第17話 ギルドの酒場にて


 ギルマスに礼を行って応接を出てカウンターのあるフロアに戻るとそこにいた冒険者達がカイに寄ってきた。


「またダンジョンクリアしたんだって?」


「聞いたぜ、ランクAになったんだってな。まぁカイならそうなると思ってたよ」


「最強のシノビじゃないのか?」


 と肩を叩いて祝福してくれる。結局そのままギルド横の酒場で祝勝会ってことで酒を飲むことになった。


 カイの座っているテーブルの周囲に男女の冒険者が集まって、酒やジュースを飲み、食事を取りながら盛り上がっている。そこには盗賊退治に一緒にいったランクAのイーグルやサイモン、ハンス、マリーとシルビアもいる。


「カイがランクAになったって聞いてお祝いにきたんだよ」


イーグルが言うとハンスが続けて


「ジェンとダンはお互いに別々の指名クエストで街から出ていて来れないが街にいた連中は皆集まってくれたぜ」


「かたじけない」


「カイならすぐにランクAになるってあの時の全員が思ってたわよ」


僧侶のシルビアが言うと狩人のマリーが


「そうそう。でも本当にシノビって万能なのね。気配感知もあるし、移動はシーフ並に素早くて音を立てないし、それで戦闘は刀と魔法、いや魔術だっけ?使えるし」


 周囲の冒険者はランクAの会話を黙ってきいていて


(おい、ランクAの連中があんだけカイを褒めるって相当だよな)


(ああ、俺たちが思っている以上にとんでもない奴だ)


こそこそと話あっている。


「ところで、クリアしたダンジョンについて教えてくれないか?」


「ああ、全然構わない」


 イーグルの依頼に、ダンジョンの説明をしていくカイ。周囲の者は皆今後の攻略の参考にしようと黙って2人のやりとりを聞いている。


「なるほど、34層からはランクAより上のクラスの魔獣がでてくるのか」


「そしてそのまま下に降りてくとそのクラスの魔獣が複数体固まってでてくる」


 狼族のハンスが


「カイ、率直に言って欲しいんだがそのランクAより上の魔獣、俺が止めることは出来そうかい?」


「1体ならハンスなら止められるだろうな」


 質問に即答するカイ。


「2体以上は厳しいか」

 

 今度は少し間をおいてから、


「2体がギリギリかな。ただ俺はまともに受け止めずに交わしながら戦闘してたからはっきりしたところはわからないが。言えるのは1体ならあんたなら全く問題なくガッチリ受け止められる」


「なるほど 参考になるな」


「それで最下層のボスは?」


 酒場でのやり取りの会話の主導権はリーダーの素質があるイーグルが仕切っているが、皆誰も文句は言わずにイーグルにやりとりを任せている。


 聞かれてカイはボス部屋での戦闘の時の様子を詳しく説明していく。

 

 聞き終えると、


「2つジョブ持ちをソロで…お前ランクAじゃなくてランクSでもいいんじゃないの?」


「無詠唱で範囲魔法3連発なんて、お前以外にできる奴いないだろ?」


 イーグルとサイモンの言葉で酒場がざわつく


(ランクSクラスだと?)


(あのイーグルとサイモンがカイをべた褒めだぜ)


「俺はこのやり方しか倒せないと思ったからそうしただけで、パーティならもっと楽な討伐方法があるかも知れない」


「だとしてもだ、初めてあったボスと戦闘してすぐにその攻略法を見つけるなんて並の冒険者じゃ逆立ちしたって出来やしない」


 イーグルの言葉にカイはしばらく考えてから


「アマミのシノビの鍛錬で、刀を合わせた相手の弱点を瞬時に見つけないと自分がやられるってくどい程言われて訓練してきたからか、パッとみて大体弱点の見当がつくんだよ」


「なるほど。昨日今日ついた能力じゃないってことか」


「そうなるな」


 その後も別の冒険者の質問に答えたりしていると、


「それでカイ、これからどうするんだ?刀を探しに旅にでるのか?」


「ダンジョンに篭りっぱなしだったからしばらくこの街で休養して、それからどうするか考えるつもりだ」


 そう答えるとイーグルが周囲の冒険者達をみて


「カイはこの大陸のどこかにあるって言われている幻の刀ってのを探し求めている。

誰か刀に関して噂や情報を持ってないか?」


「刀かぁ」


「聞いたことないわね」


 イーグルの問いに皆お互いで話しをしたり考えたりしていたが、1人の冒険者が、


「直接は関係ないけど、王都で行われてる武道会に出てみたらどうなんだい?確か優勝者は王家保有の宝物を1つ貰えるとかじゃなかったっけ?」


「あったね。王都の武道会。そうそう、優勝したら1つ好きなのを王家の宝物庫から貰えるって話、私も聞いたことがある」


 周囲の冒険者が言うのを聞いていいたイーグルも


「確かにあの武道会で勝つと1つ好きなのを貰えたな」


 その会話に飛びつくカイ


「そんなのがあるのか」


 思いもしなかった話がでて思わず身を乗り出す。そのカイの仕草を見ながらイーグルが、


「ああ。年に1度王都で開催される武道会。このハスリア王国中から腕自慢が集まってくる大会さ」


「イーグルは出たのか?」


「1度だけな。準決勝で負けたよ」


「イーグルが負けるって、それほど強い奴がいるのか」


 カイが質問すると、イーグルの代わりにサイモンが


「王都の騎士の中に1人とんでもなく強い奴がいるのさ。女なんだが今は王国守備隊隊長って肩書きで若いがめちゃくちゃ剣が立つ」


「ああ、そいつがここ3年連続で優勝している。女だってナメたらとんでもない目にあう。あいつは強い。俺もあっという間に負けたよ」


 サイモンとイーグルが話するのを聞いているカイ


「今年の王都の武道会は確か4ヶ月ほど先じゃなかったかな?」


「他に情報がないなら、それに出てみるのも手よ」


 ハンスとシルビアがフォローしてくる。カイも話を聞きながらその武道会というのに出てみようと言う気がおきていた。


「そうだな。4ヶ月後ならまだ時間があるし、それに出てみるか」


 カイが出ると聞いて周囲が盛り上がり


「カイなら優勝できるんじゃないの?」


「王都まで見に行きたいわね」


「いやいやイーグルが負ける位だ、そう簡単にはいかないだろう。とりあえずこの街でダンジョンを攻略しながら腕を上げるよ」


 周囲は盛り上がっているがカイは冷静に自分を分析していた。このハスリア王国の中でもこの辺境領は一番レベルの高い魔獣が集まっている。ダンジョンも多くあり、自己鍛錬には最適な場所だろうと。


 そう思っていると、


「カイの考えでいいと思うぜ。この街と周辺でしっかり鍛錬してから王都に向かえばいい。まだ未クリアのダンジョンもあるし、カイもまだまだ伸びそうだしな」


「イーグルのお墨付きがあると方針が間違ってなかったんだと安心するよ」


 酒場での宴会がお開きになって定宿に戻ったカイ。刀を手入れしながら側で見ているカーバンクルのクズハに、


「王都か…出たら勝てる様にもっと鍛錬しないとな」


 その言葉に尻尾を振って答えるクズハを見ながらカイは刀の手入れを続けた。

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