第四話 友人との会話と、コンプレックスのようなもの

「お待たせしました。カプチーノとバケツパフェでございます……とと」

「わわ、フィスト大丈夫? 手伝うよ。思ったより大きいねこのパフェ……」

「ありがとうございます。まぁ、なんでこんなもんがメニューとしてあるのかは僕も疑問なんですけど、ね……」


 サキ先輩とシルヴィアを手頃な席まで案内した後、簡単にオーダーを聞いて、只今料理をお届けしている最中。

 注文を受けるのは本来僕の仕事ではないんだけど、店長さんから「せっかくきてくれたならもてなしてあげな。まだ演奏も君の番までは時間あるし」との言葉を受けたのでこうしてちょっと慣れないけど、見様見真似での接客をやってる。ちゃんと拙いところなく出来てるといいけど。


 で、シルヴィアはカプチーノ、サキ先輩は「面白そう」という理由でバケツサイズの容器に入ったパフェを注文。

 このバケツパフェ、メニューとして存在してる意味がわからないと思うのは僕だけじゃないはずだ。後で店長に聞いてみよう。

 てか普通に重いなこのパフェ。思わず体制を崩しかけるけど、サキ先輩に支えられてなんとかテーブルまで運び切る。


 ……もう不甲斐なさすぎて涙が出そうになったよ。

 どうでもいいけどさ。


 そんなマイナスな気持ちは胸にしまっておいて、なんとか商品を机の上まで持っていって、置く。2人はお疲れ様、美味しそうだね。と言いつつ各々が注文した物を飲んで、食べ始める。シルヴィアはほっこりした顔でコーヒーを飲み、サキ先輩は美味しそうな顔で、時折口周りについたクリームを綺麗な手つきでぬぐいつつパフェを口に運んでいる。


 うん。美味しそうに飲んで、食べてくれてるようで何よりだな。二人の笑顔を見ると、こっちまでつられて微笑みたくなってくる。

 暫く二人は各々で注文したものを静かに楽しんでいたが、シルヴィアが思い出したように、「そういえばフィス」と話題を振る。


「そういえば朝、オリヴィアと会ったみたいだね。また言い争いしてたみたいだって君の近所の人が噂してるの偶然聞いたんだけど……」

「……あぁうん。まぁ、そういえば。てか聞かれてたのかアレ……」


 シルヴィアの口から出てきた話題は、あまり僕の思い出したくないことだった。忘れかけてた朝の出来事が頭をよぎって少し顔をしかめてしまう。

 というかあれ、周りに誰もいなかったし、声を荒げてたわけでもなかったから誰も聞いてないと思ったのに……聞かれてたのか。それがまわりまわってシルヴィアの耳に届いてしまったと。


 醜態さらしたようで恥ずかしいんだけど。誰なの話した人。

 まあ、ご近所には相変わらず僕の事をよく思ってない人が少なからずいるし心当たりもあるから考えられないことではないけどさ。


 そんな、マイナスなことを考えていたらしかめっ面が「少し」なんてものを通り過ぎてしまっていたみたいで。

 シルヴィアは「はっ」とした顔になると、少し慌てて、早口気味に言葉を続けた。


「あ、悪い。いやなこと思い出させちゃったな。でも、少し心配でさ。またあいつ、思ったままに心無いことあれこれ言ってフィスのこと傷つけたんじゃないかって思って」

「あぁいや、別に謝る必要ないよ。心配ありがと」


 ……あぁもう、感情が顔に出やすい性格もなんとかしないとな。それが原因で人に気を遣わせてちゃダメでしょうに。

 僕は精一杯の笑顔を作って、シルヴィアに「大丈夫だよ」と言う意思を伝える。

 

「別にいつも通りだよ。あっちが突っかかってきて、こっちも売り言葉に買い言葉で……って感じ。特に何かされたわけじゃないから、大丈夫だよ」

「いや、その「いつも通り」で彼女が取ってる態度が余りにもフィスに対して棘がありすぎるから心配なのさ。君のことだから、傷ついてるのに無理してるんじゃないかってね」

「そうだよフィスト。君は大丈夫、なんて言ってるけど昔だってそういって辛いのを隠してたじゃん。もっと、私たちを頼っていいんだよ?」


 本当に、二人ともいい友人だ。

 昔から、何かと気にかけてくれて、

 辛い時は寄り添おうと手を差し伸べてくれた。


 シルヴィアもサキ先輩も、僕なんかが付き合うには余りあるほどの才能の持ち主だ。


 シルヴィアは世界に3%といない、自然系のギフテッド、雷を操る能力を持つ存在。


 自然系のギフテッドはどれも強力な力を有する。そんな存在が将来、討伐隊に入って力を順当につけていけば、現在魔族の占領下にある人間界の領土を奪還するのに大きく貢献できるであろう。彼はそんな期待をみんなからかけられている。


 サキ先輩も魔術系ギフテッドCクラスとランク自体は平均的なものではあるものの、努力で自身の中に眠るギフテッドの力をうまく引き出し、現在通う専門学校では優秀な成績を納めているらしい。


 二人は、将来を期待される存在だ。

 彼らの気遣いはとても嬉しい。けど、


 僕にはそれは、少し心苦しくもある。


「本当に–––––––大丈夫、ですから。確かにオリヴィアあいつについては少し頭にくることはあるけど、それでも昔あったことに比べたら大分マシなので。だから、平気ですよ」

 

 少し、言葉に詰まってしまうけど無理矢理言葉を出し切る。心配かけさせまいと、必死に笑顔で隠し切る。


「シルヴィアもありがとう。気持ちは伝わってきたから。ほら、僕なんかに構ってないでもっと気にするべきところあるでしょ。1年後には討伐隊の入隊試験受ける予定って言ってたじゃん」


 僕は知ってる。彼らが僕と付き合っていることを余りよく思わない人がいる事を。一緒に歩いているだけでどこか冷たい視線が振り向けられるのを、よくない言葉をかけられているのを、感じる。もっとも二人とも「気にしなくていい」と言う雰囲気で接してくれているけど。


 だから、こうして「構うな」なんて事、遠回しに言ってる。あんまり聞き入れてはくれないけどさ。


 君らだって、無理してるんじゃないのか。そう思わずにはいられない。

 こんなにも将来に期待をかけられているのに、僕に構ってる所為でそれに傷がついたりでもしたら。

 そう思うと心苦しさを感じる。


 あとは–––––––−僕の醜い劣等感も少しある。

 一緒に並んでると、どうしても感じてしまうところがあるのはもうどうしようもないような気がしてきた。


「ちょっとフィスト、僕「なんか」なんてそんな事––––––」

「あ、そろそろ僕の演奏の時間になったみたいだ。よし、2人が来たならいい演奏聞かせられるように頑張るかな。じゃ、行ってくるよ」

「あ、ちょっと待っ−–––––––」


 サキ先輩が何か言いかけるけど、無理矢理話題を切って店の奥にあるピアノへと向かう。申し訳ないけど、時間が来たのだし仕方ない。


 ––––––––なんて言い訳、通用しますかね。精霊様。

 そう思いながらピアノへと向かい、一呼吸置く。


 今日は、自分の頭のもやを振り払えるうな、明るい曲調で行くか。ヘ長調の即興なんか得意だな。

 そう思いつつ一つ息を吸って、僕の十八番の即興でのピアノ演奏の世界に、没入した。

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