第13話
煌々と燃える冷たい炎を目の前に立ち竦む殿下と俺。
「............いやいやいやそんな目で見られても俺も何が何だかわかんねぇ...わからないんですから」
早く説明をしろと催促されるが、俺も良くわからないので勘弁してほしい。
****
この世界の魔術は複合魔術が存在する。
が、その前に基礎となる三属性と稀に適性を持つ者がいる特殊な属性が二属性。
火属性、風属性、水属性に加えて光属性と闇属性がある。
このゲームのヒロインは水属性と風属性に加えて光属性を歌声にのせて魔術を扱うが、三属性を扱えること自体が珍しく、更にその内一つの属性が特殊属性であるのでかなり重宝されていたのを覚えている。
ここで本題に戻るが、複合魔術というのは基礎の三属性と特殊属性を合わせることで扱うことのできる魔術だ。
殿下なら火と光の属性を持つので、今は扱えないが理論上は浄化の炎を扱うことが出来る。
たしかゲームの後半では使っていた。
火と光で浄化の炎、
風と光で雷魔術、
水と光で治癒魔術、
火と闇で呪いの炎、
風と闇で汚染魔術、
水と闇で氷魔術。
まぁ、ヒロインが有しているのは、どのルートでも雷魔術は使っていないし基本的に治癒魔術だろう。
俺....シトレイシアが扱える複合魔術は氷。
学園内を走り回るのに風魔術を使っていたじゃないかと言われそうだが、複合魔術を扱えるほど適性があるわけではなく、良くて中位魔術程度。
水魔術と闇魔術は詠唱さえあれば上位まで扱えるので氷魔術も扱えるというわけだ。
俺の推測でしかないのだが、今殿下が出してしまった燃え盛る冷気の塊は複合魔術の更に複合、もはやゲームの物語終盤で扱うような代物であって、ゲームでは殿下の浄化の炎とヒロインの治癒魔術を複合したものを使っていた。
今後出てくる物語上のボス的なやつを倒すために行使する高度な魔術のはず。
まぁ、それは殿下ルートであって他ルートはまたそれぞれ別の手段を使うけど、極端に言えば必殺技の類いだ。
****
「ルクソル」
「....はい」
他人の目があるからか、男装中の名前を呼ぶ殿下。
巡らしていた思考を一旦止めて殿下の方を見ると、殿下の目は困惑というよりも、何処か輝いているかのような目だった。
「俺は、氷魔術を操るお前が羨ましかった」
存じ上げてますはい。
殿下のルートでヒロインがすべきことは、幼くして死んだ兄が見せてくれた氷魔術をもう一度見せること、殿下の女嫌いを掻い潜って好感度を上げること、物語後半でのイベントを幾つかこなすこと。
殿下は今は亡き兄が見せてくれたという氷魔術を心の底で大層気に入っている。
理由としては、優しかったが病弱だった兄が最後に見せた魔術が氷魔術だったそうな。
スチルでは晴れた日の城の庭に雪を降らせていた。
別に今殿下が使ったのはそんな繊細な魔術じゃない。
氷柱を出すだけの単純な魔術。
だが、本当に燃えているかのように揺らめく冷気から上がる白い粉は光に反射して、一部だけ見ればゲームで見たスチルのようだった。
「お前がループタイの説明をしたときから、俺は多少舞い上がっていたことを認めよう」
認めなくていいです。
おかしいな殿下ルートの過程色々すっ飛ばして変に攻略のキーになるような魔術見せちゃったよ。
シトレイシアは万々歳だと訴えてくるが、俺としてはあまり美味しくない流れだ。
「....魔術とは綺麗なものだな」
やめろ、褒めるなデレるな微笑むな。
女嫌いどうした。
そうだ今男の格好だ。
無愛想はどうした。
好感度爆上げした。
殿下ルートに入って悪いわけじゃない。
ただ、この時期に入るのが駄目なのだ。
婚約者になって、強いて言えば出会って半年も経ってない。
俺はゲーム開始までまだ半年以上あるこの状況で、変にルートに入って今後の物語がゲームと全く違う方向に向かうことを危惧しているのだ。
大丈夫、多分このイベントは好感度がある程度ないと意味がないと心に言い聞かせる。
「そう、ですね....」
満面の笑みを浮かべたいと主張するシトレイシアを宥め、俺はひきつった笑みを浮かべた。
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