第45話 追放テイマーとのどかな日常
「魔王軍に占領されたっていうのに、いつも通りよねー」
「そうかなぁ?」
「変わったことと言えばさぁ……」
「……言えば?」
私は、運送ギルドのカウンターに顔を伏せている。
目の前にいるのは幼馴染のリサ。
「アンタのその恰好くらい? あはは」
「ちょっと、何笑ってるのよ!」
「だってさぁ」
わかってるわよ。
自分だってわかってるわよ。
私は立ち上がると、スカートの裾をつかんで広げて見せた。
「……どう思う?」
「前に着てきた赤いローブと似てるわよね、それ。似合ってるわよ、ショコラ」
「一応、これ仕事着なんだからね!」
「ねぇ、その可愛い剣も仕事で使うの?」
「そ、そうよ。護身用みたいなものよ!」
「ふーん?」
セーラー風の襟、肩が赤なローブ。
そではバルーンみたいに可愛らしく広がっている。
胸元に大きな赤いリボン、スカートには白いフリルがたくさんついている。
腰に下がっているのは女神様からもらったハート柄の聖剣。
前世でいう甘ロリファッションだよね。
「仕方ないじゃない。さっきまで魔王城で朝礼してたんだから」
「ねぇねぇ、魔王って、あの黒髪のイケメンさんでしょ! 今度紹介してよ!」
「リサってほんとぶれないよね。魔王なんだよ?」
リサはうっとりとした表情で、両手を胸の前に組んだ。
「いいじゃない。私、彼になら征服されてみたいわ! なんって、キャー!」
彼女の言う通り、フォルト村は魔王軍がきた後も何も変わらなかった。
違うことといったら。
空に魔王城が浮かんでること。
村に魔物たちが遊びにきてること。
あと。運送ギルドの交易ルートが変更になったくらいかな?
なんだかビックリするくらい平和なんだよねぇ。
「これもさ、魔王軍を治める主様のおかげじゃない?」
「わかってていうのやめてよね。私は普通にしたいだけなんだから!」
「わかってるわよ、ありがと、ショコラ様」
「もう! でもさ、私がいなくても、たぶん変わらなかったわよ魔王軍って」
魔王シャルル様や、幹部のみんなと話してみたんだけど。
魔王軍ってすごく平和主義っていうか、現実主義なんだよね。
占領した地域をどうやって活性化させるかみたいなことを、ちゃんと考えてるみたい。
勇者新聞では極悪非道みたいに書かれてたんだけどなぁ。
「そういえばさ、前に注文してたベッドと洋服届いてたわよ」
「え? だって王国とはルート断絶してるじゃん?」
「うん、ちょうどね職人のいる街を占領したみたいよ?」
うわー、それシャルル様の仕業だよね。
たぶんダリアちゃんの為に……。
「や、やぁ。マイヒロイン。それとリサさん」
突然後ろから声をかけられた。
振り向くと、少し長い黒髪を片手を当てながらポーズを決めるイケメンさんが立っていた。
「きゃー! 魔王様! おはようございます! 名前覚えてくれたんですね」
「おはよう。マイヒロインの友達だからね。ねぇ、なんの話をしてたの?」
「魔王様がカッコよくて素敵ですってお話です。きゃっ、やだ私ったら!」
リサは、頬に両手をあてると、恥ずかしそうに首を振る。
うわぁぁ。
ホントにぶれないわ、私の大親友。
「今日は運送ギルドに、どんなご用事ですかぁ?」
「マイヒロインの大事なカタログ荷物が届いてたりするかなと思ってさ」
はぁ。やっぱり、魔王様が絡んでるのね。
「ちょっと、なんでその話をシャルル様が知ってるんです?」
「……え? あれ? ダリアちゃんから聞いたのかなぁ?」
「ねぇ、私にナイショで、職人の街を攻めたりしました?」
「さぁ、どうだったかなぁ?」
「もう! 禁止っていったじゃないですか! 女神様から何もしないでって言われてるんですから!」
「いやだってさ……マイヒロインが喜ぶかと思って……」
まるで叱られた子犬みたいにしょんぼりするシャルル様。
そんな顔されたら、怒れないじゃない。
「次からは……私にも相談してくださいね。あと、マイヒロインって恥ずかしいので、ショコラでいいですから……」
「女の子の下の名前を呼びすてって……ホントにいいの?」
「だって。マイヒロインよりは全然ましだし」
「そうか! ありがとう、マイヒ……ショコラさん!」
シャルル様は耳まで真っ赤にしながら、嬉しそうにほほ笑んでいる。
うわぁ、イケメンの眩しい笑顔って反則なんだけど!
つられて私の頬も熱くなるのを感じた。
ホントに、カッコいい……。
私は思わずうつむいく。
あれ、でも下の名前って?
「うわぁ、なにこの甘い雰囲気。ふーん。そうなんだ。いいなぁ、ショコラ」
「ちょっと、リサ! 何言ってるのよ!」
「私はもともとベールさん狙いだからいいけどさぁ」
リサはカウンターに頬づえをついて、にやにや笑っている。
「甘い雰囲気……オレとショコラさんが……」
「あのねリサ、そういうのとは違うからね! 職場の同僚みたいな感じなんだから!」
「ハイハイ。あーあ、村の男ども悲しむだろうなぁ~」
「もう……」
誰も悲しんだりしないわよ。
ホント、リサもコーディーも、こういう話大好きなんだから!
「ねぇ、とりあえず。届いた荷物確認してもいい?」
「そうね。ギルドの倉庫に届いてるから。こっちよ」
「荷物を運ぶなら、オレも手伝うよ」
私とリサ、シャルル様が倉庫に向かおうとした時、ギルドの扉が大きな音を立てて開いた。
「ショコラちゃん、ショコラちゃん! 大変ですわ!」
飛び込んできたのは、ラベンダーのような美しい紫の髪をした美少女。
息が止まりそうになるくらい、可愛い。
もしここがゲームの中だったら、ヒロインは絶対彼女だよね、うん。
彼女は、そのまま私に抱きついてきた。
柔らかい髪がふわりと広がって、周囲がバラのような香りに包まれる。
「ミルフィナちゃん、どうしたの?」
「これを見てくださいませ。あの勇者ホントに頭おかしいですわ!」
ミルフィナちゃんは私に抱きついたまま、手に持っていた新聞を差し出してきた。
「勇者新聞?」
「そうですわ!」
私たちはミルフィナちゃんから渡された新聞を広げてみる。
えーと。
『緊急クエスト! 勇者様の花嫁を救い出せ!!』
『魔王軍は卑怯にも、この国の第一王妃ショコラ様、第二王妃ミルフィナ様のいる、フォルト村を占領した!』
『集え、勇敢なる戦士たちよ。悪魔からフォルト村を解放するのだ』
『勇者様と共に、麗しの姫君と王国を救い出そう。さぁそこのアナタも受付はお城まで。いますぐ駆けつけよう!』
……。
…………。
ツッコミどころが多すぎて、どう言えばいいの?
私もミルフィナちゃんも花嫁じゃないし!
いつのまにか私が第一王妃になってるし!!
でもそれよりも……。
「これ……グランデル王国がフォルト村奪還作戦を実施するってことだよね?」
「ああ……そう見えるな」
私は魔王シャルル様と目を合わせうなずいた。
どうしよう。
このままだと王国と戦争になっちゃう。
「わたしくし、ショコラちゃんとしか結婚しませんわ!」
「なにこれ。ショコラどっちが勝っても出世じゃん。よかったねー」
なんでこんなことになってるのよ。
ノー!
ノーだよ!
私は頭を抱えてうずくまった。
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