第二百二十四話 アリスは爆弾魔⁉
「それがドロシーの設定、なんすか?」
ポツリと言ったのはオリバーだ。拳を震わせて目には怒りの色が浮かんでいる。
『いいえ、まさか! そんな設定はありませんでしたよ。今回のドロシーの生まれが、たまたまそういう境遇にさせてしまったというだけです』
「何であんたはそんな事知ってんすか?」
『ログを辿って全員の生い立ちを見ましたから。だからこそどこを正せば正しいルートに入れるのかのお膳立てが出来たんですよ』
「……」
シャルルの言葉に全員が首を傾げた。時々シャルルは何を言ってるのか分からなくなる。
「じゃあ、もしかしてドロシーはまだ教会から追われてんすか?」
『そこまでは私にも分かりません。私が見れるのは、あくまでもメインキャラクター達の行動履歴なので。おまけに数日経たないと分かりませんしね』
そう言ってシャルルは小さなため息を落とした。リアルタイムで分かればいいのに、と何度思った事か! 特にシエラが断罪されそうになった時など、もう気が気でなかったのだ。
「何でも出来るんだね、シャルルは」
感心したようなアリスの言葉にシャルルは苦笑いを浮かべる。
『そうでもないです。痒い所にいつも手が届かないのでもどかしいですよ。話を戻しましょう。そんな訳で、頑張ってフラグを立てて正しいノーマルエンドに進んでくださいね。こちらも何か分かった事があれば、また連絡します』
そう言って電話は切れた。
「はぁ……とりあえず2と3はやっといて良かったね」
腕組をしてフラグノートを見ながらリアンが言う。
「だな~。しっかしそれまでに乾麺の方をどうにかしとかないとな」
「ああ。あと、その洪水はどこで起こるんだ? アリス」
「東です。オルゾ地方のどっかって書いてました」
「お嬢様……そこが一番重要な所なのでは?」
呆れた視線をアリスに向けたキリの言葉に頷きつつ、カインが何かを思い出したようにポンと手を打った。
「オルゾ? じゃあバーリーに行こうか。確かクラーク家がバーリーの土地買い取ったって言ってたし」
何やらアリスから聞いたという新しいアルコールのレシピをアランが作り試飲した所、クラーク家は大変気に入ったらしい。そこで頼んでもいないのに、どこが一番造りやすいかを試した所、バーリーがとても良かったのだそうだ。
「ビールですか!」
アリスが手を組んで言うと、カインが苦笑いしながら頷いた。この世界では特に飲酒についての規制年齢は設けられていない。もちろん飲みすぎは良くないが、皆ちゃんと節度を守って飲んでいる。特にワインなどは少量であれば色んな効果があると言う事で人気だが、いかんせん高い。
そこで、ビールである。何しろ主原料が安い。おまけに作り方も比較的簡単でアルコール度数も低い。正に庶民のお酒代表だ。
「じゃあアラン引っ張り出して来ないとね。あとはフラグ見つつ予定決めようか」
ノアの言葉に皆頷いた。フラグだけはしっかり踏んでおけ、というシャルルからのお達しだ。
「全員で行くのか?」
「それは無理じゃないかしら。流石に全員で学校を休むのには無理があるわ」
「そうだな……じゃあまた二つに分かれるか。アリス、キャロを頼む」
「もちろんです! しっかり護衛します!」
覆面達の情報をノアから聞いたアリスとキリは、もうためらうことなく動ける。ビシリと敬礼したアリスを頼もしそうな顔をしてキャロラインとライラが見守っていた。
「じゃあ、キャロラインとアリス班とルイス、カイン班に分かれて、オリバーとリー君は悪いけどアリス班に回って。こっちはユーゴとルーイさんが居るからアランはその都度どっちにつけるか決めよう」
「分かったっす。しばらくはこの体制で行くっすか?」
「だね。それじゃあ、僕達は次の休暇でオルゾに行ってくるよ」
こうして、長かった一日が終わった。
翌日、朝食に現れたアランにアリスが何の前触れもなく突然、殴り掛かった(実際に当ててはいないが、アランには相当ショックだった!)
その衝撃にアランのスイッチも無事にオフになった。
「お、驚きました。出来ればもう少し優し目に来て欲しかったです……」
驚きすぎてフードがあるにも関わらずはっきりと喋ったアランに、昨夜の事を話すと、アランは二言返事で了承してくれた。
そっとパープルがアランのフードを取って、突然殴り掛かって来たアリスに地団駄を踏んで抗議している。
「丁度良かったです。僕もバーリーのビール工場がどんな具合か見に行きたかったので」
「じゃ、決まりだな。学園に許可証もらってくるよ。あと、これからもこういう事増えるって校長にも言っとく。すぐに許可くれるだろうし」
そう言ってカインは苦笑いを浮かべた。
校長は今や立派なアリス信者である。というのも、最近ずっと酷かった関節痛が、アリスがチマチマと仲間と共に作り上げたテストで作ったドラム缶で出来た簡易露天風呂のおかげで大分改善したらしい。イーサンも腰痛が収まり、夜よく眠れるようになったと喜んでいた。その噂があっという間に学園内に広まり、あちこちから要望が出たことと、温泉の効果を肌に感じた校長は、早速伝手を使い業者を使って大型の露天風呂を只今建設中である。
そんな訳でアリスのやる事はレインボー隊や識字率アップも含めて良い事尽くしだと勝手に思い込んでしまったのだ。つまり、ここにもアリスの被害者が出てしまった訳だが、自分達で温泉を作らなくても良くなったアリス達からすれば願ってもない事だ。
カインの言う通り校長にそれを伝えるとすぐに許可を出してくれた。校長曰く、『誰かの為に何かをするのに年齢や立場は関係ない。それを行動に移した者を止める術など私は持たない』と、尤もらしい事を言ったそうだが、本心はそのビールとやらが飲んでみたいというものだったと、お土産を遠まわしに頼まれたルイスは苦笑いしていた。
こうして、二班に分かれたルイスチームとキャロラインチームはそれぞれの場所でそれぞれに動き出した。
ノア達が出発の日、やはりアリスはベソベソしていた。ノアの服を掴んで絶対に危ない事はしない、と約束させられたノアは、アリスに色々な物を持たされた。
「兄さま、アリスお手製爆弾いっぱい作ったから、ここに入れとくね! 火つけて投げて少ししたら爆発するから気をつけて! 中にガラスとか釘とか入ってて飛び散るから、投げたらすぐに岩とか壁とかの後ろに逃げてね!」
「う、うん……ありがと。何か一生懸命してるなと思ったら、ずっとこんなの作ってたの?」
不安気なノアにアリスは笑顔で頷いた。いや、もうここまで来たら間違いなく犯罪者だ。
「大丈夫。私の分もいっぱいあるから、兄さまは遠慮なくそれ使って!」
「あ、うん。キリ、お願いね。アリスが暴走したらすぐに止めてね」
「……はい。とりあえず爆弾は取り上げます」
「うん、そうして。それじゃあ、行ってきます。いい子にしてるんだよ、アリス」
「兄さまも気をつけてね!」
鼻をすすったアリスは護身用の為に、とキャロラインとライラにも小さな袋を手渡した。
それを受け取った二人は指先で抓むようにして怯えながら中身は何だと聞いてくる。
「あ、大丈夫です。これは爆発物じゃないです。もしも変な人に襲われそうになったら、この中の粉を相手に振りかけてください。顔めがけて」
「そ、そうしたらどうなるの?」
「う~ん……しばらく動けなくなるかと。あ、でもこれ使う時は絶対に目は閉じていてくださいね! それから息も止めておいてください。はい、リー君にも!」
「いや、だから何が入ってんの⁉ 怖いんだけど!」
「怖くないよ! 中身は香辛料だよ! 唐辛子の粉とか胡椒の粉とか、その他色々だけど、最悪失明するかもだから、気をつけて使ってね!」
そう言って手のひらに置かれた袋を見てリアンの顔が引きつる。
「ねぇキリ、コイツマジで大丈夫なの?」
「……大丈夫ではないかもしれませんが、一応、護身用には最適だと思うので良ければ使ってください」
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