第四百二十話 罠にかかった女王軍
胸を張ってそんな事を言うアリスに、妖精王もフィルマメントも納得したように頷いているが、カインだけは微妙な顔をしている。
「でもさ、いくらアリスちゃんが隠してもガンソードを分解されたら、ノアは多分簡単に作り方なんて分かると思うよ? なぁ、ノア」
何せ目的の為なら手段を選ばないノアだ。やりかねない。
そこに思い至らなかったのか、それを聞いてアリスが青ざめてノアを見ると、ノアはいつもの様に、にっこり笑った。
「そうだね。バラせばすぐに分かるよ。ただね、カイン。僕はそれをしない」
「え? そうなの?」
キョトンとでぃたカインにノアは拳を握りしめて力強く頷いた。
「当ったり前じゃない! アリスがこんなにも隠そうとしてるのに、僕に出来る訳ないでしょ! こんな怒っても可愛いんだよ? そりゃもっと怒らせてみたいとも思うけど……それすると嫌われる率のが高いじゃない。僕はそんな危ない橋は渡りたくないよ!」
「……ああ、そう……ごめん、俺もまだまだだわ」
いつでもどんな時でもアリスを喜ばせたいノアは、アリスが喜ばない事はしない。
それはもう、自然の摂理なのかもしれない。朝になれば太陽が空に昇り、夜になれば月が出るのと同じぐらい当たり前の事なのだろう、きっと……。
「兄さま、好き!」
「僕もだよ、アリス」
ノアの言葉に感動したアリスはノアに抱き着く。それを受け止めてノアもアリスを撫でながらニコニコしている。
「えっと、それじゃあどうする? やっぱ人員確保しかないよな」
「それについては僕に考えがあるんだよね。こういう時こそ偽シャルルに手伝ってもらわないとね?」
そう言ってノアは手帳に何か書きつけてパタンと閉じた。そんなノアを見てカインは首を傾げたが、そこで皆が起きだしてきてその話は一旦終わった。
一体ノアが何を偽シャルルに頼むつもりなのかは分からないが、とりあえずそろそろまた変装してセレアルとグランに移動しなければならない。
セレアルとグランに分かれて作業する事一週間。予定よりも随分早くに寒冷対策は終わった。後はもうなるようになる。
一同はセレアルとグランをそれぞれ後にして秘密基地に戻ってきたが、あと一週間ほどはこの秘密基地で待機していなければならない。
「かかった!」
あと三日で長期休暇も終わる。皆が久しぶりにのんびりとホールで雑談をしているそんな時にルイスのスマホにルカからメッセージが入った。
「どこ? ルイスんとこ?」
カインが夜食を食べながら言うと、ルイスは首を振ってチラリとキャロラインを見た。どうやらキャロラインの元にも同じメッセージが届いたのか、手を震わせてスマホの画面を凝視している。
「うちよ」
「あ、うちもだね」
「は⁉ バセット家も?」
「うん。そうみたい」
そう言ってノアは皆にも見えるようにスマホを机の上に置いた。そこにはハンナからのメッセージが表示されている。
『お嬢の部屋に侵入者あり。チェルシーに驚いて腰を抜かした所で二人確保。パパベア、森に居た不審者を三人確保。ルンルン、ウルフ、ベンガル、シベリアそれぞれ領地に潜んでた不審者を一人ずつ確保。以上』
それを見たカインとオスカーは手を叩いて喜び、リアンとオリバーは白い目をノアとアリスに向けている。
「えっと……キャロの所はどうやって捕まえたんだ?」
ルイスが引きつりながら言うと、キャロラインは誇らしげに頷いてスマホを机に置いた。そこにはオリビアからのメッセージが表示されている。
『チームキャロラインがやってくれたわ! 家に侵入してきた不審者たちはあなたの部屋に入り込んだのだけど、あの子達がやっつけてくれたの! 彼女達に稽古をつけてくれたアリスさんにお礼を言っておいてね!』
「だ、そうよ。アリス、ありがとう……ところで、あの子達に何を仕込んだの?」
静かな笑顔でアリスに問うキャロラインの笑顔が怖い。
アリスはそんなキャロラインを見てそっと視線を背けようとしたけれど、それをキャロラインは許してくれなかった。
「え、えっと……あれを渡しておいたんです。前にリー君達に渡した香辛料が入った袋……あと、ちょっとした体術とかをその……ごめんなさい!」
キャロラインには黙ってこっそりチームキャロラインに色々仕込んでいたアリスに、キャロラインは大きなため息を落として首を横に振った。
「怒っていないわ。あなたがそれを仕込んでくれたから、あの子達は無傷だったんだもの。でも、そういうのは教えてちょうだいね? これからは」
「は、はい!」
笑顔の圧が怖すぎて頷いたアリスに、ようやくキャロラインは納得したように頷いた。
「それにしてもキャロラインの部屋とアリスちゃんの部屋だけか……まずは女子から仕留めようとしたとかそんな事かな?」
「でもそれだとライラも狙われるんじゃないの?」
「だよな。でもライラちゃんの所は何も無いんだもんな……どういう繋がりだろ」
「……多分ですけど」
不意にアランが口を開き、皆が一斉にアランを見た。それに驚いたのかアランはいつもの様に壁に向かって話し出す。
「あの時の女王の話を思い出してください。彼女はルイスとノアはオピリアがあればすぐに自分の虜だと言っていたじゃないですか」
「ああ! 確かに言ってたな!」
「つまり、彼女の目的は最終的にはノアを操ってルーデリアの女王になる事なのでしょうが、その為にルイスをまずは色仕掛けか何かで捕えようとしているのではないでしょうか。その為にはアリスさんとキャロラインは邪魔でしかない」
だからこそまずはこの二人を亡き者にしようとしたと考えればしっくりくる。そしてルイスは最後まで殺さないつもりだろうという事も。
「ノア、アメリアにはどこまで話したか覚えていますか?」
アランの言葉にノアは口元に手を当てて記憶を手繰り寄せる。
「まずこの島の事だね。ここは伝説なんかじゃない。必ず行く方法がある。僕はそれを探してるって言うのは話した気がする。あとはゲームに出て来る皆の名前ぐらいかな」
何せ前世の記憶を忘れてしまわないように、と一生懸命全員の似顔絵を描いていたノアである。そのおかげで悪魔憑きという事になったのだが、だからこそ皆の事を忘れずに済んだ。
「それだけなのか?」
「それだけだよ。ループの事は話してないよ。ていうか、ループしてるなんてその時は思っても無かったし、この世界に転生したからにはこの世界のどこかにアリスが居るはずだって思い込んでたから」
「そっか……だよな。向こうはカインの魔法とかは知らないみたいだったし、本当に俺達の事は名前ぐらいしか話してなかったんだな」
ルイスの感心したような言葉にノアは自信満々に頷いた。
「うん。だって、僕は今も昔もアリスにしか興味ないから」
聞かれたって恐らく答えられなかったのではないだろうか。それにアリスについても絶対にノアは、可愛い、それはもう可愛い、びっくりするぐらい可愛い、ぐらいの情報しか与えていないはずだ。
レヴィウスの記憶を思い出した今はっきり言えるのは、あの時はまさかアリスがこんなパワーに振り切ってしまっているなどとは思っても居なかったし、何ならシエラの方があの時思い描いていたアリスに近い気がする。
それを皆に伝えると、皆は無言で頷いた。
「……そうか」
かろうじて言ったルイスは手帳にそれを書きつけると、キャロラインを見た。
「それで、他に情報は来てないか? 俺の所には、引っかかったぞ、しか来なかったんだが」
「今は取り調べ中みたいよ。全員の覆面を剥いで何も隠し持てないように裸にして牢に入れてるって」
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