第45話 ネット小説で収入を得るのは厳しい
「うん。少しでもお金入るなら、と思って……つい最近、始めてみたの」
そう白状する
つまり、こいつはネット小説を書いているわけだ。。
というわけで、
「どんなの書いてるんだよ。見せてくれよ」
と聞いてみたのだけど、
「イヤ!」
とにべもない拒絶。
「なんでだよ。古織の書く小説とか気になるぞ」
「みーくんは知らないんだよ」
胡乱な目で俺を見据えてくる。なにかあるのか?
「で、何が知らないんだよ」
「恥ずかしいってこと」
「ネット小説を俺に見せるのが?」
「そう。見られたら、きっと、私、死にたくなるよ……」
目が虚ろなので、割とマジっぽい。
「イマイチわからないな。料理を試食してもらうのと何が違うんだ?」
「そのたとえをする時点で、みーくんは根本的にわかってない!」
「じゃあ、もうちょっとわかりやすいたとえ話で頼む」
「たとえばね。あくまでたとえばだけど、私が、恋愛ものを書いてたとして」
「うんうん。書いてたとして」
「イケメンの彼氏に甘い言葉を囁かれながら、キスされてるシーンを書いてたとするでしょ?」
「なんかやけに具体的だな。で?」
「私、女の子なんだよ?男の子の台詞書いてる時は「男の子はこんな事を言うだろうなあ」とか考えながら書いてるんだよ?すっごく恥ずかしいよ」
そう言っている当人は顔から火が出そうなほど恥ずかしそうだ。
「あー、なるほど。それは……恥ずかしいかも」
逆の立場を想像してみる。俺の場合は、一番身近な女の子である古織をモデルに台詞とか色々考えそうだけど、それはそれとして、俺の女性に対する見方が丸裸になった気分になるかもしれない。
「わかった。触れられたくないことはあるよな」
「わかってくれればいいの。わかってくれれば」
そう言いつつも、心の底で邪悪な企みが芽生えていたけど、それはそれとして。
「で、カキヨムで書き始めたのっていつ頃なんだ?」
「1ヶ月半くらい前……」
「あー、家計簿つけて、ちゃんとやりくりしようって言ってた頃な」
「そう。だから、お小遣いくらいになればいいかなって思ったの」
「でもさ、正直、どれくらい入るんだ?古織の小説の人気は知らないけど」
検索してみても、閲覧数がどのくらいのお金に換算されるのかははっきりしない。
「最低換金額が3000円からで、私のはまだなんだけど……1ヶ月で100円くらい」
「それ、かなり安くないか?何時間書いてたのか知らないけど、それこそ、お義父さんにかけあって、短時間のバイトOKにしてもらった方が」
「私もそれはもう気づいてるの!でも、少ないけど、読者さんがついてくれたし、それに、書くのもそれはそれで楽しいし……」
かなり早口な古織である。妙に興奮気味だな。
「まあ、楽しいならいいんじゃないか?で、読者さんのコメントとか見せてくれよ」
「駄目。みーくん、そこから、探るつもりでしょ」
「しないって。興味が湧いただけ」
「とにかく、駄目って言ったら駄目なの!」
「減るもんじゃあるまいし」
「精神がすり減るの……」
本当に憂鬱そうだ。これ以上の追撃はやめておくか。
「わかった。とにかく、執筆、頑張れよ」
「絶対、バラさないからね?」
本当に頑なだ。これは是が非でも見つけないと。
というわけで。古織が作ってくれた夕食を食べ終えた後の事。
古織がお風呂に入っている隙を見計らって、共用のパソコンの電源をON。
時折、パソコンを触っている古織が妙に挙動不振な事があった。
だから、きっと……あったあった。
共用アカウントのChromeを開くと、履歴に「カキヨム」のページが。
(さーて、どんなのを書いてるんだろうな、と)
と、それっぽい作品ページを見ると、
『私達、結婚しました! ~幼馴染の彼の溺愛が止まりません~』
というものだった。
(思いっきり、ストレートな女性向け恋愛ものっぽい感じだな)
ラブコメに興味ないと言っておいて、自分が書いたのがストレートな恋愛ものとは。
しかし、「幼馴染の彼」というワードがどうも気になる。
設定は、簡単だ。小中高と一緒で、一緒の大学に入った幼馴染が居る主人公。
しかし、主人公は幼馴染と距離を縮めきれないでいた。
そんな主人公がある日、幼馴染の彼からプロポーズを受けるところから物語が始まる。
おいおい、告白はどうしたんだよとツッコミたくなる。
それに、台詞回しがところどころ、俺のを参考にしているような。
「可愛いよ、
似たような事をあいつにした気が……。
さらに、読み進めていくと、ボカしてあるものの、微妙に濡れ場まである。
(うーむ、これはなんとも)
顔が凄く熱い。それにー
「パジャマ、可愛いよ」
なんて言われて、彼氏の幼馴染に飛びつく主人公の描写とか。
あくまで、そういうお話。にしても、妙な生々しさを感じる。
これは確かに隠したくなる、と今更納得した。
「いいお湯だったよー。どしたの、みーくん?」
夏用の薄手のパジャマ姿に着替えた古織が風呂場から出てくる。
パソコンはシャットダウン済みなので、幸い、見つからずに済んだ。
しかし、今、ニコニコと俺を見つめているこいつがあんな小説を書いてるとは……。
「いや、なんでもない。ところで、パジャマ、可愛いな」
既に何度も見ているんだけど、さっきの台詞をみて、ちょっとやってみたくなった。
「そ、そう?何度も見てると思うけど」
「い、いや。今日はちょっと色っぽいっていうか……」
「……みーくん、ひょっとして、見た?」
「何のことだろうな」
「やっぱり見たんだ」
「いや、何のことかさっぱり」
「みーくんのバカ!もう、私、死んでくる!」
と言って、古織はそのまま外に出ていったのだった。パジャマ姿のままで。
「ちょっとやり過ぎだったかな」
一人のリビングで少し反省する俺だった。
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