あ、あんた、あたしに欲情したなら付き合いなさいっ!〜友達以上、でも恋人はおれ的になしの幼馴染女子が日に日に女子力………ではなくヒロイン力を向上させている件について〜
第25話 「デート、今からおれとして欲しい」
第25話 「デート、今からおれとして欲しい」
雲に隠れた夕陽が鈍いオレンジ色に染めた空中庭園。
大人しく付き従う菜々を連れた奏人は落ち着いて会話をするため、周囲に人が少ない場所を求めて歩き、やっとの思いでその場所を見つけていた。
「カバン、ベンチに忘れてたぞ」
「……ありがと」
「一応中身も確認しといてくれ」
「多分大丈夫」
菜々は軽く自分のカバンを漁ってからゆっくり指先にぶら下げた。
「それと……念のために一つ確認しておきたいんだけど、さっきの男は知り合いじゃないよな?」
「………」
持ち前の明るい元気を無くして気落ちしている菜々は無言のまま、けれど頷きを持っておれの確認が間違いでないことを教えてくれる。
「何かされたか?」
「……何もされてない」
「何か嫌なことでも言われたか?」
「……別に」
「なら、何にそんなに傷ついてるんだよ」
「っ……あたしは傷ついてなんかっ!」
菜々は歯を食いしばって力強い声で、けれどその勢いもすぐに衰えた。
「傷ついてなんかない……」
ポツリと口にした否定の言葉。
菜々の表情と仕草を見れば、それが嘘であることは明らかである。
「いいから言えって。話した方が絶対楽になる」
「何でもないって」
「そんなわけあるか。お前が嘘ついてることくらいすぐ分かる」
「だから何でもないって」
「何をそんなに頑固になってるんだよ。今日のお前、なんか変だぞ?」
「っ……奏人には関係ないじゃん!」
突き放すかのような菜々の物言いに、今にも泣き出しそうなその表情に少なからず衝撃を覚えた。
そして何となく悟った。
今の……いや、今日の菜々はおれのことを何でも話し合える幼馴染として見ていない。
自分が告白した異性としておれのことを見ているのだと、バカで鈍感なおれは今更ながらに、やっと気づいた。
(っ…………何が……何が『難聴系鈍感主人公の道を歩んでいないよな?』……だよ。菜々のこと、こんなに傷つけてといて今頃になって気づくなんて。『今日は優しくしてやるか』なんて上から目線な態度でいてこのザマとか……)
自分の今日の行いを少し思い返すだけでも反吐が出そうなほど嫌気がさす。
馬鹿で間抜けで鈍感で道化ピエロな自分をぶん殴ってやりたい衝動に襲われた。
けれど今は……今この瞬間は、それよりも大切なことが目の前にある。
「……ごめん、無神経だった」
「ううん……奏人は悪くない……あたしが勝手に傷ついて、勝手に怒鳴って」
「いや、そうじゃない」
「え?」
「今日のおれの態度。きっと菜々が望んだものじゃなかったと思うから」
「ぁ……」
おれの言葉の真意に気づいた菜々は、小さく息を漏らして軽く握り込んだ拳を優しく打ちつけてきた。
「今日はデートだって、始めに言ったよね?」
「うん」
「デートって、幼馴染がすることじゃないよね?」
「うん」
「男女が二人の仲を深めるためにするものじゃん」
「うん」
打ちつけていた拳をほどき、菜々はおれの胸元を片手で優しく握り込んでおれの顔を見上げてきた。
「ならさ、こんなあたしだけど今日は女の子扱いして欲しかったんだよ」
「うん、本当に……悪かったと思ってる」
「ほんとバカ……奏人も……あたしも……」
静寂が二人を包んだ。
そしてそんな二人の静寂を打ち破ってくれるのはいつだって菜々の方で。
「はぁ〜〜〜、やめやめ。これ以上辛気臭いのは耐えらんないから、今日はもういつも通りでいこっか」
「菜々」
「何?言っとくけど『欲情させる宣言』の作戦は続けるつもりだから覚悟しといた方が…」
「デートしよ」
「へ?」
だから今日くらい、おれの方から幼馴染をやめても神様は赦してくれると思う。
「デート、今からおれとして欲しい」
いつの間にか雲は晴れ、世界が淡いオレンジ色に包まれていて本当によかったと思った。
そうでなかったらきっと、おれの紅潮した頰を菜々に気づかれてしまっていたから。
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