第45話「プロットという名の短編:『現代ファンタジーマンガ家が異能力手に入れたけど、特にバトルとか起きないから仕事・家事・育児に使います』」

  これは私がカクドコンに出す予定作品のプロットを短編風にまとめたものです。


 タイトル:『現代ファンタジーマンガ家が異能力手に入れたけど、特にバトルとか起きないから仕事・家事・育児に使います』


                  ※


『ドカッ! バキッ!! ドォーンッ!!』


 現実ではありえないような擬音がマンガの中で飛び交う。


「う~ん、ここでのセリフは、『もう一発っ!』かしら、それとも、『まだまだぁ!』どっちかしらね」


 妙齢の女性が夜遅くにそんな独り言を拳を突き出しながらしている。

 頭には自らの職業を示すようにベレー帽が乗っかり、白地のセーターにピンクのロングスカートという出で立ちだ。

 どちらにするかなかなか決まらないようで、女性は今度は立ち上がると、見えない拳をいなし、スカートということも気にせず蹴りを繰り出す。そして、ぐっと、力を貯めてから拳を突き出し、「もう一発っ!」と叫んだ。

 それから深呼吸を一度すると、再び同じ行動を行うのだが、最後の声のところだけ、「まだまだぁ!」に代わっていた。


 ガンッ!!


「あっ!! テレビがっ!!」


 45インチのテレビに拳がぶつかると、テレビは大きく揺れ、ストッパーの抵抗むなしく、倒れてくる。


「うおっ、あぶなっ!!」


 なんとか避け、体は無事だったが、テレビは全壊、基板やコードなど見えてはいけないものが見えている。


「おおっ。テレビの中ってこんななんだ。いやいや、それよりも。うん。もう一発は発声的にちょっとキツイから、この余裕がない戦いでは、まだまだぁの方がリアルね」


 女性はテレビが壊れたことよりもセリフの選択を優先させ、そう言うと紙の中の吹き出しにセリフを書き込んでいく。


「ふぅ、これで、次週のネームはOKね。明日編集に見てもらわないと。あとは一息ついたらカラーページの構図も考えないといけないわね」


 僅かな時間とはいえ一息つけると女性が思っていると、


「おかさん? どこ? おかさぁん!!」


 幼い子供の泣き声で、即座に部屋を飛び出るのだった。


 隣の部屋まで全力疾走するこの女性は、名前をミツキと言い、一女の母にしてマンガ家であった。


               ※


「おー、よしよし。大丈夫だよ。お母さんはここに居ますからね~」


 目の前には涙を浮かべる3歳になる愛娘ミカンの姿。

 潤んだ瞳がさらに可愛さを引き立てるとよこしまな考えが頭をよぎるがすぐに振り払う。

 

 娘は小さな手で涙を拭うと、まるで日本人形のような可愛らしい顔を母親へと向ける。


「おかさん、お化け出ない?」


「出ないわよ。出てもお母さんがやっつけちゃうからね」


「ほんと?」


「ほんとよ。お母さん、ミカンにウソついたことないでしょ?」


「う、うん」


 ミツキの娘、ミカンは大泣きしていたのがウソのように静かになり、いつの間にかスヤスヤとした寝息を立てていた。


「ふぅ、これでマンガの続きが描けるわね」


 休息時間を娘をあやす為に使ったミツキが、そろそろと足音を立てないように自室へと戻っていく。


「あっ、そういえば、テレビが……」


 部屋の惨状を改めて見て、マンガより先に片付けだろうなと思ったミツキは、おもむろにテレビに近づき、起こそうとしたのだが、持ったところが悪くむき出しのコードに触れていた。


 ゴロゴロ! ピシャァーン!!


 雨も降っていないのに、突然の落雷。


 ビリリッ!!


「痛っ!!」


 体に電流が流れたと感じた瞬間、ミツキの意識は闇の中へと落ちて行った。


                ※


「う、う~ん」


 固い床で寝てしまうのは日常茶飯事なのだが、今日はやけに体が軽かった。


「ん? いつもより重いならわかるけど、なんで体が軽いの?」


 腕を軽く動かすと、普段は動かないようなところまで動く。


「肩コリが治ってる?」


 いつもなら、ここまで動かそうものならば、ゴキゴキバキバキと異様な音が発生していたのだが、今日はそれがないのだ。


「まぁ、プラスのことなら深く考えなくてもいっか」


 ミツキは昨夜と変わらぬ部屋の惨状には目を背け、窓から青空を仰いだ。


「…………青空? やばっ! 今何時? ミカンの幼稚園の時間!!」


 部屋の時計は止まっていたが、なぜか今が8:40だという自信があった。


「幼稚園開始は9:00。この時間なら、急げば、ギリ間に合うかも……」


 急いでミカンを起こし、幼稚園の準備と朝ごはんを食べさせる。

 

「ミカン、行くわよ!」


 愛機のママチャリにミカンを乗せ、しっかりとベルトとヘルメットをさせる。

 残り時間は5分。幼稚園までは普通に走って15分かからないくらいで、全力なら10分ほどで到着だ。


「これは、確実に遅刻よね。でも、同じ遅刻なら全力で来た方が心証が良いはず!! 娘の為に、全速力よっ!!」


 ミツキはペダルを踏む足に力を目一杯込めた。

 

「うおりりゃああああああっ!!」


 不思議なことに自転車はすいすいと進み、気づけば5分で幼稚園まで到着していた。


「はぁはぁ、はぁはぁ、人間、やれば出来るもんね……」


 息も絶え絶えに娘を送り届けたミツキは今度はゆっくりと自転車を走らせ、家路へと着いたのだった。


「ただいま~」


 誰もいない我が家とはいえ、あいさつしながら家へと入る。

 すると、不思議なことが起きた。

 家中のありとあらゆる電化製品が一斉に起動したのだった。


「えっ? えっ? なにこれ……。いや、これはっ!」


 狼狽えたのは一瞬で、ミツキはすぐに理解した。


「ふっ、ふふふっ、はーはっはつは!! ついに、ついにこのあたしにも異能力が発現したみたいねっ!! 実は昨日、カミナリだかで感電してから期待はしてたのよ。そして、今、確信へと変わったわ。そうよね、あたしほどの現代異能バトルマンガ家なら異能力の1つくらい得ても何も不思議はないわよね。しっかし、能力が電気を入れるは微妙だけど、それはこれから検証しましょう。もしかしたら違う能力かもしれないし」


 ミツキは自身に起きたことを即座に異能力に目覚めたと理解、さらにその能力の検証を始めた。

 その結果。


「ふむふむ。普通に電気が使える能力って感じね。かなり作品としては使い古された能力だけど、日常生活にも使えるのはありがたいわ。さて、ある程度検証も済んだし、次は絶対に必要な作業ね。そう、それは、名前を決めることっ!!」


 ミツキは悩んだ。 

 能力名とはその後の展開をも左右しかねない重要なもの。だが、いざ自分がその能力を得ると、色々と名前の候補は出てくるが、いまいちしっくりこないのだった。


「感電で能力を得たから、エレクトリカル・ショック? いまいちね。スイッチで気づいたから、ザ・スイッチ。う~ん、これもいまいち。ブラックサンダー? エクレア稲妻? 雷おこし? いやいや、甘いものから離れろあたし! くっ! マンガ家でしょ! これくらいスパッといい命名しなさいよ!」


 自分に憤りながらも、懸命に考えていく。


「良し。決めたわイラ ディ ディオ神の怒りにしよう。雷って神様が鳴らすものとされていたしね」


 名前も決め完全に能力をものにしたミツキは、目の前でバチバチと火花を散らせ、


「これでいつ異能力者同士の戦いが始まっても大丈夫ね」


 ニヤリと笑みを浮かべた。


               ※


 それから一ヶ月。


「…………敵とか全く現れないんですけど。こう能力者同士は惹かれ合うみたいな設定はないわけ? まぁ、現実はそこまで甘くないってことね。だが、しかし、このマンガ家、ミツキの想像力を舐めないことね。電気系能力の日常使いも、もちろん考えているわっ!」


 ミツキは仕事部屋に座ったまま、指先だけを動かした。


「これで、お湯が沸くのよ。さらにっ!」


 ミツキの部屋のテレビが何も触れていないにも関わらず、自動でつく。

 さらには、スマートフォンの充電器はゴミ箱の中に放られているにも関わらず、スマートフォンの充電はMAXだった。


 さらに、ミツキはこの能力で、娘のミカンが寝た頃、部屋の電気を能力で消し、さらには生体電流を監視し、夜中にミカンが起きてしまうと同時に駆け付けていた。

 自転車での走行も電気からの派生での磁力の力で引っ張りすいすい進んだし、今までも無事故だったが、さらに安全性を増した。


「でも、やっぱり、一番の恩恵はこれよね」


 ミツキは着替える為に厚手のセーターを脱ぐのだが、驚くべきことに一切の音を立てずに脱ぎ切った。


「そう! あたしはこの能力を手に入れ、人間を超え、ついに、あの! 冬の大敵、静電気を克服したのよっ!!」


 静電気による痛み――なし!

 静電気による髪の乱れ――なし!

 静電気による取手への恐怖――なし!


「原稿用紙もトーンも引っ付かず容易に取れるし、不意の静電気でペン入れを失敗することもないっ! まさしくマンガ家のあたしにこそ相応しい能力っ!!」


 なぜかこれらを筆頭にあげたが、電気信号を早くし、思考時間の短縮や執筆スピードのアップも行い、今までは締め切りギリギリだったマンガの仕事が、余裕で終わり、その分ミカンとの時間が取れた。


 ミツキは戦いこそないものの、マンガ家として、そして母親として、能力を最大限生かし(?)日々を過ごしていた。

 しかし、そんなある日。


「今日はお友達のところにお泊りだったわね。気をつけていってらっしゃい」


「うん! 楽しみっ!!」


 ミカンは屈託ない笑顔を向けた。

 お泊りする友達の家にはこれまでも何度も泊まりに行っている家で、ミツキは安心して送り出したのだが。

 その日の夜。

 これまでに類を見ない記録的な大雪に見舞われた。


「雪? この辺で、こんなに振るなんて初めてね。ミカン、大丈夫かしら」


 そんな心配をしながら、ミツキは眠りについた。

 翌朝、そこは一面の銀世界というにはいささか雪の量が多すぎた。


「……なによ。これ。扉もなにもかも埋まっている」


 ミツキは急いでミカンが泊っている家へと連絡を入れるが、家電は電話線が断線したのか繋がらず、スマートフォンへ掛けると、


「ミカンちゃんのお母さんですか。そちらは大丈夫ですか? ええ、こちらも今のところ大丈夫なんですけれど――」


 その瞬間、バキバキバキッ!! という嫌な音が聞こえ、電話口から一切の音が消えた。


「もしもし? もしもし。大丈夫ですか。もしもしっ!!」


 ミカンの身にも何かあったのではないか?

 持ち前の想像力が悪い方、悪い方へと結論を導く。


「助けにいくしかないわね」


 ミツキはパイプ椅子を持って2階へ上がると、外へと飛び出した。

 雪により2階からダイブしてもすぐに雪に埋まる。


「建物の鉄骨に磁力を持たせ、パイプ椅子と反応させて進むっ!」


 パイプ椅子はまるでソリのように滑り、ミツキを目的地まで運んで行った。


「たぶん、この辺のはず」


 辺りには雪しか見えないが、この辺りにミカンの友達の家があったはずだと目算をつける。


「パイプ椅子に電気を流して、熱を起こす!」


 電気ストーブと同じ要領でパイプ椅子を高熱にし、雪を溶かしていく。

 だが――。


 ジュゥゥッ!!


「――っ!! これくらい!」


 パイプ椅子を直接掴むミツキの手はその熱によって火傷を負っていく。


「これで、もうマンガが描けなくなるかもしれない、けれど、ミカン子供より大切なものなんて、ある訳がないっ!!」


 そのとき、奇跡が起こった。

 ミツキの体から放電した電気は周囲のありとあらゆる鉄に反応し熱を帯びていく。周囲は次第に真夏のような熱さへと変貌していった。


 雪が解けた後には倒壊した家屋と、その中で心配そうにうずくまっているいる友達一家、そして、最愛の愛娘ミカンの姿があった。


 娘の元気そうな姿に安堵しつつ、両手を見る。

 火傷はあるが、元気に全ての指は動く。


「ふぅー、ふぅー、はぁ、どうやら、手も無事なようね」


 ミツキは力一杯、娘を抱きしめた。


 異能力者とのバトルはないが、子供を育てるというのは常に闘い。

 これは多くの母親が戦い勝ってきた歴史の中のほんの少しの奇妙な戦いの1ページだった。






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