第15話
帰宅、就寝、起床、登校。
逃げるように帰った後、特に何もなかった。
訓練場での出来事は想像していたよりも噂になっていないらしく、お咎めもなければ、食卓での話題にすら上がらなかった。
昨日の放課後は訓練場の見える第二図書室の窓際にいたアストレン兄さんから少しだけ注意を受けたが、それだけだった。
「ルクソル」
何もなく朝を迎えたのは俺だけだったらしい。
見るからに不機嫌な顔をした殿下が登校するなり声をかけてきた。
「どうしたの、ルーカス」
「父上から少しな、....件の魔術の詳細が分かり次第お前も俺と一緒に父上に報告に上がらねばならなくなった」
「うわ、俺には王様と会うなんて荷が重いよ」
無理無理、と首を振るも実際は婚約云々の時にシトレイシアが対談しているので別段荷が重いわけではない。
ただ、こう、この世界の人間は総じて顔面偏差値が高いし王族はその中でも更にイケメンやら美人が多いのでつい数ヶ月ほど前まで平凡に過ごしていた俺としては顔面の圧に慣れないのだ。
「安心しろ、どうせ未登録魔術の解析なんぞ簡単には終わらん」
この世に存在が確認され、魔術の詳細まで分かっているものは普通の魔術だが、誰も扱わない、誰も見たことのないような魔術は未登録魔術として扱われて術者と共に魔術研究家やら魔術の博士やらに囲まれて魔術の解析を行うことになっている。
正直、他人に囲まれるのは大の苦手なシトレイシアをそんな場所に行かせたくないのでリフ先生に相談してぱぱっと終われば万々歳。
今日中に、とまではいかなくとも一週間あれば事足りると信じたいところだ。
放課後、殿下と俺とでリフ先生が使用している部屋に行った。
リフ先生ほどの魔術師となると学園には
中々来ないというのに、魔術関連のものに溢れて生活感すら感じる部屋がある。
「おお、来たか。待ちくたびれたわい」
にこやかに手招きして俺たちを椅子に座らせるリフ先生。
紙や魔石でごっちゃになった作業机を適当に片付け、これで準備万端といった様子だ。
「リフ先生、先に少しいいでしょうか」
「ふむ、よいぞ」
「先日リフ先生にいただいた指輪、改良したはいいのですが生憎書き込みたい魔術の適性がないので高位風魔術を扱える人を教えて欲しいんです」
「ほう?改良とな、....件の魔術は少し後にしようかのぅ。先に指輪を見せてもらおうか」
魔方陣を書き込む手前まで改良を進めた指輪をリフ先生に渡すと、指輪をまじまじと観察されて何となく緊張した。
尊敬する先生に"初心者のお粗末な魔方陣"と罵られたらシトレイシアも俺も落ち込んでしまう。
「....おお、これは凄い。魔石を溶解して魔石同士を........同属性で、....」
冒険譚を聞く少年のように眼を輝かせ、わざわざルーペまで持ち出す様子からして満足してもらえたようだ。
「流石にその小さな魔石に書き加えは難しかったので台座を変え、少し魔石も増やしたので少々成金趣味のような仕上がりになってしまいましたが....」
「若いのにここまで出来るだけ十分じゃ、魔石の溶解で魔石を接続するなんぞ魔術具の専門家でも中々思い付かぬ」
頑張ってよかったぁ....!
魔石の溶解自体はわりと簡単で、これはアストレン兄さんから借りたバーナーみたいな魔術具でどうにかなったが、魔石と魔石を繋げるのは骨が折れる作業だった。
割れるわ折れるわ消散するわでいくつか駄目にしてかなり焦った。
「うむ、よろしい。指輪を渡して正解じゃったな。高位の風魔術が扱えるついでに複合魔術にも詳しい知り合いを呼んでやるわい。あやつは暇じゃからの、寝てなければ呼びつけたら来るはずじゃ」
リフ先生は満足げに何度か頷けば、紙に魔術具を作る際に使うペンでなにかを書き込んだ。
「....正直のぅ、世間に褒め称えられようと複合魔術は使えんでなぁ、扱える前例も少ないせいで文献も中々見つからん。第一王子と才能の原石に頼まれたからには無下には出来んと見栄を張ったはいいものの、わしには紹介しか出来んのじゃ」
殿下が取り出していたループタイを眺めながら申し訳なさそうにすまんのぅ、と言いながら部屋の中にある鳥籠の中の白い鳩に手紙を括り着け、窓を開いて鳩を放った。
「返事が届き次第、おぬしらにも連絡をしよう」
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