48. 観戦 #2
「おっ」
エルジュが期待に満ちた声を上げる。
出てきた2人は、どちらも一目見て魔道具使いだとわかるものだった。
なにしろ片方、白髪の男は魔導書みたいなものを持っていて、もう片方の金髪縦ロール女は魔法陣が刻まれているらしいカードを何枚か懐から出している。
これで物理的に殴り合いを始めたら観客の全員がズッコケること間違いなしだ。
…いや、警戒させておいて殴りに行くのもアリっちゃアリなのかもしれないが、一回しか使えない手法だからな…
そんな思考を巡らせていると、2人は多くの観客の期待通り魔法バトルを始めた。
どちらも赤魔法使いだ。体力が尽きるまで激しく戦うのだろう。
スパークが弾け、炎がうねり、風が吹き荒れる。
「赤魔法使い同士の戦いがまさか1戦目から見られるとはなぁ。学校に4人しかいない…いや、ヒロキもそうだから5人か?とにかく、それしかいない赤魔法使い同士の戦いなんてそうそうないからな」
「赤魔法使いが少ないというのは聞いてたけど、そのうち2人が新入生なのか…」
正確にはリーサもそうなので、この高校にいるほとんどの赤魔法使いは今年の1年生ということになる。
ヤバい世代だな。
「ところでエルジュ、あれどっちが勝つ…」
激しい爆発音と歓声に会話が中断される。
フィールドに水蒸気が立ち込めた。
「どっちが勝つかって?わからんな…これが晴れてどっちかがぶっ倒れてたならともかく、多分どっちも健在だぜ」
風が巻き起こった。
どちらかの魔法だろう。
水蒸気が上へと吸い上げられていく。
果たして、フィールドでは2人がしっかりと地を踏みしめ、ある程度の距離を保って対峙していた。
服にこそ多少のダメージは見受けられるが、互いに折れた様子はない。
いや…素人目だが、若干金髪縦ロールのほうが押されているように見えなくもない。息切れの度合いが白髪より大きい気がする。
「若干金髪縦ロールが不利かな」
「うーん…オレは金髪の方が勝つと予想するかな」
「え、なんで?わたしも金髪の方が息切れしてるように見えたんだけど」
「説明が難しいけど…あの金髪、何か仕込んでるぜ、多分」
エルジュがそう言った瞬間、二人が互いに向かって駆け出す。
白髪の魔導書が赤く光る。
火か電気か力場か、とにかく何か遠距離攻撃のできる魔法陣だろう。
対して金髪縦ロールは何も発動させようとはしていないように見える。
「はあっ!!」
白髪が叫ぶ。
魔法陣から氷と風が生み出され、金髪縦ロールへと一直線に飛んでいく。
まともに受ければズタズタに引き裂かれる…まではいかなくとも、傷をだいぶ作るはずだ。
決着がついたか、という雰囲気が観客席に漂っていた。
その刹那だった。
わずかに、ほんの一瞬。
金髪縦ロールの足元から赤い光が漏れた。
そして次の瞬間には、彼女は空中にいた。
およそ人間業ではない高い跳躍。
小さな嵐を避け、白髪を軽々飛び越え、片足で着地。
そしてその足を軸にして、思い切り回転し…白髪の側頭部を強かに蹴った。
白髪の方はなんとか腕でガードしたものの、見事に吹っ飛ばされて、魔導書も手から離れてしまった。
倒れて起き上がろうとする白髪の胸を金髪縦ロールが踏みつけ、さらにカードを向けた。
その魔法が発動する前に、白髪は両手を上げて降参の意を示した。
『そこまで!!勝者、シルヴィーナ・アルティスト!!』
アナウンスが響き渡った。
奇跡の逆転劇と捉えた観客が大いに盛り上がる中、エルジュは俺とリーサに向かってドヤ顔をしてきた。
「な?言ったとおりだろ?」
「何が起こってたの?全然わからなかった…」
「予想だが、男の方は風と水と電気を操っていた。対して金髪の方は…色々やってたが、主に火と水だろう。で、途中水蒸気が全体を覆って何も見えなくなっただろ?あれはおそらく金髪の仕業だ。それは風を操る男が水蒸気を払ったことからも説明がつく。そして水蒸気をぶちまけてる間に金髪が男を攻撃しなかったのは、何かを仕込むため。おおかた、下向きに力を発生させる魔法陣が刻んである板でも靴に仕込んでいたんだろう」
「すげぇ…よくそこまで見えたな」
確かに、筋の通った説明だった。
足元から赤い光が漏れていたのにも説明がつく。
「まぁ、うちも商売道具の競争相手への研究は欠かしてないからな」
次の相手が出てくるまで、喧騒が収まることはなかった。
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