EP85.料理対決と姫の父親

 次の日の昼の話だ。


 俺、江波戸蓮えばとれんは長袖を二の腕まで捲り、やる気を体で表している。

 理由はというと、今日早速白河小夜しらかわさよの父親である正悟しょうごさんと料理対決することになったからだ。


「とりあえず料理対決をするのはいいんですけど、なぜこんなに本格的になっているんですか?」


 小夜が今の部屋にツッコんだ。

 ちなみに、今のツッコミ役は実質小夜しかいない。


 部屋の内装としては、まず折りたたみカウンターテーブルを設置。

 そこに小夜、小夜の母親の小朝こともさん、俺の妹の瑠愛るあの順に並んで席に着いている。


 テーブルの上には食事用エプロン、表裏で色が違う板がある。

 ちなみに表裏が違う板は勝敗を分けるものであり、俺が赤、正悟さんが白だ。


 これだけでもかなりおかしく本格的なのだが、まだおかしいところはあった。


 デザイナーらしい小朝さんの影響で、かなりの量の装飾品、そして''蓮VS正悟 料理対決!!''と書かれた横断幕も掛けられている。


「頑張ったのよ〜?褒めて頂戴?」

「頑張りすぎですよ!?こんな時にしっかりするのはおかしすぎませんか!?」

「早くっ、早くっ、兄さんの料理っ…」


 ああ、やばい…瑠愛が可愛い。

 じゃなくて、小朝さんたしかに変なとこで真面目なのどうなんだろうな…?


「まあ、始めようじゃないか。テーマはどうしようか」

「この後デザートでアイスがありますし、サッパリした物にしましょうか。食感が違いすぎるとそれで別れそうですし、平等を保つためにも」

「了解。そこら辺はよく考えてるよね、凄いな」

「そんなことは無いですよ」


 テーマも決まったことなので、俺と正悟さんは包丁を持ったのだった…いや、ちょっと待ってくれ。


「正悟さん?なんで逆手持ちなんですか?」

「こっちの方が綺麗に捌けるからだね。怪我の心配もない」

「器用だな!?」


 もしかしなくともEP50の小夜の奇行って正悟さんの影響だよな?絶対そうだよな?

 俺は小夜を見たが、小夜はすでに色々と異様な状況で遠い目になっていたのだった。







 料理が完成したのだが、正悟さんは逆手持ちなのに包丁捌きが繊細で素早かった。

 あれ、下手な順手持ちの人を上回る腕だったぞ…逆手持ち意外と凄いんだな。

 …やろうとは思わないが。


「召し上がれ。私の逆手持ち技術のこれまでを全て注ぎ込んだよ」

「両親揃って変なところに全部注ぎ込みすぎでは…?」

「もう諦めようぜ小夜…ほれ、召し上がりやがれ」


 出来たのは俺がポン酢炒め、正悟さんがポテトサラダだった。

 …正悟さんのマヨネーズを混ぜる時の力が強すぎて、ポテトが跡形もないのは俺の気の所為だろうか?


「では、頂きます」

「いただきま〜す」

「…いただきます」


 瑠愛、嬉しいからいいけど視線がポン酢炒めの方に釘付けすぎないか?

 ちゃんとポテトサラダも食べてやれよ…?


 三人は俺たちが作った料理と、主食の白ご飯を咀嚼し始めた。

 俺と正悟さんはさすがに昼抜きは厳しいので、ダイニングテーブルで白ご飯大盛りと相手が作った料理を食べた。


 食べて見て思ったのは、すごく柔らかい。

 色々潰れすぎて歯ごたえがないんだが、逆に食べやすい。

 味付けも絶妙で、クリーミーな食感を楽しめ、それなのに後味はテーマ通りサッパリしている。


「あの豪快な作り方でここまでの美味さとは…」

「ありがとう。江波戸くんの料理もとても美味しいよ」

「そう言っていただけると嬉しいです」


 多少小朝さんに似ている部分はあれども、やはり正悟さんは話しやすい。

 そう思っていたら、正悟さんは神妙な顔になった。


「(…江波戸くん。君はやはり、小夜のことを異性として好意を持っているんだよね)」

「ッ!?ゴホッゴホッ!」


 急にそんなことを言われ、俺は噎せた。

 まさか本人の親にバレるとは…魔王様といい、誰にも言ってないのにバレすぎじゃないだろうか。


「大丈夫かい?」

「ええ…はい。急にどうしたんですか?」

「いや、ね。念の為の確認だよ」

「はい?」

「(…今年の正月、実家に帰ってきた小夜が言っていたんだ。男の子の友達ができた、と。それは初めての出来事だった。小中学で小夜に友達と呼べる存在はいなかったからね)」


 …そうか、俺って小夜の初めての友達だったんだな…高校で、じゃなくて人生の。

 そうなら、少し嬉しい気分だ。


「(でも、男の子…つまり異性。小夜の可愛さ的に、悪い子に捕まる可能性があったからね。今日という日を待ち望みしていたよ)」


 こええよ…昨日もそうだけど、正悟さんって顔に影ができる雰囲気全開だからすげえこええよ…


「まあ、それが江波戸くんでよかったよ。君はいい子だ」

「はあ…」

「(これからも、小夜の事をお願いするよ?)」

「…わかりました」


 父親公認?なのならば、これからも仲を深めていきたいと思う。

 まだ小夜の気持ちはわかっている訳では無いが、いずれそうなるように頑張っていきたい。


「「ご馳走様でした」」

「…ご馳走様」


 ちょうど3人が俺と正悟さんの料理を食べ終えたようだ。


「お粗末様でした。さて、結果発表といこうか…」


 正悟さんのその宣言で、どこからかドラムを連打する音が流れる…いや、どこまで本格的にやってんだよ!?

 <ばん!>と鳴った瞬間、三人が板を掲げる。


 小夜と瑠愛が赤、小朝さんが白だった。


「兄さん一択」

「正悟さんしかないわよねえ…?」


 あ、これ全て小夜に勝負がかかってたのな。


「どちらも美味しかったです。しかし、具材によって色々な食感を楽しめ、最終的にサッパリした後味になる蓮さんの方が私はいいと思いました」

「さんきゅ。…これで俺の勝ち、ってわけか」

「そうだね、おめでとう。これからも君に小夜を任せられそうだよ」


 料理教室のことだろうか…?え、そんな重い条件下で行われてたの?これ。

 ま、まあ…とりあえず、正悟さんとの話はとても有意義だったと思う。


 俺ら五人は、サッパリした後味をアイスの甘さと混ぜながら雑談し始めたのだった。

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