。安心して取り組め。執政補佐と元老付げんろうつきは近々外すよう通達しておく。あとは……ジレンが適当にまかなうだろ」


「ゴホン! まあ若者の背中を押すのは、いつの時代も大人の特権ですからなぁ。わしも若いころは――」

――「ありがとうございます!」


「……むぅ」


エマルタは、コウタとジレンに向かい、二三度深々と頭を下げた。

コウタとジレンの言葉に、エマナも嬉しそうに一際ひときわ優しく可憐かれんな笑顔をのぞかせ、またそれを見ていた、エマルタとソルコンチも同様に笑みがこぼれていた。


「コンコーン、もうすぐ中央広場でパーティーが始まりますよー」


エントランス受付係のケイが、常時開放している第一会議室の入り口で、声高こわだかに伝えてきた。


「閣下ー、あまりマントボロボロにしないで下さいねー。……タダじゃないんですから!」


ケイはそう吐き捨てると、スッキリした顔でエントランスに戻った。


「……んー」


コウタは苦虫を噛み潰したような顔で、ソルコンチを見たが、ソルコンチもまた、苦虫を噛み潰したような顔でジレンを見た。


「いやはや今日もスーチルの街は平和ですのぉ。サンミエルにいたってはパーー天国ですぞホッホッホ」


ジレンは、コウタとソルコンチの顔に意も介さず笑い終えると、政務官兄妹のエマルタとエマナを、中央広場でもよおされるパーティーに向かうよううながした。


「ソルコンチ。わるいが、かわりたのむ」


「閣下も少しずつ行儀ぎょうぎが良くなられていらっしゃいますね。私もパーティーに行きたいのですが……」


「そうだな。お前は残れ、そして紅茶をたのむ」


「はい閣下……」


『 行儀もなにもを付けてるだけじゃないか。いや、そもそもおかわり自体にが付いてるじゃないか 』と言わんばかりの表情で受け流したコウタは、世界地図が映された方の上座かみざに席を移し、ジレンに話し始めた。



――――「なるほど、すると頭様とうさまは、それが東の地下エネルギーの滞留に関係があると……そうお考えですかな? まあそれで今日は、東に飛ばれたんでしょうが」


ジレンは少し首をかしげながら続けた。


「しかしヒマワリはディアモン族、ローク族、アラン族……引いてはホモサピニッシュの信仰の対象でありますからなぁ。そのヒマワリ、いやテラマウンテンも含めた『 メリア 』に問題があるなど……」


テラマウンテンの標高は3万メートルあり、太陽系内の惑星でも、これ以上の山は存在しない。

また、その中心から顔を出す潮力種ちょうりょくしゅヒマワリは、第5銀河では最も重要な超自然植物とされている。

そのことから、惑星イルスーマの三種族のホモサピニッシュからは『 メリア 』と呼ばれあがめられていた。


コウタがジレンに続く。


「何とも言えんな。メリアから少し東南に小さな半島があるだろ。あそこは260年前から、地下エネルギーの流入量が、いちじるしく落ちてるのを覚えてるか?」


「ええ、なんとなく覚えてますな。その頃はたしか、ローク族側のぉ、調査機関がぁ……」


「もういい。つばさの兄貴である、ローク族のおさたつきが、星外調査機構とかいうきな臭い機関からよこした……カラスだったか? それとうちの騎射隊からは――」

「私の父、ビルソッチですね?」


「ああ」


紅茶お待たせしました。閣下」


ソルコンチが話に割り込むかのように、湯気が立ちのぼるカップを、コウタのテーブルへ丁寧に置いた。



星ノ1「鉄 コウタ」完


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