謎解きと謎掛け(6)

 そこは本当に、志摩先生の言う『地球は生きてる』を絵のなかに描いたようなところだった。

「地球の神秘、三賀山みがやま大露頭だいろとうへようこそ、おふたりさん」

「志摩ちゃん、こんな山のふもとに露頭があるなんて知らなかったよ」

「ところで露頭って、ナニ?もしかして分かってないのって私だけでしょうか……」

「ミカモっちゃん、全然まったく恥ずかしいことではないよ!ではまず、地層の課程は習ったよね」

「はい、1年で」

「うん、ここの地層は数千万年前から成るものが地盤のズレなどで地上に現れた所で、それのことを露頭っていうの」

「ろとう、ですか」

「そうそう、でね、こういう場所は日本の東西に点在してて、九州から中国四国、近畿を通って中部の東端くらいまでつながってるって言えばいいかな」

「それが中央構造線ってことなの?」

「さすがミガドちゃん。日本の東西には巨大なスジ状の活断層が走ってるみたいなんだよね」

「ってことは、ここが東端?」

「ふーむ。そうなんだけど、ここはさらに東西の中央構造線を南北に断ち切った南北構造線との交差地点で、いわゆるフォッサマグナって呼ばれる場所かな」

「スジとスジの交差点、みたいな?」

「まあ、そんなかんじかな。じゃあ、ミカモっちゃんの知ってる地層はどんな模様だった?」

「よこしまのボーダー柄だよね」

「そうだね。それを踏まえてあそこの模様を見てくれるかな」

 志摩先生が指し示した方向の露頭は、私が思ってたものとはダイブ違ってた。

「ていうか、これチェック柄だわ」

「志摩ちゃん、これってどういう……」

「うん。すべてはまだ解明されてない。けれど長い年月でかなり複雑な地殻変動が繰り返されたことは間違いない、かな」

「すごい……」

 私はこの短い時間で、もうガッツリ志摩先生の世界に引っ張り込まれていった。知られてない地球の移り変わりや、日本列島誕生のヒントが見つけられる場所がこんな身近にあったなって、全然まったく知らなかった。

「そういえば志摩ちゃん、お邪魔かな……私たち」

「なんの、なんの。遺跡側の尾根も見たいって言ってなかったかな?」

「そうそう、むこうの遊歩道のある散策路だよね」

「だね。私もお付き合いするよ、寒くないかな?おふたりさん」

「うん大丈夫」

「私も寒くないです」

「だと思った、かな」

「え?」

「そこの湧水ゆうすい、触ってみてくれるかな」

「湧水ですか……」

 私は近くの水たまり?みたいな池の水に指先をつけてみた。

「あったかい、んですけど!?」

「あは、そうそう、ここ温泉が湧き出してる所もあって地熱は高いみたいだね」

 私は濡れた手をプラプラ振って、二人のもとへ戻った。

「三賀山遺跡は断層のくぼみにできた“歴史の宝箱”って言えばいいかな」

「宝箱?色々いっぱい見つかるんですか?」

「そうみたいだね。私は全然興味ないけど」

「志摩ちゃん本当にだけ、なんだね」

「そ、そんなことないから!」

「あはは」

 私たち三人は笑いながら散策路を進んだ。

 なのに、ついさっきまで何ともなかった私の臆病は、今になって主張し始める。

 だからって、ここまで来て戻ろうなんて言えるハズないし。

 アイツの言ってたことは、たぶん見間違いか何かだと思うし。

 こっちには“リケジョ”がついてるんだし。

 私は自分が余計なことを考えないように、ってことだけを頭の中で繰り返した。

 ――なのに。


『三賀山遺跡を見学しに早朝よく行くんだけど』

 やめて。

『ある時その発掘所の大きなテントの中に人がいて、作業者の人たちだろうと散策路を下りたら、その時はもうテントごとなかった』

 うるさい。

『こうやって靴紐くつひもを結び直して……立ち上がったら、そこにあるんだよ』

 うるさいってば。

『あれは、乗り物だと思う』


「うるっ!!」


 私は怒りを声に出しそうになったその瞬間、逆に声を詰まらせた。

「あ、あれって……」

「梓ちゃん……」

「棗ちゃん、あれ何?」

「志摩先生!!あれ、あの白いものって、何なんですか?!」


 私の頭の中は、真っ白になった。

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