第71話 片手剣
翌日カイはアイテム屋のコロアの店に顔を出した。相変わらず客がいなくてコロアが手持ち無沙汰で店内の商品を並べていたが、カイが店に入って来たのを見ると早速テーブルを勧めお茶を入れる。クズハもすっかりこの店に馴染んでいて、カイの肩の上や腹の上に乗ってリラックスしている。
「聞いてるよ。キアナの未クリアダンジョン、全てクリアしたらしいね。でも出なかったんだろう?」
「その通り。刀は出なかった。これで高難易度として知られている国内のダンジョンは全て制覇したけどダメだったよ」
カイの話を聞きながらお茶を飲んでいるコロア。コップをテーブルに置くと、
「となると他国に出向くのかい?」
「そうしようと思っている。調べたところだとモンロビア、ローデシアの辺境地区にそれぞれ3つずつ、都合6つ高難易度で未クリアのダンジョンがあるらしいので、そこに挑戦してみようと思っている」
「元からカイは片っ端からダンジョンを攻略するって言ってたからね」
「それしか方法が見つからないからな」
そう言ってコロアが淹れてくれたお茶をおいしそうに飲むカイ。その姿を見ながらコロアがボソッと。
「それでもなければ後はまだ見つかっていないダンジョンだね」
その言葉にカイはコップを持っていた手を止めてじっとコロアを見る。彼女は続けて、
「この大陸は広い。まだ見つかってないダンジョンがあってもおかしくはないだろう?」
「確かに。確かにその通りだ」
誰にも言ってないがカイは内心では手詰まり感を感じていた。あと6つのダンジョンになかったらどうなるのか。霊峰には行けないとなると結局見つけられないままにアマミに戻るしかないのかと思ったりもしていた。
今のコロアの言葉を聞いてまだ可能性があるとわかり、悩んでいたカイの表情が明るくなっていった。
コロアの言う通り確かに大陸中のダンジョンが全て発見された訳じゃない、それが証拠に難易度は別として新しいダンジョンが不定期に発見されたと報告が来ていたのを思い出したカイ。あと6つで刀が出なければ人気の少ない場所を探索すればまだ誰も知らないダンジョンがあるかもしれない。
「もっともあと6つのダンジョンのいずれかで刀が見つかったらそれが一番いいんだろうけどね」
コロアの言葉に我に返ると頷いて、アイテムボックスから片手剣を取り出すカイ。鑑定だねと言ってじっとその剣を見ていたコロアは顔を上げると、
「ダンジョンボスからかい?」
「リヴァイアサンだった」
カイの言葉を聞いてもう一度片手剣に視線を落とす。そして再び顔を上げると、
「以前カイの片手剣で火の精霊効果が追加効果で付くという剣があっただろう?」
「ああ。覚えている」
カイが王都の騎士のイレーヌにあげた片手剣だ。
「それよりもこっちの方が優れものだね。まず剣自体の威力が違う。切れ味が鋭いよ。
それとこの剣には水の精霊の加護が付いている。具体的に言うと相手に与えたダメージの5%を自分のHPに還元する様になってる。こんな剣は初めてだよ」
「何だって?」
思わずコロアを見るカイ。
「敵に与えたダメージの5%分を自分のHPに還元するって?」
コロアの言葉をおうむ返しの様に言うと、
「その通りだよ。水の妖精の加護だね。エルフだから見られるね。ギルド辺りで鑑定すると恐らく切れ味の鋭い剣、これで終わっちまうだろうね」
5%とは言え攻撃をしながら回復できるというのは戦闘において大きなアドバンテージとなる。特にリンク等で戦闘が長期化すれば5%の積み重ねのメリットは大きいし、パーティになると僧侶の回復魔法の回数が減る、すなわち魔力量を温存できる等計り知れないメリットが出てくる。
「凄い片手剣だな」
カイの言葉にテーブルの上に載せている片手剣をカイに戻すと、
「どうする?うちの店で買い取るなら金貨400枚出すよ」
「凄い金額だ」
「それくらい価値があるってことさ」
カイは少し考えてから
「コロアには悪いがこれは自分で持つよ。世話になった人にお礼の品として渡したい」
カイの言葉に大きく頷き、
「モンロビアに向かう前に顔を出してくれるかい?」
立ち上がったカイに声をかけるとわかったと返事をしてコロアの店を出たカイは夕方にギルドに顔をだし、受付にいたスーザンを見つけると、
「数日後にモンロビアに向かうよ。ところでモンロビアからキアナに来ていたパーティはまだキアナにいるのかい?」
「まだいらっしゃいますね。時間的にもう直ぐ戻ってくる頃だと思いますが」
スーザンの言葉を聞いてじゃあ待つかと併設の酒場に移動するカイ。そこにいた知り合いの冒険者達と雑談をしていると、まずランクAのイーグルのパーティがギルドに戻ってきた。
精算を終えて酒場にきたイーグル達はカイを見つけて同じテーブルに腰掛ける。挨拶を済ませるとカイがアイテムボックスから片手剣を取り出して、
「これ、イーグルが使ってくれよ。ダンジョンボスのリヴァイアサンから出た片手剣だ」
片手剣を受け取ったイーグルは
「業物じゃないか。軽くて振りやすい。いいのか?」
「構わない。イーグルにはキアナに来て以来ずっと世話になってきた。遅くなったがそのお礼だよ」
そう言ってからその剣の隠し効果の説明をするとその場にいた冒険者達が大きくどよめく。
「ちょっと待ってくれ。与えたダメージの5%を自分のHPに還元する?そんなの聞いたことがないぞ」
イーグルが言うと周囲からも
「そんな剣、初めて聞いた」
周りからいろんな声が出ているがカイはじっとイーグルを見ていて、
「知ってる通り俺の武器は刀だけだ。使ってくれよ」
隣からハンスも
「俺も貰った。他のメンバーも貰ってる。イーグルもカイの好意を素直に受けたらどうだ?知ってるだろう?カイはそういう奴だって」
「まぁな。余りに凄い性能を言われたんでびっくりしているんだよ。カイの好意ありがたく受け取ろう。ありがとう」
その後はその剣についての話題になった。与ダメの一部が自分のHPに還元されるなら戦闘がグッと楽になる。リンクしたりボス戦でもかなり重宝しそうだ。なにより剣自体が今までイーグルが使っていた片手剣よりずっと優れた物だ。
僧侶のシルビアも
「私の回復魔法の回数も減るだろうし、いいことずくめじゃない」
「そう言うことだな」
頷く他のメンバー。
「そうそう、魔法の威力が増える杖がまた出たんだ。シルビア使ってくれよ」
「えっ!いいの? 嬉しい」
「ダンにあげたのと同じ効果だと思う。俺は要らないからどうぞ」
大はしゃぎのシルビア、他のメンバーも改めてカイに礼を言う。
そうしてひとしきり剣や杖の話をすると、ダンジョンの話から今後のカイの動きについての話になっていった。ハスリアの未クリアダンジョンを全てクリアしたカイが次に向かうのはモンロビアのオースティンでその周辺の未クリアダンジョン3箇所がターゲットになるという話をしていると、ギルドにそのオースティンのメンバーが入ってきた。
「丁度よかった。ブル、査定が終わったらこっち来てくれよ」
イーグルの声に片手を上げて返事をするとしばらくしてモンロビアの連中が酒場に入ってきた。挨拶を終えるとイーグルが、
「カイがキアナのダンジョンをクリアして次はモンロビアに向かう予定なんだよ」
「なるほど。いつ向かうんだい?」
リーダーのブルがカイに顔を向けて聞いてくる。
「まだ決めてないが1週間以内かな」
「なるほど。じゃあ俺達と一緒に行くかい?俺たちもあと1週間程で一旦オースティンに戻ろうかって話をしてたんだよ」
その言葉に続けてブルのパーティの盾をしているリチャードが、
「俺達と一緒に行ったらオースティンに着いてからも楽だろう。シノビなんてのはモンロビアではまず目にしない。カイの実力を知らずにちょっかいかけてくる馬鹿がいるかもしれない。そんな時に俺達が一緒ならカイにちょっかい出すやつもいなくてカイも動きやすいはずだ」
「まぁちょっかいかけてくる奴がいたら、ぶちのめせばいいだけの話なんだが余計なトラブルは無いに越したことはないからな」
カイが言うと周囲からそうそうとか、穏便に行こうぜと声が飛ぶ。カイも苦笑して、
「じゃあそっちが良ければオースティンまで同行させてもらいたい」
「カイなら何の問題もないぞ。じゃあ俺たちの帰国の日が決まったら連絡する」
そう言って酒場を出たカイは宿でアニルバンに話をし、1週間前後でモンロビアのオースティンに向かうと告げた。
「向こうで3箇所のダンジョンか。現地で1ヶ月か2ヶ月の滞在だな。刀が出る事を祈っているよ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます