第17話 花火大会
◇◆◇
花火大会当日。
私は花火が打ちあがる一時間半前に、青木くんに呼び出された。母に浴衣を着つけてもらって、彼のアルバイト先の美容室へ向かう。クレマチス柄の薄紫の浴衣に挿すだけ楽チンの赤い作り帯を挿す。帯と同じ色合いの鼻緒のついた下駄を履くと新鮮な気持ちになる。
「浴衣姿、素敵だね」珍しく青木くんが、私を褒めてくれた。てへへ。照れくさい。
そーしーて、なんと、今から、青木くんが直々にヘアメイクしてくれるらしい!わぁーい、嬉しい!
青木くんはヘアオイルを慣れたように両手にまぶし、私の髪全体になじませている。そこからは神業だった。私の耳の後ろの髪をジグザグに器用に分け、後ろの髪をお団子にしたあと、横の髪をねじって後ろの髪の下にピンで固定した。その後、毛先をコテで軽くまいてくれて、さぁ出来上がり。
「わわわぁ、可愛い。すごいよ……青木くん」
こんな上手にコテを巻ける男子高校生なんて、日本中探しても青木くんだけなのではないだろうか。
青木くんはというと、褒められて満更でもなさそうに見える。
後ろで様子を眺めている店長さんも、満足そうな表情で両腕を組んでいる。
「そろそろ、青木くん時間だよ」そう店長さんに声をかけられ青木くんも着替えにいった。
「店長、荷物はまたあとで取りに来ます」とバックヤードから出てきた青木くんはまさかの浴衣姿だった。渋い。カッコいい!
「シンプルな藍色がとっても素敵!」というと、青木くんは照れくさそうに「鈴木さんの、そのクレマチス柄の菖蒲色の浴衣と、レッドカラーの帯とっても組み合わせ良いと思う」とすっごいハイセンスな表現でほめられた。
「この髪型は?」そう確認すると、「もちろん、似合っている」と嬉しそうである。ふふふ。
私も嬉しい。青木くんに髪の毛をセットしてもらえるなんて、最高だ!!!
「さぁ、行こう」そういって、青木くんが私に手を伸ばす。
胸がドキドキする。でも、この頬の熱がばれてはいけないと紗枝は反省した。
私が青木くんに対して想うこの気持ちは、彼にとって迷惑であって欲しくない。嫌な思い出としては残りたくないから。
「あれ、楓ちゃんも勅使河原くんもいない」
待ち合わせ時間になっても、二人ともこなかった。そしたら、スマートフォンがピロロリンとなり、楓ちゃんから連絡がきていた。
勅使河原が腹痛でこれなくなったらしいから、私も欠席するという連絡だった。
え、えええ。
気まずい。青木くんとまさかの二人っきり?
とりあえず、神社の境内で、神様にお祈りをした後、屋台めぐりすることになった。下駄で砂利を踏むと、また風情があっていい。
「鈴木さんは何食べたい?あ、好きなクレープがあるよ」「ほんとだ!」あ、案外自然に会話できそうである。青木くんもいつも通り。あ、これは大丈夫そうである。
お祭りの時に、食べるクレープはまた格別である。あっという間になくなってしまった。そういえば、浴衣談義を母としていたら、お昼ごはんを食べ忘れていたことに気付く。
「りんご飴って、食べきれないからちょっと苦手」と青木くんが言うので一緒にいちご飴を買って食べた、あとはカメすくいもあったのだが、生き物を飼いきれる自信がなく二人であきらめる。可愛かったなぁ。ミドリガメの首がうにゅーっと伸びて。でも、うちで飼ったりなんかしたら、タロウのおもちゃにされちゃう末路しか見えない。
「ふぅ、お腹いっぱい!」タコ焼きも食べたし、焼きそばも食べた。かき氷もね。
青木くんもお腹が減っていたようで、沢山食べていた。
そうこうしているうちに、辺りが暗くなっていく。
境内から川がみえるのだが、そこらへんから花火が打ちあがるらしい。
そのため、ゆっくりみえるより高いところへ青木くんと移動する。
ぷしゅぅ~~~、パン!パン!
白い煙が出て、花火ついに始まった。わくわく。どきどき。
パン!パン!パン!次から次へと花火が、暗闇を照らす。
きれい。
私は、耐えかねて、手持ちのカメラを構え、シャッターをきった。
「きれいだね......青木くん」
「ああ、きれいだな」
しゅ~~~!パンパン!
ぷしゅ~~パンパン!!!
多くの人がわぁ、きれい、と話している。
「良かった。青木くんと花火を見ることができて」というと、突然「今まで避けててごめん」と言われた。でも、理由を聞くのも怖いし、どう返事したら良いか迷う。
「うん。寂しかった。今までみたいに、仲良くしてくれたら嬉しい」そういうと、青木くんは「俺も仲良くしたい」と言ってくれた。良かった。
「また、お弁当作ってきて良い?」
「作ってきてくれると嬉しい」
嬉しい。
今まで通りに話せるし、一緒に過ごせる。それが何より嬉しかった。
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