第二百五話 特許制度

「特許! キリ、特許だよ!」

「? なんです? トッキョ?」

「そう! 作り手のオリジナルを守る法律! これが出来れば、小さな会社も潰れなくて済むかもしれない!」


 アリスは特許について詳しく皆に説明し始めた。途中から、話がややこしくなりそうなのでビデオ通話を使ってルイス達も交えたのだが、これに食いついたのはカインだ。


『そういう法律マジで大事! ルイス、王に進言しよう!』

『ま、待て! イマイチよく分からんのだが、つまり手柄を守る法律という事か?』

「そうです! 例えば何かを発明した時に特許を取っておけば、真似は出来ないって言う法律です。それによってオリジナルは守れる。もし使いたければ、オリジナルを作った人にお金を支払って使わせてもらうって感じです。そして何よりも、この特許がある事で国内の技術力も上がるかもしれません」

「どうして?」


 キャロラインが首を傾げる。ライラもリアンもだ。


 けれどカインは何かに気付いたようだ。ポンと手を打ち頷く。


『あー、そう言う事か。つまり、切磋琢磨させるって事だ?』

「はい! その技術が使えないなら、違う技術を使ってって考える人が絶対に出てきます。特に中小企業を守るには、これしか方法が無いんじゃないでしょうか」


 自信満々に言ったアリスの言葉にトーマスがコホンと小さく咳払いする。


『それは言い考えかもしれませんよ、王子。素晴らしいアイデアを出しても、力のある所がその技術を盗み、資金力で根こそぎ奪っていくというのはよくある話です。その特許制度は不思議な魔法を使う者にも有効かもしれません。以前にアラン様やキャロライン様が仰った者達のように、学園を出て居なくてもその法律があれば守ってやることが出来るのではないでしょうか』

『……なるほど。確かにその通りだな。キャロライン、俺がそちらに戻ったら、一緒に王に進言してもらえるか?』

「私? 私が行って何の役に……あ、聖女の?」

『ああ。そしてその法律が通った暁にはノア、お前がまずは今まで開発した物全ての特許を取れ』

『もちろん』

『カインとアランはこの話を宰相とクラーク家にそれとなく予め話しておいてくれ。味方になってくれるとしたら、間違いなくライト家とクラーク家だろうからな』

『おっけ』

「はい」


 いつになくきびきびと言うルイスに、キャロラインやアリスも驚く。いつもはどちらかと言えば控えめなルイスだが、一体フォルスで何があったと言うのか。


『その法律良いですね。うちでも使わせてもらっていいですか?』


 シャルルの言葉にアリスは笑顔で頷く。もちろんだ。誰かの役に立つ法律なら、喜んで導入してもらいたい。


『問題は、線引きをどうするかだね』

「線引き? どういう事? 兄さま」

『例えば鉛筆ね。黒鉛を粉にして粘土と混ぜて木で枠を作って鉛筆になる。でも、どこまでを特許の中に組み込むのかって言うのが重要じゃない? 黒鉛を粉にした時点で特許違反になるのか、それとも枠組みを作って鉛筆にしてしまったら違反になるのかって事』

『アリスちゃん、そこらへんどうなの?』

「ご、ごめんなさい。私もそこまでは詳しくないけど、琴子時代には特許をどこまで皆が自由に使えるかを判断する専門の場所がありました。そこに特許申請っていうのをして、許可が出れば特許が取れるっていう仕組みになってましたよ」

『なるほど。確かにそういうのを判断する機関は必須だね。分かった。それも踏まえて親父と兄貴に相談してみるよ』


 思わぬところから思わぬ法律が出来上がろうとしているが、発明家やクリエイターは誰かが守らなければならないのは、どこの世界でも同じことだ。優秀な発明家が潰されていくだけの世界は、早々に廃れていってしまうだろうから。


 アリスは前世の記憶を元にしているが、他の発明家たちは違う。本当に何もない状態の所から試行錯誤して作り上げていくのだから、もう本当に頭の下がる思いだ。


「うまくいくかしら……」


 心配そうなキャロラインにノアが頷いた。


『大丈夫だと思う。今の王は良くも悪くも独裁的だから、そこに上手く付け込む事が出来れば、すんなり通るんじゃないかな』

『お、お前、人の親を捕まえてだな……』

『今回に限っては褒めてるんだよ。下手に後ろ盾とか言って厄介なお爺さん達が出て来たりとかね、変に力持った枢機卿とかの傀儡みたいな王様だったら、絶対に通らない案だから』


 そういう人達は民の力は全て自分達の為にあるのだと思い込んでいる節がある。だから逆に、ルカのような誰の言う事も聞かない独裁者のような王の方がいい時もあるのだ。まぁ、ルカの場合は殆どが褒められたような事はなかったが。


「そっか……そうよね。私も頑張るわ!」

『……キャロまで……まぁ、そうだな。ノアの言う通りだ。父さんは幸いな事に母さんの言う事しか聞かないからな。最終手段は母さんを丸め込もう』


 大抵の事はステラを通せば何とかなるルカである。特許という法律が出来るのも時間の問題だ。


 さて、この特許。翌日早速アランとカインが実家に相談した所、両家共にあっさりと受け入れてくれた。


 ライト家では力を持ちすぎた貴族を牽制するのにいいと考え、クラーク家はいつもの如く人の為になるという理由だ。この二家が声を上げれば、流石のルカも会議を開かなければならなくなる。


 会議は荒れに荒れた。主にライト家、クラーク家VSオーグ家だ。


 オーグ家のヘンリーは良くも悪くも古き良き公爵家のボンボンだ。キャロラインの父なだけあって高潔ではあるが、平民の事を侮辱している節がある。


 しかしそれはオーグ家だけではない。大体どこの高位貴族もこんな感じだ。だからライト家やクラーク家が異質なのだ。結局どちらに着こうか決めかねた貴族たちは、議題を一旦持ち帰る事にした。


『会議は随分長引いているそうだ。母さんから連絡があったぞ』

「ごめんなさい……お父さまが……」


 キャロラインの元にもオリビアから連絡があったのだ。ヘンリーが反対しているようだ、と。


 申し訳なさから俯いたキャロラインにアリスがキャロラインの頭をヨシヨシと撫でる。


「大丈夫ですよ! キャロライン様のお父さまなんだから!」

「アリス……」


 キャロラインの父だから大丈夫だと言われると、何だか胸が熱くなる。アリスはこれほどまでにキャロラインの事を信頼してくれているというのに、自分は頭を下げて謝るだけか? そう思うと何だか自分自身に腹が立つ。


 翌日、キャロラインは目を閉じて精神統一をすると、スマホを取り出して母に電話をした。

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