第53話 転生勇者とフォルト村奪還作戦
「勇敢なる冒険者の諸君、王国の兵士たち。時は来た!」
オレは鞘に入ったまま偽の聖剣を掲げた。
目の前にいるのは五万人もの大軍勢。
見ろ、この素晴らしい圧倒的な景色を!
これなら魔王軍を倒して、そのまま魔王さえも倒せるんじゃないのか?
そして……。
とらわれたオレの嫁を救出する。
さすがのショコラも、これで確実に落とせるだろ!
くくく。
今からオレのモノになるのが楽しみだ。
ああ……あの柔らかい白い肌に早く触れてみたい。
「可憐なる我が姫を救い出し、世界に平和をもたらすのだ!!」
「おおーー!!」
「グランデル王国に栄光をー!」
「勇者様に続くぞー!!」
それにミルフィナ王女も美少女だったよな。
どちらもゲットして、憧れのハーレム生活開始だ。
楽しくなってきたぜ。
両手を振りながら、演説台を降りていく。
今のオレ、最高にカッコ良すぎだろ。
「勇者よ……」
「どうした、戦士ベルガルト。国王の前だぞ、まずひざまずくべきじゃないのか?」
控室に入ろうとしたところを、昔の仲間、ベルガルトに声をかけられた。
こいつは、ただ強いだけの戦士。
オレはこの国の国王だ。
ずいぶん差がついちまったなぁ、あはは。
まぁ、転生チート勇者でこの世界の主人公だから当然だけど。
「陛下、ショコラを救出する先陣に、俺を使って頂けませんか」
素直にひざをついて頭をさげてやがる。
いい気分だわ。
最高にいい気分だよ。
「そうか、オレの第一王妃を助けに行ってくれるんだ? オレの! オレのショコラを!!」
「くっ」
そうだよな。
お前、ショコラに惚れてたもんな。
残念。アイツはオレのモノなんだ。
王妃になる運命の女なんだよ。
「いいぜ、昔の仲間だったよしみだ。先陣で戦ってくることを許可するよ」
「……ありがとう……ございます」
せいぜい頑張ってくれよ。
オレのショコラを助けるためにさ。
帰ってきたら、目の前で見せつけてやるよ。
オレとショコラのラブラブなシーンをさ。
**********
「勇者様、部屋に入ってもよろしいですか?」
「ああ、カトレアか。いいぜ。入ってこいよ」
演説を終えて休んでいたところを、一人の美女が控室に入ってきた。
真っ赤な長い髪と美しい造形の顔。
公爵令嬢、カトレア。
伝統あるグランデル王国の公爵家の一人娘だ。
オレは、彼女の胸元に目をむける。
いやぁ、大迫力。いい女だよな、こいつ。
確か、元第一王子ベリルの婚約者だったらしい。
残念だったな。
もうオレのものだけど。
「今日はお話したいことがあって参りました」
「いいぜ、向こうでゆっくり聞かせてくれよ」
控室に持ち込んだ大きなベッドを指さして、スマートにほほ笑んでみる。
すっかりオレにはまったな?
かわいいやつめ。
「うふふ、勇者様。その前に教えてくださいませ?」
「何をだい?」
「聖剣の力、失ってますでしょう?」
……。
…………。
なんだと?!
「聖剣の力は勇者の力。もうありませんでしょ? その剣も、偽物ですわよね?」
カトレアは、人差し指を唇に押し当てながら、ゆっくり近づいてくる。
「な、なにをいってるんだ。カトレアは!」
「違うのでしたら、近くで見せてくださいませ。その偽物の剣を」
オレは思わず、剣を手に取ると、ベッドの下に投げ込んだ。
「これは違うんだ! 本物はちゃんと城の宝物庫に!」
「宝物庫の中は、すでのチェック済みですのよ、勇者様?」
は?
宝物庫を確認しただと?!
なにやってたんだ、警備のやつら。
「うふふ。公爵家をあまりなめないでくださいね。この城にも手の者がたくさんいるのですよ?」
嬉しそうに笑いながら、オレの隣に優雅に座ってきた。
「国王で勇者のオレと公爵令嬢のお前。みんなどっちの言葉を信じると思う?」
「当然、勇者様でしょうね。でも、この時期に疑惑が生まれるのは嬉しくないですわよね?」
くそ、確かに。
五万もの大軍とはいえ、魔王軍と戦う前に疑われるのはまずい。
「それに、この話が広まったら、みんな聖剣での戦いを望みますわよ? その偽物の剣で戦われます?」
「……もしそう仮に事実だったら、お前はどうしたいんだ?」
……油断した。
……まさか、こいつが気づくなんて。
あせるオレに、彼女は顔を近づけてきた。
唇に、彼女の柔らかい感触と甘い香りが広がる。
「取引をしましょう、勇者様」
「取引……だと?」
「ええ。これは、勇者と公爵家の正当な取引です。私を正式に第一王妃として発表してくださいませ」
第一王妃だと?
それはもうすでに……。
「もともと、この国の第一王妃は、公爵家の高貴な私がなるはずでした。それを元に戻すだけです」
「いや、しかし。第一王妃はショコラと既に……」
「どこの馬の骨ともわからない小娘が第一王妃だなんて、公爵家は絶対に認めませんわよ?」
この女。
「それは、魔王軍に勝ってから落ち着いてゆっくり考えないか?」
「今決めて下さい。私をとるのか、それとも……うふふ……」
彼女は妖艶な微笑みで、ゆっくり両腕をのばしてくる。
オレは、彼女に絡め取られていった。
**********
「ゆくぞ、わが愛しの
翌日。
オレの号令で、五万もの大軍が一斉にフォルト村に向けて進軍をはじめた。
考えてみたら、第一王妃じゃなくてもさ。
魔王軍から助け出すヒーローだよな、オレ。
控えめな彼女の性格だったら……どちらでも問題ないだろ。
それにハーレムを作るのに、いちいち順番なんてどうでもいい。
ようは、全部オレの女なわけだ。
あとはオレとの愛次第……なんてな。
「陛下に申し上げます!」
しばらく進軍を進めていると、伝令が慌てて駆け寄ってきた。
なんだ、もう救出したのか?
フォルト村奪還ごときに、五万はさすがに多すぎたな。
まぁ、ついでに魔王も倒せばいいか。
「なんだ、申してみよ。その前に……遠くに見える土煙、あれはなんだ?」
「はっ。魔王軍の大軍勢がこちらに押し寄せてきています。とにかく信じられない数で包囲されて……すでに前線は崩壊しています!」
なんだと!!
五万もの大軍だぞ!!
巨大な土煙はどんどんこちらに近づいてくる。
「いやっほー! ここで活躍すれば主様のライブイベントのアリーナに行けるぜ!」
「主様、ふぅふぅ~!」
「最前列をゲットするのは、このオレだ!」
大量に掲げられているのは、ピンク地にハートの大きな旗。
魔王軍ってあんなマークだったか?
おまけに。
近づいてくる連中は『主様ラブ』のハチマキ。
持っているのは、光るペンライトのようなもの。
魔界ではあんな武器が流行ってるのか?
「野郎ども! 主様の期待に応えるのは今だぞ!」
「おおーー!!」
なんだこの異様な士気の高さ。
目の前で、有名な冒険者も、屈強な騎士たちも、次々に頭のおかしい集団に取りおさえれられていく。
「いたぞ、あれが偽勇者じゃないのか!」
「とらえれば、握手券と特典グッズがもらえるらしい!」
「うぉぉ、あいつは、オレのモノだ!」
やばい。
確実に身の危険を感じる。
オレは、後ろに振り返ると、全力で馬を走らせた。
――なんだ。
――どうなってるんだ、この光景は。
主……主っていったい何者なんだ?!
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