百八話 モブ、無事に勘当される
「そうだ。兄貴が来る日程が決まったよ。次の長期休みにこっちに来るってさ」
「あと一か月ってとこか。で、ここに泊まる事になったの?」
「いや、何かスマホ渡してから親父の誤解が大分解けてきたみたいでさ、最近じゃ普通に顔見て話せるらしいんだよね。だからここにも来るけど、泊ってもニ、三日みたい」
あれほど顔は見れない! などと言っていた二人だったが、サリーがどうしても孫の顔が見たいと言い出したのでロビンに内緒で初顔合わせした所、思いのほかルードに似ていたようで泣き出してしまった。そんなサリーを見て孫たちは一生懸命サリーを慰め、その事がきっかけでメグがどれほど自分達の事を孫たちにしっかりと教え込んでくれていたのかを知ったサリーは、意を決してルードと久しぶりに顔を合わせたらしい。
「うまくいったんだ?」
「みたいだよ。母さんと嫁さんがめちゃくちゃ気が合うみたい。今では二人に怒られるって兄貴が嘆いてたよ。母さんに釣られるみたいに親父とも久しぶりに顔合わせたけど、全然大丈夫だったって言ってた。親父は既に孫たちにデレデレみたいだしね」
最近のカインへの電話は半分がドンブリでもう半分が兄の話である。というよりも、孫たちの話である。いい加減聞き飽きたカインが、もういい、と言っても、まぁ聞け、と返ってくる始末だ。
苦笑いを浮かべたカインをアリスとアランが嬉しそうに頷く。
「じゃあそれまでにドンちゃんはしっかり飛べるようにならないとだね」
「キュ!」
心配していたカインの家庭問題も、どうにかこれで片付きそうである。
「ねえカイン、その時にお兄さんも来るよね? その時にドンブリのネームプレート頼めるかな?」
「ああ、いいんじゃない? ていうかこっちから言い出す前に作り出しそうな気がするけどな」
アリス達がチェレアーリに言ってる間、ドンブリを預かっていたのはカインだ。その間ずっと、毎日両親と兄一家から電話があった。もちろん、主役はドンブリである。ドンブリを見てはしゃいでいた兄一家は既にドンブリのグッズを色々作っていそうで怖い。
「そんな訳で休みの一週目に来るって言ってたからよろしく~」
「色々とおもてなしをしないといけないな! 寒い時期だからラーメンを融通してもらおう!」
カインの兄はルイスの兄も同然である。それに、ルードにした王の仕打ちは息子のルイスからしたら許せない事だ。罪滅ぼしという訳ではないが、色々ともてなしたいのである。
「はは、ありがと。きっと喜ぶよ」
友人たちの話をカインがすると、ルードは嬉しそうに聞いてくれる。それが例えルイスの話であっても。
「じゃあ次は俺が。オリバー、喜べ。お前は無事にキャスパーから勘当されたぞ!」
「え⁉」
「監査に入った騎士団から今朝、連絡があったんだ。やはりあの工場で違法のオピリアを製造していたらしい。あの工場で働いていた従業員のほとんどがオピリア中毒に陥っていて、ほとんどの者は中度の中毒で済んでいたようだが、直接オピリアに触れていた従業員は廃人になってしまった者までいたようだ。幸いな事に亡くなった者はいなかったようだが、俺はあまりそれを信用していない」
「どういう事っすか?」
「オピリアを直接製造していたのは、身寄りのない者ばかりだったらしい。死んだらそのまま共同墓地に送られる人達だ。何よりも不自然に入れ替わりがそこだけ激しかったようでな、調べに行った騎士団の連中もその報告は信じてはいなかったようだ。ただ、証拠がない」
悔し気に顔を歪めたルイスにオリバーは視線を伏せた。
「とは言え、オピリアを作っていた事自体は重罪だからな。極刑は免れないだろうな。オリバー、お前はもう自由だ。近いうちに父から褒章の話が来ると思うが、気負わなくていいからな。お前には俺達がついている!」
ドンと胸を叩いたルイスにオリバーは声もなく頷いた。何か話せばまた涙が零れてしまいそうだったのだ。
「そういう訳でアラン、アリス、すまんが中毒になった者達用にあの組紐を作って欲しいんだ」
「もちろんです!」
「当然です」
ルイスの言葉に考えるまでもなくアリスとアランは頷いた。イーサンに口を酸っぱくして言われている事。魔法は、誰かを助ける為に使え。それが出来ないなら魔法は使うな。毎回の授業で言われる事だが、その通りだと思うのだ。
「そうか、良かった。詳しい数はユーゴから入って来次第伝えよう。俺からは以上だ」
「じゃあ次は僕ね。次の長期休みに、オリバーにグランに調査に行ってもらう予定なんだけど、リー君、ダニエルに言って誰か一人、オリバーと一緒に周れそうな人寄越してもらえないかな?」
「設定によるでしょ。どういう設定でいくの?」
「兄妹が一番怪しまれなくていいと思うんだよね。だから最近入った三人娘のうちの誰かがいいんだけど」
「ちょっと待って! え? そんなの聞いてないんすけど?」
偵察なら一人の方が断然動きやすいのだが? そんな思いを込めてノアを見たが、ノアは真顔で首を振った。
「いいや。今回はグランの人に印象付けたいんだ。こういう子達がやってきて、こんな事を言っていたって」
「ど、どういう事っすか?」
「つまり、あなたのようにすぐに忘れられるような井出達では困るという事ですね。では、一番小さいドロシーが適任ではないでしょうか。あの子は印象にかなり残ります」
「いや、はっきり言うっすね。もうちょっと何とかなんないんすか」
「無理だよ。キリは王子にもこうだからね。僕より酷いよね~?」
「そうだぞ、オリバー。キリは俺の頭の中にはおが屑が詰まっているのか? と聞いて来た唯一の男だからな!」
「えぇ……」
顔を引きつらせたオリバーにキリは相変わらずの無表情である。
「仕方がありません。ルイス様はお嬢様とは違うベクトルのお花畑なので。ですが、それも大分改善されてきたようなので安心です」
「どっから目線なんすか。まあ、分かりました。でも俺、正直女の子と二人きりで旅してまわるのは不安しかないんすけど」
今まではどこかに調査に行っても無個性という特徴と『忘却』の魔法を生かして一人きりの調査ばかりだった。それを突然個性を出せと言われても困るし、何よりも女の子と二人となると、最早不安しかない。
「大丈夫です。手さえ出さなければ何とかなります」
「いや、当然っすよね?」
「まあダニエルに聞いてみるよ。ただダニエルも言ってたけど、ドロシーって子は口が利けないんでしょ? 大丈夫なの?」
声が出ない訳ではないらしいから、何か辛い事があって声が出ないのだと思うとやりきれない。そんな子に見知らぬ男と二人で旅をして来いだなんて鬼の所業である。
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