33話:運営が性悪すぎる

 『ブラッドプリズナー』

 開催日時は、土曜と日曜……今日と明日の20時から22時までの2時間。

 イベント戦自体を2回に行われるらしく、プレイヤーは出場するにあたり、どちらの時間帯に出場するのかを選択し、その時間にログインしていないと行けない。


 方式としては、一時的超加速機能を使用し、プレイヤーを現実時間から大きく加速させたサーバー内に隔離して行う。


 その時間は、ゲーム時間で48時間。

 つまり俺はこれから二日間ゲームをし続ける、というわけだ。


 そして、このイベントの内容は、簡単に話すとPVP。

 プレイヤー同士が戦い、勝者を決める方式である。


 イベントの概要を見る限り、恐らくPVPのみではなく、それ以外にもプレイヤーが脱落する要素を作っているのは見て分かる。


「覚えてる?」

「しっかり」

「物忘れ激しいとかこういうときは勘弁してくださいよー」


 隣では点心さんがいつもどおりの口調でこちらに語りかけてくれる。


 覚えているか。


 この言葉には、イベントの内容を踏まえて話している部分がある。


 『ブラッドプリズナー』


 今回のイベントはPVP。


 勝利条件が特殊だ。


 勝利条件は、

 『一定時間生存したプレイヤー全員が帰還ボタンを押すこと』

 もしくは

 『48時間生き残ること』

 イベントが開始してから36時間生き残ると、プレイヤーのウィンドウに『帰還』ボタンが出現する。

 これは一度押すと帰還状態となる。


 その状態に、生き残っているプレイヤー全員でなればいい。


 極端な話、全てのプレイヤーが戦わずに36時間経ったらボタンを押せば、イベントクリアとなり、報酬がもらえる。


「調子はどうだい」

「調子悪いわ」

「調子はどうだい」

「ぼちぼちでんな」

「御機嫌いかが」

「ぼちぼちでんな」


 最後の確認を行っている。

 現在いるのは、イベント参加者のみが入れる待機スペース。

 VRゲームの機能の一つである『個人空間』というものを利用した待機スペースだ。


 フレンド同時であれば、各々の待機部屋に入れるので、こうして点心さんと二人でハンドサインと合言葉の確認をしている。


 イベントの勝利。

 確かに簡単なように見える。

 一度ボタンを押せば、後は生き残るだけで大丈夫。


 しかし、このボタンにはとあるデメリットが有る。


 今回のイベントの報酬は”一定量をクリアプレイヤーで等分する”というものだ。

 つまりは、1000個のアイテムが報酬であれば、一人が勝利すれば一人1000個。

 1000人勝利すれば、一人一つだ。


 このゲームでは、人を殺せば報酬が上がる。


 簡単に話すとそういうことになる。


 今回のイベントでは、今までゲームシステム的にデメリットだらけであったPK……プレイヤーキルのデメリットが一切ない。

 殺してもなにもないのだ。

 しかもイベント内であれば、殺せば自分の報酬が増える。


「それにしても、このイベント質が悪いよね」

「それな」

「しかもなんでこんなゲームの内容からかけ離れた内容のイベントをするんだか……」

「あ、それどっかの雑誌でやってたよ」

「え」


 ということは、自分の報酬を増やしたいものからすれば、48時間生き残って殺せるだけ殺せばいい。

 それが一番理にかなっている。


 だけど、死ねば報酬はなくなる。


 ということで思いつかれたのが、チーム。

 プレイヤー同士でゲーム外で結託を組み、自分が死んでも仲間から報酬を譲り受けるという契約の元、働く。


 チーム内で一人でも生き残れば、多少なりとも報酬はもらえる。

 当然、SNSではこのイベントでチームを組むものを募集するものが増え始めた。

 調べればすぐに出てきて、俺もこのイベント出るんだよなぁ、と漠然と思った。


「確か、今回のイベントはプレイヤーの成長具合を理解し、次回へのストーリーイベントを調整するための、いわばオープニングセレモニーのようなものです、だったっけ」

「……プレイヤーの成長具合ってどういうこと?」

「このゲームって結構な大部分をAIに調整をさせているから、甘い部分があるかもしれないっていうことなんじゃないですか?」


 このイベントで大事なことは、戦うことではない、協力することだ。

 そんなことを言っている人も見た。


 けれど、それが四日前に破綻した。


『イベント開始まで、10分』


「大丈夫?」

「大丈夫」

「まじ?」

「ほんとに」


 VRMMOのイベントに参加するなんて初めて出し、こんなに複雑なイベントだなんて思っていなかったから、緊張する。

 ウィンドウを開き、再度確認を行う。


 今回のイベントで、後出しのように発表された新要素。


 『プレイヤー同士は顔の認識ができない』

 『プレイヤーネームの表示も見えない』


 どうやら、とことん運営は俺らを争わせたいらしい。


「よし」

「こっちはもう終わってる」

「ハンドサインも大丈夫」

「合言葉もだよ」


 点心さんが俺のことを心配そうにしている。

 年頃の娘から心配されているお父さんの気持ちが少しわかったような気がする。


『イベント【ブラッドプリズナー】開始いたします。

 専用ステージへと移送いたします』

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