第19話 辺境領主

 翌日、朝カイが部屋から下に降りていくと既に騎士の使いという人がカイを待っていた。クズハと共に馬車にのり辺境領の領主宅にむかってキアナの街中をゆっくりと進んでいく。


 キアナは辺境領の中心都市でありその領地を治めている辺境伯は広い街の中にある丘の上に大きな屋敷を持っている。城の形にはなっていないが、広大な敷地の中に辺境領主がいる大きな屋敷、そしてそれを囲む様に大小の屋敷が建っている。


 敷地に入る門を馬車で通過すると、そのまま一番大きな建物の前で馬車が止まった。


「ここからは武器の装備は遠慮願いたい」


 馬車を降りたところで待っていた衛兵が言うとカイは2本の刀をアイテムボックスに収納する。肩にカーバンクルのクズハを載せたまま衛兵について屋敷の中にはいっていく。


 廊下の突き当たりの扉の前に衛兵が立つとノックをして


「冒険者のカイ殿をお連れしました」


「入れてくれ」


 扉を開けると、大きな部屋の奥の壁の前に大きな執務机があり、その前にはソファセットが、そして打ち合わせ用と思える大きめのテーブルと椅子がある。


 衛兵に連れられて部屋に入ってきたカイを見て執務机の向こうから移動して近づいてきた人物。がっしりとした体躯に精悍な顔つき、この辺境領を治めている領主のアルバート=エドモンドだ。

 

 いわゆる貴族の様な気取ったところもなく公平な自治を行い税も高くないということで領民からは絶大な支持を得ている。執務室を含む屋敷も敷地は広いが質実剛健といった建物で、装飾も控え目だ。


「よく来てくれた、この辺境領の領主をやってるアルバート=エドモンドだ」


 差し出された手を握り返しながら


「アマミ出身のカイです」


 勧められるままソファに座るカイ。衛兵は2名、執務室のドアの前に立っている。


「これがシノビの服装か」


「はい これで冒険者として活動しています」


「動きやすそうな格好だそれでその肩にのっているカーバンクルはカイがティムしているのか?」


「はい」


「カーバンクルをティムするのは珍しいな」


 領主はテーブルの上に置かれたジュースを1口飲んで、


「アマミの街は俺の領地内だ。もっとも行ったことはないがな。カイも知ってると思うがあの街はこの国いやこの大陸の中でも異質の文化を代々継承してきている」


 領主の言葉に頷くカイ。


「それが悪いと言ってるんじゃないぞ。我々と違ってアマミの人々は昔東の海の向こうから移住して今の地に住み始めたってことは知っている」


 そこで一度言葉を切ると、


「アマミは武術が盛んで、あの街の出身者は総じて戦闘能力が高い人が多い。とは言うもののアマミからこのキアナに来てあっという間にランクBになって盗賊の討伐に同行したって奴がいるという話を聞いてな。そこまで強いアマミ出身者ってのは聞いたことがなかったんでな、一体どんな冒険者か会ってみたかったんだよ」


 領主がそう言うと、ドアの前に立っていた衛兵の1人が、


「カイ殿は最近ランクAに昇格されました」


「本当かよ? 本当にあっという間にAまで上り詰めたってわけか」


 感心している領主。頷くカイ。


「ところで、アマミの出身者は定期的に冒険者になっては大陸中に出向いていると聞いているがそれは何か目的があってなのか?」


 カイは領主の目をしっかりと見ながら、


「はい。アマミに昔から伝わる言い伝えでアマミで一番の刀の使い手は伝説の刀と小太刀を探し、それを街の裏にある祠に奉納すると未来永劫アマミの街は栄え続けると言われています。私もそうですし過去のアマミ出身者のシノビの人も皆その伝説の刀を探すことを使命に街から出てきてます」


 初めて聞いたのか、うーんと声をだすと、


「なるほど。街の期待を背負ってるってわけだ。つまりカイはアマミで一番の刀の使い手ってことか。それでその幻の刀ってのは間違いなくこの大陸のどこかにあるっていうんだな?」


「はい。街の守護神のフェンリル、我々は白狼様と呼んでいますが、その白狼様があると仰っていますので、必ずどこかにあるはずです」


「そうか…」


 そう言うと領主は顔を上げて天井の一角をじっと見つめる仕草をする。しばらくしてから顔をカイに戻すと、


「今いろいろと他の貴族の連中とのやりとりを思い出してみたが、刀を持ってるって話しは聞いたことがないな」


「となると、王家の宝物の中にあるか、それともダンジョンの宝箱か魔獣からのドロップ品になります。それがわかっただけでも収穫です」


 カイは領主の話を聞きながらこの国での探究の方針が決まったと思っていた。


「あとはローデシアかモンロビアか」


 領主はそう呟くと、続けて


「必要がありゃ他国にも行く腹づもりなのかい?」


「ええ。幸いに今は大陸中の3国はそれぞれ友好関係があり移動に制限がありませんから」


「そうだな」


 答えながら、領主は領主でこの優秀なシノビをなんとか辺境領に留めておく方法がないものか考えていた。


 シノビは大陸中でも認知されたジョブだがその実態はこのハスリア王国内ですら知らないものが多く、領主としては今は他国とも良い関係になっているが、これもいつまで続くという保証もなく、万が一の事態になった際には武術のレベルが高いアマミのシノビを隠し戦力として使いたいという考えがあったのだ。


 ちなみに大雑把に言って、この大陸の東半分はハスリア王国で西側の北側をローデシア、南側がモンロビアが治めているという位置関係になっている。


「その幻の刀の件については俺も気に留めておいて何かあったらカイに連絡してやろう」


「ありがとうございます」


「とりあえずはこの王国の中をじっくり探索したらどうだ?まだまだ未クリアのダンジョンや未開の地もあるだろう?」


「ええ。そうするつもりです」


 カイがあっさり頷いたので拍子抜けすると同時にすぐに国を出て行かないと聞いて安心した領主。


「ところで」


 とカイが領主に逆に質問をする。


「半年程先に王都で武道会らしきものがあると聞いているのですが、参加に条件はあるのでしょうか?」


「いや、あの武道会は申込みすれば誰でも参加できたはず。そうだったよな?」


 と門の前に立っている衛兵に聞く領主。


「冒険者であればランクB以上なら皆参加資格があります」


「ならお前は大丈夫だろう。出るのか?」


「はい。優勝すると王家の宝物を頂けると聞いています。刀があるかもしれません」


「なるほど」


「強い相手がいるかもしれんから鍛錬しておくんだな」


「わかりました」


 領主との面談を終えて衛兵の1人がカイを屋敷の玄関に連れて出ていった。


 もう1人残った衛兵に領主が、


「どうだ?」


「落ち着いていますが相当のやり手と見ます」


「ほう。この辺境領の騎士の中で一番の剣士のお前がそう見る根拠は?」


「隙がありませんでした。常に半分腰を浮かせてあらゆる事態に対応できる姿勢を

保っていました。しかもそれが自然にできている。恐らく昔からそうやっているので当たり前の様にできるのでしょう。

 当人から醸し出る雰囲気も普通の冒険者のそれとは全く違います。外見は華奢で大人しく見えますが、私はできれば手合わせをしたくない相手ですね」


「お前がそう言うとはな」


「10回やって2回勝てればいい方でしょう。下手をしたら1回も勝てません」


「それほどの強さなのか?」


 びっくりする領主。その衛兵は領主に頷き、


「私が街やギルドの冒険者から得た情報ではあのシノビは刀の武術のみならず魔法、彼らは魔術と言っていますが、その魔術も相当な威力だそうです。それに加えてシノビのジョブ特性。勝つのは相当厳しいでしょう」


「なんとかして囲い込みたいが、アマミの使命ってのをないがしろにする男には見えないな」


「仰せの通り。まずは好きにさせるのが良いかと」


「とりあえずそうするか」


 そう言うと衛兵を見て


「奴の動きはチェックしておいてくれ」


「わかりました」

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