123. 訓練開始 #2

「…13、14、15!」


 カウントが終わると同時に、エルジュとイルク先輩とマーリィ先輩――即ち運動不足組は、ドサッと地に倒れ伏した。

 午後のトレーニングは、端的に言えば筋トレだった。

 腹筋に腕立て伏せといったメニューは、こちらの世界でも同じらしい。

 …さて、5分のジョギングでバテたメンツが腕立て伏せなどしようもないのは自明の理である。故に、運動不足組には15秒間のプランクが課された。その結果が、地に倒れ伏した3人の姿である。

 それを横目に、俺たちは30回の腕立て伏せを終えた。

 部屋に籠もって大魔法理論を書き綴っていた頃の俺であれば、きっと運動不足組のほうに顔を連ねていたであろうことを考えると、なんだか感慨深い。


「き、きつい…」

「さすがに運動不足だと思いますわ」

「うっ」


 唸るイルク先輩に、シルヴィのド正論が刺さる。


「ま、まあまだ初日だから、ね?」


 リーサのフォローも虚しく、運動不足組はだいぶ戦意を喪失した様子だ。


「…とりあえず、一旦水を飲んで少し休憩してください。続きはそれからです」


 指導役の人の声にもだんだんと呆れが混じってきた…ような気がする。

 自分のことではないのに、かつて運動不足組だった自分としては謎の申し訳なさが湧き出てきた。

 俺も体育の授業とかで似たようなことを思われてたんだろうか…。

 これ以上は考えないようにしようと心に決めて、俺は水を呷った。



「あ゙ぁー…」


 夕食前の大浴場には、男二名によるため息というか声が響き渡っていた。


「うるせえぞお前ら…」

「今日は勘弁してやってくれ…」


 苦言を呈したガルゼに、俺は苦笑いをしながら頼み込んだ。


「まぁ、運動の負荷的にはそこまで重いものじゃなかったけど、とはいえ一日中だからね。ついてこれただけ立派なんじゃないかな」


 そう言うビスティーは特に苦しむ様子もなくケロッとしている。

 魔法の知識を買われただけあって彼自身も決して肉体派ではないのだが、それでも冒険者のパーティの一員として活躍できるだけの体力は余裕であるということだろう。


「ちなみに、そう言うヒロキはどうなんだ?」

「俺はまあ、疲れはあるけどめちゃくちゃってわけじゃないかな。流石にずっと冒険者やってきたガルゼたちとかリーサとかには勝てないけど、今すぐ倒れ伏すほどではない」

「あのリーサの冒険についていけてるくらいだからな。元々体力はあったんだろ」


 アンセヴァスはそう言ったが、多分若さのおかげだと思う。

 もし三十代のままこっちに来ていたらすぐにでも死んでいたかもしれない。


「んー…明日からもこんぐらいの訓練が続くんかね…」

「やってればそのうち慣れるよ」


 伸びをしながら憂鬱そうにぼやいたエルジュに、ビスティーが先輩風を吹かせた。

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