第72話 文化祭その4~祭りの後で
さて、お互いのシフトが空いて合流した俺たち。
「まずは……お化け屋敷行くか?」
「うん!行こ行こ!」
「お、おい」
手を引いて、俺を前へ前へ引っ張っていく
そこまでお化け屋敷は乗り気じゃなかったはずなんだが。
ともあれ、お化け屋敷をやっている1-B教室へ移動。
中に入ると、仕切り板に暗幕。
少し安っぽいけど、素人ならこんなものだろう。
と、ゆっくり歩きだすと、
「うーらーめーしーやー」
という定番のボイスと共に、人魂らしきモノ。
録音した声に、LEDでも使った仕掛けだろうか。
「割と工夫してるよな……って、おい?」
生暖かい目で楽しもうと思っていたのに。
古織はと言えば、ガタガタと怖がって……いない。
「ひゃっ」
と俺に肩を寄せてくるけど、むしろ楽しそうな声色。
「なあ、なんで楽しそうなんだ?」
「せっかくお化け屋敷だし。こういうのもよくない?」
悪戯めいた微笑み。なるほど。そういう趣向か。
なら、俺もそれに応えて…肩を抱き寄せる。
「ちょっと恥ずかしいけど、こういうのもいいな」
「でしょ?」
そうして、お化け屋敷をゆったりと歩いていく。
頭上からこんにゃくがぶら下がって来たり。
仕切り板から、突然、板が飛び出してきたり。
色々な仕掛けが施されていたものの。
「……やっぱり、怖がるの、無理、みたい」
クスクスと笑ってやがる。
「まあ、全然怖くないもんなあ」
「でも、皆頑張ってるんだよね」
「ああ。結構、手間暇かかってるよな」
なんて言い合いながら、数分間ゆっくり歩いてゴール。
途中、「このリア充が」という声が聞こえた気がする。
まあ、気にしない、気にしない。
「意外と楽しかったね♪」
古織はといえばすっかりご機嫌な様子。
こいつなりに、そういう事をやってみたかったんだろう。
「ああ。まあな。よし、次行くか」
次は、映画同好会の映画だ。
怪人リア充をヒーローである「非リア」が倒すという筋書き。
誰だよ、こんなの考えたの。
「はっはっはっ。世の中は皆リア充になってしまえばいいのだ!」
「そうは行くか、怪人リア充め。誰もがリア充を望むと思うなよ」
リア充と非リアの剣戟が続いた末に。非リアの必殺技
『リア充爆発しろ!』が炸裂する。
怪人リア充は爆発して、世界に平和が訪れたのだった。完。
「っ……ネタにも程があるだろ。でも、面白いのがシャクだ」
怪人リア充は二人一組でカップルだったり。
対するヒーロー非リアはお独り様だったり。
怪人リア充の攻撃が「カップルのいちゃいちゃ」だったり。
あほらしいことこの上ないが、そこを真面目にやってるのが楽しい。
「そ、そうだね。演技も結構よく出来てたし。も、もう……」
古織も笑いをこらえるのに必死だったらしい。
教室を出るなり、笑いだしてしまった。
映画同好会の出し物は人気のようだったが、それも納得の出来だ。
「私も、大学入ったら、映画とかやってみようかなー」
「いいな。一緒にやろうぜ」
さっきの映画を見て、俺も興味が湧いてきた。
その後も、屋台でたこ焼きを食べさせあったり。
あるいは、綿あめを一緒に食べたり。
演劇部の出し物を見に行ったりと、またたく間に時間は過ぎる。
そして-
「それでは、文化祭はこれにて終了となります」
というアナウンスの後に、片付けの始まりだ。
俺たちは教室に戻った後に、飾り付けを撤去したり。
机を元の位置に戻したりといった後片付けを淡々とする。
元々、うちの文化祭は小規模だ。
一時間程して片付けは終わり。
「皆、お疲れ!打ち上げはまた後日企画するから、今日はゆっくり寝てくれ」
片付けが終わった教室で、一応、代表として皆をねぎらう。
「いいけどよ。今日みたいに見せつけるのは勘弁してくれよー」
「そうよ。あんたたち馬鹿夫婦はいつでもいちゃつけるでしょうに」
「ま、僕はいいと思うけどね」
などなど、微妙に苦情を言われてしまった。
「いや、悪い。ちょっとやり過ぎだった。打ち上げは普通にやるよ」
「ごめんね。ちょっと悪ノリしちゃった」
俺たちも、少しはしゃぎすぎたという罪悪感はあったのだ。
「ま、いいけどな。それじゃ、また来週」
「またねー」
というわけで、俺たちは解散。
だけど、このまま帰るのがなんだか少し惜しい。
「なあ、ちょっと、屋上出てみないか」
「うん?いいけど、施錠されてない?」
「実は、無理言って、鍵借りて来た」
「よく、借りられたね?」
「「思い出つくりのためくらいならいいわよ」だってさ」
「そっか」
本当に、感謝感謝だ。
そして、俺達は屋上へ出る。
「わあ……!」
「ほんっと綺麗だな」
フィクションでよく見る、校舎の屋上。
俺達の高校では普段は施錠されている。
だから、夕日が注ぐ光景はどこか幻想的だった。
ただ、高い高い柵が立っているのは事故防止だろうか。
「なんか、すっごいロマンチック」
「だよな。俺も初めてだけど。いい眺めだよな」
柵越しに、地上のグラウンドを眺める。
まだ少し片付けが残っているらしく、まばらに生徒がいる。
「文化祭、あっという間に終わっちゃったね」
「ああ。楽しかったか?」
「うん。みーくんがすっごい恥ずかしいこと言ってくれたけど」
「それ言うなら、古織の方もだろ」
そう言って、しばらく無言で夕日を見上げる。
一瞬、目線があった。
「あ、あの。ちょっと、今、してみたいこと、あるんだけど」
どこか少し恥ずかしげな表情に、思い当たることがあった。
だから、ぎゅうっと抱き寄せてみる。
一瞬、目をぱちくりさせた古織。
でも、目を閉じて、身を任せるままになっている。
やっぱり。
お化け屋敷でもそうだったけど、こういう「いかにも」な事をしたいんだろう。
俺達は一緒に居るのが自然で、あえて、こんなことはあんまりしなかったから。
だから、顔を近づけて、ゆっくりと、唇同士をあわせたのだった。
「……なんだか、今日のこと、ずっと後まで覚えてそう」
「だな。忘れられそうにないな」
しかし……。
「でも、主な学校行事はこれで終わりだよな」
「うん。後は、本当に受験勉強頑張らなきゃ」
「どっちかが浪人ってのは避けたいな」
「そのためにも、受験勉強がんばろ?」
「古織よりも、俺のほうが頑張らないとだけどな」
古織は志望校は第一、第二ともA判定。
俺はといえば、第一はA、第二はB判定だ。
その分、俺の方が努力しないといけない。
「でも、浪人しても、関東の大学だし、安心だよね」
「ああ、そこはな」
志望校は東京の大学と東京近郊の大学だ。
俺たちの今の住居から十分通える範囲でもある。
「大学行ったら、今度は、ちゃんとバイトして稼がないとな」
「うん。でも、節約生活が身についたから、平気な気がする」
確かに、食費から始まって、娯楽費なども一通り節約する方法は身につけた。
お義父さんは仕送りはきっと出してくれるだろうけど。
それでも、甘えすぎないようにしたい。
「これからも、よろしくな。古織」
「うん。私も、改めてよろしく。みーくん」
早くも大学に入った後を見越して、そんな言葉を送りあったのだった。
あー、でも、結婚式の事は考えないとな。
☆☆☆☆あとがき☆☆☆☆
第10章はこれで終わりになります。
いよいよ、次は最終章。
最後まで二人と仲間たちの物語を見届けていただければ幸いです。
応援してくださる方は、コメントや★いただけると嬉しいです。
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