第12話 「これだから難聴系主人公は……」






「弁当箱返しに楓の家に顔出してくるからちょっとだけ待ってて」


「ほーい」



 何とか菜々を説得(後半はもはや必死の懇願)により、家に帰ることを了承させて玄関前。


 菜々を送るついでにと、楓の家に弁当箱片手に向かった。


 徒歩10秒。


 ザ・お隣さんの距離だな。






「ふぁぁ……むにゅむにゅ」


「ごめん、お待たせ菜々」


「ふぁ……奏人遅い。仁美さん楓のお母さんと何話してたの?」


「いや、学校での楓をよろしくだとか、明日も弁当を用意してくれるだとか」


「そういえば、昼の弁当、メインは仁美さんの手作りだったね」


「さすがに申し訳ないから断ろうとしたんだけど、二人分くらい大した手間じゃないって押し切られて」


「まっ、もらえるものはもらっておいたらいいんじゃないの? ずっと学食だと飽きるだろうし」


智和さん楓のお父さんの分の弁当が無くなるだけだって…」


「いや、そこは全力で断ってあげなさいよ!」



 目が覚めるかのような菜々のツッコミを受けて、二人とも思わず笑ってしまう。



「ふっ」  「ふふっ」



「あ〜あ、智和さんかわいそ〜」


「いやほんと、今度顔をあわせる機会があったら気まずくてしょうがない」


「仁美さんたらし込んだ罰だから、自業自得よ」


「たらし込んでないから。お隣さんとして普通に接してるだけだから」


「これだから難聴系鈍感主人公は……」


「ちょい待て、そんな単語どこで覚えてきた?」



 そんな他愛もない会話を続けていると菜々のケータイの着信が鳴った。



「あ、ママだ。ごめんちょっと出る」


「おう」





「うん、ごめん。奏人と一緒にいる。……もうすぐ帰るから。分かった。うん。うん。はーい」




「恵さん菜々の母親なんて?」


「遅くなるなら連絡しろって」



 現在の時刻は9時50分。


 高校生を子に持つ親でなおかつ連絡が無かったのなら普通に心配する時間だろう。



「おれの家に行くこと言ってなかったのか?」


「忘れてた……てへっ☆」


「ったく……」


「でも奏人と一緒にいるって言ったらすぐ許してくれたよ?」


「人を免罪符代わりにすんなバーカ」


「それでも一刻も早く帰らなければいけない菜々は、自転車での送迎を希望します」


「そしてすぐにタクシー代わりにすな」



 少なからず菜々の帰りが遅くなってしまった理由がおれにもあるので、言われた通り自転車を引っ張り出す。



「へっへ〜。やったね」



 意気揚々と荷台に腰掛ける幼馴染。


 そして逡巡することもなくおれの腰に手を回してくる。


 まあ気恥ずかしさとかがないのは今に始まったことじゃないし、おれも同じなんだけどさ。



「しっかり掴まってろよ」


「ほーい」



 力強くペダルに足を乗せて漕ぎ始めた。


 向かい風を受けながら、それでも二人を乗せた自転車はぐんぐんと加速していく。


 春の夜はまだほんの少しだけ肌寒いが、後ろにピッタリとくっついている特大のカイロが温かさを分けてくれる。


 空気も澄んでいて星がいつもより輝いて見えて、何だか心が落ち着く。


 広がる夜空の下、世界にたった二人だけしかいないような感覚が二人を優しく包んだ。





























「…………… 好きだよ」





























「うん? 何か言ったか菜々?」


「ん〜ん〜……何でもなーい!」

























「バーカ ……」


















 

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